25 先輩とのデートって最高のシチュエーションだヨネ!

 始業式が終わり、桐片に祭のことを聞こうか迷いやめた。第一に人が多い。そんなの怖すぎる。自身のくそ雑魚さを痛感した瞬間である。

 俺は気配を遮断して教室から脱出し階段を降りようとする。すると、後ろから声を掛けられる。

「結汰くん…」

 この少し控えめなで可愛らしい声は!もしやっ!

「どうしたんですか?塔ヶ崎先輩」

 俺の中のヒロイン塔ヶ崎先輩である。今日も今日とて制服の下にゴスロリ衣装を着込んでいる。もはや慣れてむしろ可愛い。

「あの…」

「?」

「祭りの時の…約束…」

 祭りの時の約束?ああ、お礼をするって話か。桐片の野郎のせいですっかり忘れてしまっていた。

「今日お礼…して貰っていい、かな」

「ええ、構いませんよ。むしろいつでも頼ってください!」

 俺は意気込んでそう言う。もうね、塔ヶ崎先輩のためなら全財産使っちゃう!

「うん…」

 塔ヶ崎先輩は嬉しそうに微笑んだ。


 →→→→


 さて、最初に来たのは学校から近いゲームセンターだった。騒がしいゲームのサウンドに耳が痛くなる。

「あれ…」

 塔ヶ崎先輩が指さした先は、クレーンゲームだった。

 クレーンゲーム。昔の俺にとっては賽銭箱であり、そして今もその認識は変わらない。

 ちなみにクレーンゲームの中身は、あなたの心を奪っちゃう♡でお馴染みの『恋☆これ!』である。

「いや、先輩。あれは無理ですよ」

「ノー…、プロブレム…」

 塔ヶ崎先輩は財布から百円を取り出し、台に向かう。百円とは、軽く触る程度かな。そう思って俺も塔ヶ崎先輩について行く。

 からんと軽快な音を立てて百円が硬化挿入口に入っていった。そして中を見つめること数秒。塔ヶ崎先輩はボタンを押し始める。景品のタグに見事ひっかけ、

「おおっ!」

 落ちた。思わず驚きの声が漏れたほど手際がよかった。

「たまに、来るから…」

「それでも流石ですよ!いや、本当に凄いな」

「そう…、かな?」

 えへへと照れ笑いをする塔ヶ崎先輩が眩しい。この笑顔で世界が変わると思うの。

「つぎ、いこ…」

 塔ヶ崎先輩に手を引かれ着いた場所は、リア充の巣窟ことプリクラエリアだった。

「ここ…」

 プリクラ。それはリア充達が携帯や筆箱に貼り付け自分は彼氏彼女がいると自己主張をする時に使う写真だ。

 俺も、とうとうリア充に!?

「じゃなくて、そこ…」

 先輩がクイクイと袖を引っ張って俺に場所を教えてくれた。贄の血を飲ませよ!とおどろおどろしいフォントのキャッチコピー。なんとも厨二心あふるキャッチコピーなのだろうかと本体を見るとプリクラだった。

 え、これプリクラなのか。さ、最近のプリクラは進化してるなぁ。

「一人で撮ったけど…、やっぱり二人の方が、楽しいと思って…」

「よし行きましょう」

 塔ヶ崎先輩とツーショット?最高じゃん?死んでもええじゃん?

 早速俺はお金を入れる。五百円って高くね?そう思いつつ俺は去っていく五百円を見守る。

 機械の支持に従い撮影すること十数分。ようやく終わり、外の機会でデコレーションを始める。

「うーん。写真写り悪いなぁ」

 自分の顔を見て軽くドン引きしてしまう。不気味を通り越して気持ち悪い。対して塔ヶ崎先輩はもはや美人。可愛い。もはや言葉には言い表せない。

「そんなこと…、ない。とても、カッコイイ…」

 その言葉を聞いて、俺の口角が上がるのが分かる。ダメだ。幸せすぎて吐きそう。

 そして出来上がっ写真を半分俺に手渡す。

「ふふふ…」

「どうしました?」

「嬉しくて…」

 私もでごぜぇます。もはや昇天一歩手前だ。さてそんなことはいざ知らず、塔ヶ崎先輩はさらに俺を連れ回す。最高ですね。

 次に行ったのは、俺と塔ヶ崎先輩行きつけの喫茶店である。店長が塔ヶ崎先輩の叔父で個人経営していることもあり、色々サービスをしてくれるのだ。

 当初ここに来た時はキョドり方が半端ない状態だったが、数回来てやっとこさ空気に馴染めた。

「いつ来てもここのホットケーキは美味しいですね!」

 外はサクッ中はふわふわ。正しく王道のホットケーキだ。

「うん…」

 塔ヶ崎先輩もこくこくと頷く。口いっぱいに頬張る姿はハムスターを連想させる。

「ははっ!そう言ってくれると売れない喫茶店を続ける気になるよ」

 塔ヶ崎先輩の叔父(以後マスターと呼ぼう)が豪快に笑う。

「客入り上々じゃないですか」

「まぁね!」

 謙遜をせずにニマッと爽やかに頷く。この人は塔ヶ崎先輩と違い表情が豊かだ。けれどまとう雰囲気は塔ヶ崎先輩そっくりである。

「それより、颯乃はやのは迷惑かけてないかい?いきなりカッコイイ決めゼリフいうから」

「叔父さんっ…!」

 塔ヶ崎先輩が顔を真っ赤にしてミックスジュースを勢いよく啜る。はい可愛い。

「迷惑だなんて。とんでもない!いつも助けられてばかりですよ」

「そうだろうそうだろう!オレもよく助けられてるからね!」

 大の大人がそれでいいのだろうか。訝しげな視線を投げかけると、マスターは横目を逸らしてならない口笛を吹く。

 しばらく談笑を楽しみ、俺と塔ヶ崎先輩は店を出る。

「今日は…ありがとう…」

「いえいえ。俺の方こそ」

「良かった…」

「…?」

「結汰君、元気なかったみたいだし…」

 どうも気を遣わせてたのは俺ほうだったらしい。

「お祭りの、あとから急に、神妙な顔ばかりしてるから…」

「はは。やっぱり分かりますか?」

 首を縦に振り優しい微笑みを俺に向ける。その微笑みはまるで、保護者のようで。

「でも、一緒に遊びたかったのは…ウチの、ワガママでもある、かな」

「お陰様で元気も出ましたよ。それに放課後ならいつでもフリーなんで誘ってくれればいつでも」

「本当に?」

 不意にこの言葉にドキリとする。。いつか聞いた言葉。誰からの言葉だったのか。だけどそれを聞くと、胸の鼓動が早くなる。

「結花ちゃんとの…約束を、破ってでも…?」

「え?」

 俺は思わず塔ヶ崎先輩と目を合わせてしまう。いつしか、気味悪がられて目を合わせなくなってしまった癖さえ忘れ、目を合わせてしまう。

「結汰君は、結花ちゃんのことを…」

 俺は固唾を飲んでその先の言葉を一言一句逃さぬようにと耳を傾ける。しかし、それ以降の言葉は出ることは無かった。

「ごめんね…。意地悪しちゃった…」

「え、あのっ」

「じゃあ、また明日…」

 塔ヶ崎先輩は踵を返して小走りで帰っていった。俺は呆然と立ちつくし、ただ遠くなっていく塔ヶ崎先輩の背中を見送ることしかできなかった。

 一体、何だったのか。(分かってるくせに)

 何が何だか分からない。(知ってるくせに)

 あの言い方はまるで(まるで?)

 まるで…(----)


 →→→→


 あの後俺はどう帰ったかは覚えていない。思考がまともにまとまらない。結花の声も遠く、俺は気づけばベットにいた。

 後日、結花曰く死んだ目がさらに腐敗を進めた感じだとか。いや、それはさすがに分かりにくいわ。

 なにか、大切なものを忘れているようで気が気でならなかった。

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妹がパンツを盗むのをやめてくれない! 灰殻しじみ @suzuyuki

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