toward the happy end with AMAKUBO 【2】

7月7日(金) 七夕の夜の願いごと

今日は七夕。


そんなロマンティックな夜に、なんと私は二人の男性から食事に誘われた!!


まずは朝。

出勤して駐輪場に自転車を停め、本棟に向かって駐車場を歩いているときにばったり天久保さんに会った。

「はるきさんへの手紙書けました?」って聞いたら、三日かけてなんとか昨日書き上げたってことだった。

「無事に届くといいですね!」と言ったら、パッと顔を輝かせた天久保さんに「そうだ!ひまりちゃん、手紙読んでみてくれないかな?」って言われて。

今日の仕事帰りに食事に誘われた✨

しかも、自転車を研究所に置いていけるなら、車に乗せていくし帰りも送るよって!

デート感満載! オフィスラブ感満載!( *´艸`)✨

二つ返事でOKしたっ!!


ところが、昼休みの終わり――。

ミキちゃん達とのランチを片づけてデスクに戻ったら、島には向かいの松代さん一人が座っていたんだけど。

「こないだrun-runの帰りにお誘いした食事、そろそろいかがですか?」ってかしこまって尋ねられた。


ドキドキしたけど……ちょっと待って!?


私、今晩の天久保さんとの食事がデートみたい♡ってウキウキしているのに、松代さんからのお誘いまで受けたら、それって二股になるんじゃ……。


いや、どちらかとお付き合いしているわけではないし、浮気とかそういうんじゃないはずだ。


でも。


松代さんは純粋にいい人だ。


私の心が天久保さんに向かっている今、軽い気持ちでその誘いを受けてしまうのは、松代さんに対して失礼な気がする――。


心がちくんと痛んだけれど、ここで好い顔をすると後からもっと心が痛くなるかもしれない。


そう思って、「ごめんなさい」って頭を下げた。


「やっぱりそうだよね。こんなオッサンとじゃ……」

そんな風に引き下がる松代さんに、申し訳ないと思いながらもイラっとした。


「そういうことじゃないです! 松代さんは素敵な人です。お世辞じゃなくそう思ってます。

けど、私、好きな人がいるんです。片想いですけど、そんな中途半端な状態でお誘いを受けるのは申し訳ないと思って」


はっきりとそう告げたら、少し驚いたようにゲジ眉を上げた松代さん。

「そっか。僕のことをそんな風に言ってくれて嬉しいよ。ありがとう」

そう言ったときは浅黒い頬が少し赤くなったように見えたけど。

「梅園さんの気持ち、伝わるといいね。がんばって」

ジャングル臭をほのかに漂わせつつもダンディな微笑みで右手を差し出してきた。

私は「はい!がんばります!」って、毛深いその手をしっかりと握り返した。



その後、仕事帰りに天久保さんの車に乗せてもらい、ロシア風家庭料理レストラン『薔薇来家バラライカ』へ。

ピロシキやボルシチを食べながら他愛ない話をし、食後のロシアンティーを飲んでいる時に手紙を手渡された。


天久保さんの妹への思い、兄としての気遣いに胸が締め付けられて――

思わず涙がこぼれた。


「ひまりちゃんを泣かせてしまってごめん。

でも、それって僕の気持ちがこの手紙でちゃんと伝わりそうってことかな」


ハンカチをバッグから取り出そうとしたら、天久保さんが先にポケットから自分のハンカチを差し出してそう微笑んだ。

好意に甘えて出されたハンカチを受け取って涙を拭いた。

(さすがに鼻水までは拭けなかった!)


「天久保さんの思いがすごく伝わってきます」

そう伝えると、ほっとしたような笑顔になって「はるきもそうやって涙を流してくれるだろうか」と言う。


やっぱり、私をはるきさんと重ねて見ているんだ……。


がっかりしたけれど、今日の松代さんとの握手を思い出した。


松代さんにも励ましてもらったんだ!

がんばるって決めたんだ!


お店からの帰りに、天久保さんの車で家まで送ってもらったとき。


私は勇気を出した!!


「あの手紙なら、きっとはるきさんにも天久保さんの気持ちが届くと思います。

でも……。私ははるきさんじゃない。

はるきさんが異世界で無事に生きているとわかったのであれば、妹としてじゃなく、私と向き合ってもらえませんか?」


「えっ……」


戸惑う天久保さんが答えを出す前に「ありがとうございましたっ!おやすみなさい!」と車を降りた。


精一杯の笑顔で手を振ると、ウインドウ越しにためらいがちな笑顔で天久保さんも手を振ってくれた。


言ってしまった……!!!


週明け、どんな顔をして会えばいいのかわからないけれど、もうなるようになれって思うしかないっ!!(>_<)


松代さんに背中を押してもらったおかげで一歩前へ進んだ恋。


七夕の夜空を見上げながら「この恋が叶いますように」って手を合わせてから家へと入ったのだった。




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