22 海って泳ぐより砂浜で遊ぶこと多いヨネ!
「はー!もうお腹いっぱいだよ!」
結花はお腹あたりをさする。古海や塔ヶ崎先輩も満足したようだ。かく言う俺は、1時間半ほど肉を焼き続けた。おかげで腕が痺れている。
「でもお兄ちゃん」
「あん?」
「インスタ映えを気にしてるかのような野菜の切り方やめといた方がいいと思うよ」
それに便乗して古海も頷く。
「ええ。玉ねぎを星型とかハート型に切ったりね」
「ええー…」
良かれと思ってやったのだが?泣きそうなんだけど。が、塔ヶ崎先輩は俺の手を握り、一言。
「うちは…、好き…だよ?」
「毎日味噌汁作ってください」
「ふぇっ!?」
あれ?違った?そのままの流れでプロポーズして、振られるまでのオチを想定してたのに。
「ああ、野菜の切り方ね!ありがとうございます!じゃあ今度お弁当二人分作ってきますんで、一緒に食べましょう」
「うん…!」
ああー!これだよこれこれ!塔ヶ崎先輩がヒロインだヨネ!もういいわ。塔ヶ崎先輩が尊いわ。
「でいっ!」
太ももに鈍痛が走る。結花が俺の太ももを蹴り飛ばしたのだ。おのれ!我が唯一無二の妹め!塔ヶ崎先輩とのひと時をっ!
「さあ!泳ぐよー!!」
結花が塔ヶ崎先輩の腕をつかみ海まで引きずっていく。そのあとを追うように古海も海に向かった。
無論俺は荷物番である。プライベートビーチだから人がいないだろ?いやいや、蟹から守ってんのさ。まぁ、単に海に入りたくないということなのだが。
俺は基本、海に来ても泳がない。むしろ砂浜で遊ぶ。そう。
「砂のお城を作るぜ!」
俺は荷物の中からバケツやプリンの容器、スコップなどを取り出して、砂を集め始める。高校生にもなってやんねぇよそんなのって思ったやつは大体リア充。砂の城作りは1人でも楽しめる至高の遊び。
あれはそう、中三の夏だったか。クラス全員強制参加の海開きに参加させられた時のこと。(もちろん体調不良で休むと言ったのだが、先生を持ち出し、内申点下げると言われたので仕方なく行った)
彼ら彼女らが黄色い歓喜の声を上げている中、俺は誰とも絡まず絡まれず、手持ち無沙汰だった。見渡してふと、小さな子が砂のお城を作っているのが見えた。そこでピンと来た。お城作ってれば暇つぶし出来るのではないかと。
早速始めたのだが、これがなかなか難しい。水分を含ませても暑さのせいですぐに乾く。ボロボロと崩れる砂。俺の心に似ていたからか、親近感があった。
結局その日、一日中作ったが完成することは無かった。が、謎の達成感に包まれ楽しかったのを覚えている。
その後の夕方、夏の魔力のせいか、夏の夕陽の雰囲気のせいか、恋仲になってるやつが多かった。俺は次にこんな機会があるのならばバックれようと心の奥深くで誓ったのだった。
「お兄ちゃんー!泳がないのー?」
「あー?お前らで遊んどけー。お兄ちゃんは砂浜と楽しいひと時を過ごすから」
すると、ピューと俺の顔面に水がかかる。冷たくて、そしてしょっぱい。
「ぶっ!誰だちくしょう!」
「ふん。無様ね?お砂さんと遊ぶのでしょう?水かけられたくらいで動揺なんかしちゃって」
古海が水鉄砲を片手にニンマリと笑う。あ、あいつぅ!!俺がなんもしてこない小動物とでも言いたげな顔じゃあないか!
「ふ、ふくくく」
「良い、笑い…」
おっと、思わず中二病チックな笑いが出てしまった。いいだろう。この俺に水をかけたこと、後悔して頂こう。
「俺もなぁ、何も用意してないわけねぇだろ?」
背中に背負うは水がたんまり入ったタンク。そしてそこから伸びるホース。そして、電動で水を押し出す浪漫溢れる、巨大な銃身!
「ふははははは!!てめぇらはこいつの前では無力っ!なのだぁ!!」
「げっ!?この間通販で買ってたものって…」
「そうだっ!いや、ほんと高かったわ」
「君は馬鹿なのかしら」
「お、おおー!」
結花と古海は呆れ、塔ヶ崎先輩は感嘆の声を上げる。塔ヶ崎先輩がパシャパシャと海から上がり、俺の水鉄砲を眺める。
「無骨な見た目、西洋的模様、そしてこの浪漫溢れる大きな銃身っ!かっこいいっ!」
「さすが塔ヶ崎先輩!いやぁ、適当に浮き輪探してたら見つけちゃって。これは思わず買わねばっ!って衝撃が走ったんすよ」
と、しばらく塔ヶ崎先輩とこの水鉄砲の素晴らしさを語り合う。すると、
「ええい!いい加減にしろー!!」
結花が手動ポンプの水鉄砲で俺を撃ち抜く。しかもまた顔面だ。今日1番攻撃受けてるのって俺の顔じゃね?
「古海先輩!あのラブラブ中二病患者たちを一網打尽にしてやりますよ!」
「任せてちょうだい。人の仲が裂けるのを見るのって楽しいものね」
やべぇ。特に古海がやべぇ。あいつ社会的に以下略。
「塔ヶ崎先輩!行きますよ!ロマンを笑うやつは殲滅です!」
「殲滅…!ふふ、ふふふふ!今日の占いは、胸のある人は水浸しになって倒れる…!」
こっちはこっちで怖いな。
じりじりと睨み合いが続く中、俺が先制攻撃を仕掛ける。
「これでも喰らえ!」
ポイッと投げたのは水風船。あ、割れたあとのゴミはしっかり片付けようね!海は汚しちゃいけないぞ!
「うわわっ!お兄ちゃんの卑怯も、ぶふぇっ!?」
憤怒する結花に塔ヶ崎先輩がヘッドショットをお見舞する。見事なチームワーク!
「あらあら。私を忘れてないかし、ら!?」
俺は即座に古海の腹に水鉄砲をぶちまける。甘い。甘いぜ、古海さんよォ。
「俺はなぁ、常日頃ぼっちだからな。目に映るもの全てどこに動いたかなんて、丸見えだぜ」
かっこいいこと言っても、実際良く聞くとかっこよくない。
「古海先輩!何やってんですか!」
「っ!!貴女だって先制攻撃食らってるじゃない!」
とうとう仲間割れである。元々反りが合わない分、相性が悪い。が、塔ヶ崎先輩と俺は違う。同じ浪漫を愛す者同士、最強のタッグと言えよう!
「塔ヶ崎先輩!畳み掛けますよ!」
「うんっ!」
俺と塔ヶ崎先輩の水鉄砲の銃口から発射された水が、古海と結花を襲い、結果ズブ濡れ。俺と塔ヶ崎先輩が勝利を収めた。
「やりましたね!」
「あ、愛の、勝利っ…!」
うんうん。ロマンに対する愛だな!決してあれだぞ、ラブの方の愛じゃないの知ってるから!
気づけば空は茜色。夕陽も水平線に沈みかけていた。
「うわぁ!綺麗だね!」
結花が夕陽を見てはしゃぐ。普段ならみっともないと言うところだが、確かに、綺麗だ。
「さて、戻ってシャワーでも浴びましょう?体がベタベタだわ」
「賛成…」
「そうですねっ!あ、お兄ちゃん!覗いてもいいよ?」
結花はスク水の胸元を引っ張り、谷間をチラチラと見せつける。
「断る。どうでもいいからさっさとシャワー浴びてこい。俺は晩飯の用意してくるから」
冷蔵庫にはまだ沢山材料があるので、カレーにでもしようか。夕陽に背を向け、俺は別荘へと戻って行った。
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