toward the happy end with GORIEST 【2】

7月7日(金) この三人の取り合わせって……!?

七夕の今日。

仕事帰りに松代さんと私で「天久保さんを励ます会」を催す予定だった。


のだけど――


前日、群馬県で起こったゲリラ豪雨で行方不明になった老人が異世界転移した可能性が高いとのことで、天久保さんをはじめ災害転移研究チームの研究員たちは本日現地調査に行ってしまった。


「肝心の天久保君がいないし、来週に延期しようか」という松代さんの言葉に、なぜだかすごくがっかりしながらも「そうですね」って答えた私。


定時に仕事を終えて、自転車で帰ろうとした時のことだった。


研究所の門のところで、きれいな女性に「すみません」と呼び止められて。

「松代純也に会いたいのですが、こちらで待っていれば会えますか」と尋ねられた!!


よくよく見れば、少し派手めのアラサーくらいの美女。

松代さんとどういう関係なんだろう???


「会えるとは思いますけど、何時ごろ出てくるか……」と答えた瞬間、「加奈子っ!?」と松代さんの声がした!


自転車にまたがったままで振り向くと、仕事を上がった松代さんが驚いた顔で立ち尽くしていた。

加奈子と呼ばれた女性の方へ向き直ると、なんと彼女は涙を流して「会いたかった……!」って!!!


「今さらこんなところまで来てどうしたんだ?」

私の自転車のすぐ横まで歩み寄ってきた松代さん。

こういう時の自分がどう振る舞えばいいのかわからなかった。


「お先に失礼しまーす」ってのん気に去るにはあまりにも気になりすぎる!!

かと言って込み入っていそうな雰囲気なのにその場に居続けるのもKYだよね……。


後ろ髪を痛いくらいに引かれながらも、ペダルに足をかけてそっと去ろうとしたときだった。


「ゴリラ顔の子供を産めないなんて言ってごめんなさいっ!!」


泣きながら言った彼女の言葉があまりに衝撃的で、ペダルから足を踏み外して転んでしまったーーー!!!


「あっ!?梅園さん、大丈夫!?」

衝撃的な言葉を前にしても私の心配をしてくれる松代さん。

けれども彼女は関係なしに言葉を続けていた。


「あの時は私も若かったの。貴方の人柄を愛して婚約までしたはずなのに、マリッジブルーになって、貴方に似たゴリラ顔の子供が生まれても愛せるだろうかって不安になって……。

貴方にも、貴方のご家族や職場にも迷惑をかけたのに、今さらって思うだろうけれど。

でも! やっぱり私には貴方しかいないの! 貴方以上に素敵な男性なんていなかった!!」


足がずきずきと痛むけど、そんな痛む足よりも私の神経は耳に集中していた。


松代さんに婚約までしていた彼女がいたなんて!

しかもゴリラ顔を理由に婚約破棄されていたなんて!!


「確かに、五年前に君からその理由を聞かされた時はとてもショックだったけれど……。

遺伝子ばかりは僕の努力ではどうしようもないと思って諦めたんだ。

加奈子は僕に似た子供が生まれたら愛せる自信がないんだろう?」

「五年前はそう思ったわ! でも今なら自信を持って言える! 息子だって、娘だって、貴方のように心根が美しい人間に育てれば、顔なんて関係ないのよ!」


「どうして最初からそう思えなかったんですか!?」


自転車を起こした私は、思わず口をはさんでしまった。

松代さんも加奈子さんも目を丸くして私を見ていた。

でも、私ももう自分で自分が止められなかった。


「私は貴女より若いけど、松代さんが心の美しいとても素敵な人だって知ってます! どんな顔をしていたって、たとえゴリラよりもゴリラ寄りの風貌をしていたって、松代さんが素晴らしい人だってことは揺るぎません。そんな人の子供だったら、子ゴリラだって愛おしくて仕方ないと思うはずですっ!」


……こうして日記に書き留めると、自分が言った言葉は改めてとっても失礼だったなぁって反省する(゚д゚lll)

けれど、その時は、松代さんも加奈子さんも、呆然として私を見つめるだけだった。


「こんな若くて可愛らしい恋人がすでにいたのね。

私は気づくのが遅すぎた……」


加奈子さんはそう言って泣き崩れた。

否定するのも余計に話をややこしくしそうだから、私はそのまま黙っていた。


トンデモ展開にさすがの松代さんも落ち着きを失っていたけれど、

「梅園さん、その足じゃ自転車は漕げないよね。

加奈子もTXで東京まで戻るんだろう?

とりあえず二人ともタクシーに乗ろう」

そう言って携帯を取り出し、タクシーを呼んでくれた。


松代さんと加奈子さんと私でタクシーに乗る。

この三人の取り合わせで一台のタクシーに乗るってものすごく気まずいんですけど!!

最初は泣きじゃくっていた加奈子さんもセンター駅に着く頃にはいくらか落ち着いたようで、「一人で帰れるから」とタクシーを降りていった。


松代さんは自宅を通り越して私の家までタクシーに同乗してくれた。


けど――


私のさっきの言葉については何もコメントしてこなかったし、私自身も頭の中の整理がつかないままだったので、二人ともずっと無言で乗っていた。


こうして整理しながら書いてみると……


私、松代さんのことを好きだって言ってしまったってことなんだろうか!?


整理しながら書いたつもりがますます混乱してきた……(;'∀')

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