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花畑満@異世界からの通信(1)

国立研究開発法人異世界転移研究所

分析研究部特異点解析チーム長

堀井勝久 殿


前略 私の特異点創出成功により、チーム長並びに研究室の皆様には多大なるご迷惑をおかけしていることとお詫び申し上げます。


本来であればこの点についてさらに陳謝するべきであることは承知しておりますが、こちらの状況が切迫しておりますために取り急ぎ要点のみしたためますことをご容赦下さい。


まずは私の転移直後から現在までを手短に報告いたします。


特異点の創出に成功し、シミュレーションどおりに愛車ごと転移できた私は、転移先となったカルダナル草原より自動車でチャハドという街に無事到着しました。

チャハドは人口3万人、異世界の街としては比較的大きな規模の都市で、交通の要所でもあるため情報や物流も非常に充実した街であります。


私はそこで車のトランクに積んでおきました大根53本を売り、106000カロル(日本の貨幣価値にして約8億円)を手にしました。

現在は街の中心にほど近い宿屋に滞在し、異世界の現況を調査しつつ、こちらでの特異点検出並びに創出のための研究準備に着手したところです。


まずは異世界における既存の特異点を調査するべく、先日町のギルドを通してお送りいただいたリルリルフェアリルのDVDの捜索を要請したところ、三日後にチャハドの西12キロ余りの山中より一枚のDVDが発見されたと連絡を受けました。

早速現地調査に赴きましたところ、山中の大木のうろに一時的に生じた時空の歪みがそちらの世界との接点、つまり特異点を創出していることが判明したのですが、検出されるエネルギー波が非常に不安定であるため、数日中に特異点は消滅するだろうという判断に至りました。

それゆえ、次の特異点を検出する前に第一次報告としてこの手紙を急いでしたため、大木の洞に投げ入れるつもりでおります。


この手紙の行き着く先は私にもわかりません。しかしながら、この手紙が人の目に触れ、心ある方によって異転研に転送していただけることに一縷の望みを託すことにいたします。


さて、こちら異世界についてですが、これまでに異世界側からの転移者及び再転移者から提供されている情報とおおむね合致しているというのが転移一週間での印象であります。

文明の発達段階で言えば我々の世界より200年は遡ると思われ、近世以前の中世ヨーロッパの風俗に類似していると思われます。

文字体系は全く異なりますが言語は日本語と酷似しており、大抵の会話は成立します。

幸いこちらで不自由なく暮らせるほどの財源は確保できましたため、私の専門分野である特異点の検出及び創出を研究しつつ、異世界の文化や風俗についてもまた詳しい報告ができればと思っております。


報告といえば、天久保主任研究員への伝達事項があります。以下は個人的な連絡となりますが、併せてここに書き記しますことをご容赦ください。


天久保主任研究員より転移実現の暁にはと依頼されておりました妹君の消息について。

現在定宿としております宿の女将が情報通であるために、20年ほど前に陽葵はるきという少女が転移してきた情報がないか尋ねてみました。

すると女将いわく、チャハドからカルダナル草原を隔てたところにある小村マリシュに転移してきた少女が住んでおり、その娘がハルキという名前だったはずだと。

大変美しい娘に成長し、近隣の地域でも噂になっていたが、一年ほど前に突然ドゥンケルハイトヴァルト闇の森に棲む魔王エルケーニヒと結婚し、闇の森の奥深くへと姿を消したとか。

これについては、マリシュを経由してチャハドに辿り着いた旅人や交易商人たち複数筋からの情報であるため、信ぴょう性は高いとのことです。

私の方でもハルキという女性についてさらなる調査をし、本人とコンタクトを取れる方法を模索するつもりでおりますので、天久保主任研究員には次の報告の機会をお待ちいただければと思います。


引き続き、特異点の検出ならびに創出についての研究を行ってまいります。

今後も特異点を発見できました時にはこのように手紙を転移させ、こちらの状況を報告していくつもりです。

この通信が異転研の皆様の手元へ届くことを願いつつ――


花畑満(チャハド在住)



追伸


今回発生した特異点から発見され、ギルドを介して私の手元に届いたリルリルフェアリルDVDについてですが、6月23日放映分を録画したものでした。

6月16日の次回予告で6月23日は久々のあこやちゃんメイン回ということを知り大変楽しみにしておりましたため、こちらのDVDが時空を超えて私の手元へ届きましたことにあこやちゃんと私の絆の強さを確信せずにはいられません。

あこやちゃん回のDVDが今回の特異点の発見につながったことは、あこやちゃんの愛の導きに感じられ、私としても非常に感慨深いものがあります。


幸いなことに、私の愛車にはいつでもフェアリルに会えるようDVDプレイヤーを搭載しておりましたために、今回のDVDは車内にて無事再生し、あこやちゃん久々のフェアリルチェンジを堪能することができました。

しかしながら、ガソリンに限りがあるためにこの視聴方法を今後継続することは困難と判断し、こちらの世界での電源の確保が急務となっております。

現在、自身の研究と並行し、ギルドの人材紹介を通じて知り合った現地発明家エルトン氏の協力の元、このDVDをこちらの世界で視聴するために発電装置の研究も始めたところです。

研究は順調であり、近いうちに火炎魔法による火力発電で電気を安定的に生み出す発電装置が完成する見通しであります。

特異点の検出のためにも、今後も継続的に転移実験の対象物としてリルリルフェアリルDVDを選定し、転移させていただきたくお願い申し上げます。


それにしても、今回手元に届きましたDVDは、あこやちゃんファンにとっては神回とも言える内容で、あこやちゃんの魅力がこれでもかというほどに詰まった珠玉の物語でした!

特にあこやちゃんがルコさんを傷つけてしまったとドーナツを頬張りながら泣くシーンは切ないながらもあこやちゃんの純粋さや優しさ、可愛らしさが前面に出ており

<以下、作者により割愛>



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