6月24日(土) モヤモヤを吹き飛ばそうと

 梅雨の時期とは思えない爽やかな晴天の一日。

 けれど、雨雲のように低く重たいモヤモヤが私の心を覆っていた。


 天久保さんの妹はるきさんのこと。

 松代さんに嘘をついて断ったこと。


 体を動かしてモヤモヤを吹き飛ばそうと、迷っていたスポーツジムに入会することに決めた。

 松代さんが同じジムに通っていることがネックだったけど、このモヤモヤの中ではそんなことどうでもいいような気がしたんだ。

 スポーツウェアやタオル、シューズをリュックに詰め込んで、自転車でジムへと向かった。


 入会手続きをすませて、早速利用することに。

 こないだ体験したズンバの初級レッスンで、陽気なラテンのリズムに合わせて体を思い切り動かした。

 何も考えずに汗をかくのはやっぱり爽快で、気持ちもだいぶすっきり!


 その後、松代さんと遭遇するんじゃないかとドキドキしながらマシンルームに行くと……。

 やっぱりいた!!

 今日も胸板の盛り上がりが強調されるピチピチのウェアでベンチプレスをやっていた。

 眉骨にのったゲジ眉を寄せ、鼻の穴を丸く広げてフンッ!フンッ!と苦しそうにバーベルを上げ下げしている。

 なんとなく声をかけづらいし、なんて声をかけたらいいのかもわからなくて、気づかないフリをして少し離れたエアロバイクを漕ぎ始めた。


 イヤホンをして、目の前のモニターに映っている音楽番組を観ていたら、嗅ぎ慣れたジャングル臭が強くなった気がして。

 顔を上げると、鼻の穴が広がったままの笑顔のゴリエストがすぐ隣のバイクにまたがっていた。


「梅園さんもこのジムに通ってるの?」そう聞かれて、なんとなく今日入会したばかりとは言えずに「はい」と返事をし、また嘘をついてしまった。

「昨日はお友達の話は聞いてあげられたの?」とも聞かれ、「聞きましたけど、思ったよりヘヴィな話でした」と答えた。


 その感想は嘘じゃないけど、話を聞いた相手はお友達なんかじゃない。


 それなのに、松代さんは玉のような汗を滲ませながら穏やかな笑顔で「梅園さんは優しいんだね。人の痛みを自分のことのように感じているから、そんな浮かない顔をしているんだね」って言った。

「解決してあげることができなくても、お友達の話を聞いてあげるだけできっとその人の心は軽くなっているはずだよ」とも。


 なんだか泣けた。


 額を流れる汗が目に入ったのをいいことに、首にかけたタオルで目元をふいてごまかした。


 晴れ間がさしたはずの心は、さらに分厚い雲に覆われたような気がする。

 明日は笑香えみかと会う予定だから、話を聞いてもらうことにしよう……。

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