13 地味な生徒でも運動神経いい生徒っているヨネ!
障害物競走の列に並び、今やっている競技が終わるのを待っている間、俺は黙って競技を眺めていた。誰とも話さないからね!
「あ」
俺はポツリとつぶやく。障害物競走の前は確か百メートル走だった。そう。文系やら帰宅部にはきつい百メートル走だ。
俺が呟いた理由は、百メートル走に塔ヶ崎先輩がいたからである。
見た目ひょろっとしていて走るのは遅いように思える。ていうかあの人絶対運動苦手だろ。
しばらくして、塔ヶ崎先輩の番がやって来る。塔ヶ崎先輩本人は飄々としている。もしかしていじめとか?あの人ちょっと(かなりですけど)変わっているからいじめられていることも考えられる。
塔ヶ崎先輩は外側。不利な位置からのスタート。これは。俺の危惧も知らずに百メートル走担当の先生が爆竹に火薬を詰める。
「位置について!よーい…」
パンッ!と爆竹が鳴る。さて予想通り塔ヶ崎先輩は遅い。最後尾を走っていた。まぁ、そうですよね。百メートルはトラック一周しなければならない。運動することの無い塔ヶ崎先輩には相当きつい
「はっ?」
トラック半周した所で塔ヶ崎先輩は思い切り走り出す。しかも、速い。次々と前に走る生徒を抜かしていく。そして、堂々の1位でゴールイン。マジすか。俺は呆然としてしまう。普通に速かった。
塔ヶ崎先輩はキョロキョロと首を振っていた。何かを探しているようだ。
その様子を見ていた俺は塔ヶ崎先輩と目が合う。すると嬉しそうにこっちを見て手を振る。可愛い。身長が小さいのに頑張って飛び跳ねる塔ヶ崎先輩可愛い。
入退場門まで退場してきた塔ヶ崎先輩とハチ合わせする。
「どう、だった?」
あれだけ走っていたのに息切れ一つ起こしていない。凄すぎませんかね?俺なら疲労で当分動かないぞ。
「えっと、凄かったですね。先輩、足速かったんですか?」
「うん。一応、中学で、陸上部の全国大会、に出てたから…」
クラスにひとりはいるよね。運動出来そうにないやつがめちゃくちゃ運動神経いいって。
でもまぁ影が薄いから大概忘れられる。俺も昔はね。…嫌な記憶がフラッシュバックしそうなのでこの話はやめよう。
塔ヶ崎先輩は何かを期待するような目でこちらを見る。例えるなら待ての状態を維持している仔犬みたいな。
「えーと」
「わくわく」
とうとう自らわくわくと言っている。どうすればいいのか。この局面は妹の時にもあった。なにか手伝いをすれば褒めてくれと言わんばかりに俺を見てきたものだ。
とりあえず頭を撫でておく。いや、これはあれだよ。仔犬にご褒美をあげている感覚で別にやましいことを考えているわけじゃないから。…考えているわけじゃないから!
が、男という生き物は煩悩をなくすことが出来ないもので、シャンプーの香りがするなーとか髪がサラサラだなーとか、小さくて可愛いなーとか…。
もう無理です。俺は慌てて手を離す。
「もう障害物競走の準備が出来てるのでそろそろ行きますね!」
俺はそのまま足早に列に戻って言った。
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