7 学校と家のノリってどちらかと言うと家のノリの方が乗っかりやすいヨネ!!
季節は進み、ジメジメと頭からキノコでも生えそうな勢いの湿度。梅雨である。空模様は鈍色で、今にも雨が降りそうだ。
「こんな日に君を見てると更に気が滅入るわ」
いつも通り古海の毒舌が炸裂し俺の豆腐メンタルを豆腐ハンバーグに変えていく。
今はLHR。今日はいつもより騒がしい。
「そうかい。それより佐原って知ってるか?」
「ええ。女子の間でも人気らしいわね。どっからどう見ても普通の顔なのに。と言うより皆同じ顔じゃない。あ、」
そう言って古海は俺を見て目をそらす。
「おい。あ、って何だよ。あれか?俺の顔は皆と違うってか?俺をdisってんだな?そうだな?」
「詭弁も甚だしいわね。それじゃまるで、自分から僕の顔はゴキブリより醜いって言ってるようなものよ?」
「俺はそこまで言った覚えはねぇよ」
こいつはもう少し歯に衣を着せるべきだ。俺だから突っ込めるけど、大半の生徒と話せば絶対メンタルをズッタズタにしていくだろこいつ。
「大丈夫よ。そんな顔でも妹さんと塔ヶ崎先輩には好かれてるのだから」
妹さんと塔ヶ崎先輩のワードのところだけゾッとするほどの冷たさを感じたのは気のせいだろう。と言うより気のせいだと自身に言い聞かせる。
「それで、佐原後輩と妹さんを付き合わせる方針でいいのかしら?」
「ああ。で、それに持ってこいのイベントがあるんだ」
俺は黒板を見る。それに釣られて古海も黒板を見た。黒板に書かれていたのは、体育祭の種目決めである。俺無論簡単な障害物競走に出るつもりなのだが。
「佐原の出場する種目が気になる」
「成程。合同種目ね」
「そゆこと」
この高校には体育祭の伝統とも言える騎馬戦がある。この騎馬戦は全学年合同種目で、騎馬戦を見るがために他の県から来る人もいるくらいだ。
「あいつも運動部のはずだから、騎馬戦に出るだろ」
「それはいいのだけれど、君は普通出れないわよ」
「え?」
「運動部でもなしましてや外部活動をしてる訳でもない。ただの帰宅部。騎馬戦に出られるかしら?」
ぐうの音も出ない正論。さてさて。ここで俺がとるべき行動は、
「き、桐片に土下座して頼むから…」
「はぁ…。君にはプライドというものが無いのかしら…」
こめかみ辺りを抑えてため息をつく古海。はっはっは!プライド?そんなモン既に母親の体内に置いてきてるわ。
「いいわ。私が頼んできてあげる」
「え、おいやめとけって!お前じゃあのリア充たちのメンタルをズッタズタにして帰ってくる未来しか見えないから!」
「ひどいことを言ってる自覚はある?」
本当のことなのでしょうがないでしょう?俺はそんな言葉を飲み込みつつ、今にもリア充空間に突撃せんとする古海を言葉で抑制をかける。
「問題ないから!何とかするから!な?俺が自分でやるから大丈夫だって!」
かなり不機嫌な顔で古海は納得し、渋々引き下がってくれた。これでもみ合いでもなってしまえば俺は確実に負けてた。男は愚か、同年代の女子にも力でねじ伏せられる自信がある。か弱いのよ、俺。メンタルは豆腐、肉体はプリン。もう分からんなこれ。
さて、大丈夫だと言った矢先だが策という策が思い浮かばない。どうすればいいものか。
頭を悩ませ、ふと気づけば目の前に桐片が立っていた。
「よっ」
神々しく光る爽やかスマイルに俺は目を細めつつ返事をする。
「おう…」
「川端はなんの種目に出るんだ?」
「いや、まだ決めてない…」
「なら丁度よかった。野球部の奴が足痛めてて、体育祭に間に合わないんだ。代わりに騎馬戦入ってくれるか?」
ね、願ってもないチャンスが来たァァ!?やはり俺の常の行動が良かったからか…。善行を重ねてきて良かった…。
「まぁ、良いけど…」
人と話すことにあまり慣れていないため、俺はしどろもどろ答える。俺の挙動が少しおかしいと感じたのか、桐片は遠慮するように言う。
「嫌なら無理して入らなくてもいいからな?」
「何の問題もない」
そして俺ついでに聞いておく。
「テニス部の佐原って知ってるか?」
俺の唐突な質問に驚いたふうもなく、桐片は爽やかに答える。
「ああ。知ってる。佐原がどうかしたのか?」
「いや、騎馬戦に出てんのかなぁって」
「んー?確か出るとは言ってたな。確実じゃないけど、出る可能性はかなり高いと思うな」
模範解答のような答えに俺は少なからず安堵する。桐片はイケメンで気に食わないが、どこかボッチと同じ周りの人間を観察することに長けていると見た。バカと天才は紙一重と言うが、ボッチとリア充も紙一重なのかもしれない。あれ?じゃあ、俺ってリア充じゃね?もうリア充超えてね?が、よく良く考えれば友達一人いない奴が強がってるっぽく聞こえるのでこれ以上の思考は一切やめた。
あたりを見渡すと、いつの間にか古海は自分の席に戻っていた。忍者かよあいつは。
「じゃあ、騎馬戦宜しくな」
白い歯を見せつけるように笑ってリア充の群れへと帰っていった。
途端に疲れがどっと襲いかかってくる。
「はぁ、人と話すのって案外疲れるな」
空気をこう何年もやっていると話し方自体があっているか気になる。後は、佐原と同じ組にならなきゃいいけど。
→→→
「お兄ちゃんに問題です!」
デデン!と口でSEをしながら結花は帰ってきた俺の前に立つ。両手に俺のボクサーパンツを持ちながら…。
「おまっ!やめろぉ!」
ばっと結花に飛びかかるもいともたやすく避けられる。
「まあまあ。おちけつおちけつ」
「女の子がそんなこと言うんじゃありません!」
今尚もパンツを両手でひらひらと揺らし俺を煽る結花。
「問題だよ。お兄ちゃん!さて、この両手に持っているのはお兄ちゃんのボクサーパンツです」
「知ってるから。見たらわかるから」
「では問題です!デデン!どちらが使用済みのパンツでしょうか!もし使用済みのパンツを当てたらお兄ちゃんのパンツは今後盗らないよ!」
たゆんと揺れる胸を反らし、ドヤ顔で玄関に立つ。
「くっ!いいぜ、やってやる!」
妹がこういうノリが来るとついつい乗ってしまうのが兄の悲しき性。でもまぁ、楽しいので結果オーライ。パンツを除いて、な。
「ちなみに見るだけで当ててね!匂いを嗅ぐのはダメ絶対!もし、ルール違反をするようなら、週5でお兄ちゃんのパンツを盗るからね!」
おいやめて差し上げろ。お兄ちゃんのパンツ最近なくなりすぎて母さんが怪しんでるんだよ!自分でパンツ買うのって結構お金かかるからね!?
「ど、どっちだ…!?」
俺はよく観察する。シワが多ければ使いこなしてる感があるが、未使用でもクシャクシャにして棚に入れればシワは大した証拠になり得ない。と言うか、結花はそれを分かっていてやっているかもしれない。たまにあいつは小悪魔になるのだ。
俺は考えに考えた結果、
「左だぁ!!」
ズビシッと左のパンツを指さす。決まった…。俺は勝ち誇ったように、結花に歩み寄る。
「お兄ちゃん…」
「あん?」
しばらくの間動かなかった結花が顔を上げて俺を見る。
そしていい笑顔で一言告げる。
「外れ☆」
「うせ、やろ…!?」
「と言うかー、両方未使用?みたいな?」
「てんめ、このクソガキーーーー!!」
「あははは!ひーっかかったー!」
結花はバタバタと階段を駆け上がり自分の部屋へと逃げ込んでいった。
俺のパンツ、返してください…。切実にそう思うのだった。
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