6月2日(金) 私が一本の大根を常にリュックにしのばせている理由

 今日は10人ほどの団体で研究施設見学の予約が入っていて、私が案内することになった。


 団体名は「カクヨム」。なんでも小説投稿サイトの名前だそうで、異世界転移を題材にした小説を書くために転移実験施設を見学したいらしい。

 まあ、この研究所も文科省からの通達で一般の見学者を広く受け入れることになってるから、見てもらう分には構わないけど、広い研究所内を歩いて案内しなくちゃだからかったるい。

 それでもあのゴリラリラのジャングル臭から解放されるだけマシだけど。


 バスで到着したカクヨムご一行様を、振動転移実験施設と衝撃転移実験施設に案内した。

 どちらも転移対象物は大根なんだけど、振動や衝突のエネルギーで小さな時空の歪みを発生させ、そこに大根を放り込むと手品のように大根が消える。

 その様子を小説家の卵だという皆さんが熱心に写真を撮ったりメモを書いたりしていた。


 大根には異世界の空気中成分に反応する虫型センサーが取り付けてあって、その反応で異世界に転移したことを確認している。

 なぜ実験対象を大根にしているのか、前に施設長に聞いたことがあるんだけど、元々はあんまり意味がなかったらしい。

 実験で生み出せる時空の歪みは小さいから、実際に人間の転移が起こりうる歪みの大きさと人間の身長や重量との比率で大根に決めたそうな。


 でも、異世界から奇跡的に再転移して戻ってきた人の経験談では、こちらから日々の実験で転移させている大根は異世界の特別な食材として高値で取り引きされてるらしく、マンドラゴラ以上の希少価値なんだとか。


 それを聞いてから、私はいつ自分に転移が起こっても異世界でお金に困らないよう、通勤リュックの中に大根を一本入れておくようにしている。

 重くなるけど、大根一本でかなり高価な武器や鎧、魔法書なんかが手に入るらしいし、異世界で野垂れ死ぬよりはずっとマシだもんね。


 そうそう、見学で聞いた小説投稿サイト「カクヨム」をさっき覗いてみた。

 今日の実験施設のこととか、もしかしたら私のことなんかを早速小説のネタに書いた人がいるんじゃないかな~なんて期待をしながら。

 でも、異世界ファンタジーっていうジャンルのあまりの作品数の多さに、探し回る気も失せてそっ閉じした。


 小説を書いてる人って意外と多いのね。びっくり。

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