17 夏休みの計画って大抵海になるヨネ!

 とあるファミレスにて。

「で、何このメンバー」

 俺の目の前には、古海と塔ヶ崎先輩。右手側には結花が座っていた。中間テストか終わり、一息つけばこれである。

 俺の質問に軽やかに答えたのは古海だった。

「君は夏休み、暇でしょ?暇よね?暇って言いなさい」

「いやいや。え、いやほんと。何その、お前暇になれよみたいなの。俺だって夏休みの計画くらいあるわ」

「どうせ本買って読んだり、ゲームしたりでしょ。お兄ちゃんは友達いないんだから」

 結花はため息を吐いてやれやれと呆れたふうに首を横に振る。いや間違ってないけど。間違ってないけど!

「なので、あたし達のがお兄ちゃんの夏休みを彩ってあげようとしてるわけ」

 余計なお世話だ。そんな苦渋の言葉を寸でのところで飲み込む。まぁ多少はね。兄として、として余裕もって接することにした。

「そうかそうか。それは喜ばしいことだ。でも残念だなー。結花との二人きりの時間かが減っちゃうなー」

 こう言えば結花も夏休みの設計は諦めるだろう。

「何言ってるの?お兄ちゃんの水着を見るのが楽しみでこの計画立てたんだから。あ、邪な気持ちは一切ないよ」

 妹よ。俺の水着を見たいと言った時点で、邪な気持ちしかないぞ。

「うちも…、みたいな…」

「はい喜んで」

 塔ヶ崎先輩の少し恥ずかしそうにそういった瞬間、俺はそう言っていた。勿論、一切合切邪な気持ちなんてない。純粋に塔ヶ崎先輩の水着姿が見たいだけなのだ。

「これでいいの?…結花ちゃん」

「はいバッチリです」

「グルだった!?」

 まさか、塔ヶ崎先輩が裏切るだなんて。俺の落胆した様をみた塔ヶ崎先輩は、オロオロと弁明する。

「いやっ、あのっ…、これは違くて…、ええと…」

「許します」

 あまりの可愛さに俺は立ち直る。まるで小動物を眺めているようだ。愛でたい、この先輩。

「もういいかしら」

 机を指でコツコツと叩き、古海は俺を睨む。結花もジト目で俺を見ていた。気まずくなったので、咳払いで誤魔化す。

「よしじゃあ海で決定な。はい解散」

 俺が早々に話を終わらせ立ち上がろうとすると、3人から席に押さえつけられる。

「え、なにやってんの君たち。俺はもう帰りたいんだけど」

「海は私の別荘があるから。そこなら人はいないし。なにか欲しいものがあれば揃えておくから、今のうちに言っておいて」

「何サラッとすごい事言ってんの?」

 別荘?あれ?古海は金持ちなの?え?知らないんだけど。

「流石、古海センパイ。プライベートビーチなんてやりますねぇ!」

「こ、こんなの当たり前じゃない」

 結花に褒められ、まんざらでもなさそうな顔で古海はそう言った。まぁ、滅多に褒められることないもんなこいつ。基本的ぼっちだし。

「川端君。いま失礼なことを考えてたわね」

「エスパーかよ。というか、詭弁だ」

 なんでいつもいつも俺の考えてることわかるの?俺のこと好きなの?無論、こんなこと言えば古海に罵声という罵声を浴びせられ、メンタルブレイクまで施してくるので黙っているが、やはりこいつの毒舌は直したほうがいいと思う。

「欲しいものかー。あ、水着が欲しい!」

「うん。去年のは…、多分小さいから…」

「分かったわ。で、川端君は?ブーメランパンツ?」

 人を小馬鹿にしたような顔で俺に話を振る。

「おいおい。ブーメランパンツはガチムチのマッスルが履くものだぞ。俺なんかが恐れ多いわ」

 いやまじな話、俺みたいなひょろひょろ男性が履くものではないと思う。まぁ、ひょろひょろでも似合う人は似合うだろうけど。

「お兄ちゃんにブーメランパンツ…。ありだね!」

「ねぇよ!万が一にでもねぇよ!」

 妹よ。なぜお前はそんなにも馬鹿なのか。だが、抜けているのは結花だけではないようだ。

「ブーメランパンツは…、古代から伝わる魔法具。覚醒は…近い…」

「いやそれどこ情報!?聞いたことないんだけど!」

 久々に中二病が炸裂。最近、塔ヶ崎先輩は可愛いが目立って、中二病が埋もれていたが、実はそんなことは無かった。陸上部に入ったのも、現代のアキレウスなどと呼ばれたかっからという。

 なんだよ、現代のアキレウスって。むしろよく半神と並ぼうと思ったな。まあ、それがあったから速く走れる。努力があってこそだ。動機づけは大事。

「じゃあブーメランパンツで決定ね」

「いらねぇよ。むしろあれだ。海なら浮き輪とかじゃねぇの」

 それを聞いた3人は盲点だったという顔で俺を見る。まずそれが浮かんでこない時点でまずいのでは?

「じゃあ、集合場所は後日連絡するわ」

 昼頃に呼び出され、帰る頃にはもう夕日が照っていた。

「まぁ、たまには悪くないかもな」

 俺は深いため息とともに夏休みの不安を吐き出した。

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