11 もう塔ヶ崎先輩がメインヒロインにしてもいいヨネ!

 体育祭まであと1週間。体育祭実行委員に何度か呼び出され予算の計算やらプログラム表などを作らされ、残るはグランド整理のみとなった。

 今日は土曜日で、俺は朝からテレビの前のソファでだらけていた。

「あー。休日最高だな」

 結花は同級生と出掛けていた。確か最近出来た大型ショッピングモールに行くとか言ってたな。イ○ンだっけな。ん?なんか違う。コ○トコだっけ?まぁ、どうでもいいけど。

 こんなぐうたらしてる暇があるなら妹の部屋に忍び込みパンツを取り返せばいいのではなんてことを言うのは野暮である。無論、俺もそうしたいのは山々だが見事と言うべきか、結花の部屋は鍵が掛けられていた。我が妹ながらマメなやつだ。

 そういうわけで俺のパンツたちは今日も今日とて額縁に丁寧に飾られているのだ。

『今日の天気は晴れ。洗濯や布団を干して出かけましょう』

 ニュースキャスターのお姉さんがテレビの中から言っているのを聞きながら自分の洗濯のことを考える。

「暇だし干しておこうか。いや、動くの面倒だしいいか」

 呟いて俺は寝ようかと目をつぶったその時だ。

 ピンポーンと軽快にインターホンが鳴る。キッチンに向かいインターホンのカメラを確認してみると、映っていたのは腕にミニチュアダックスを抱えた塔ヶ崎先輩だった。

 俺は慌ただしく玄関に飛び出す。

「あ。…え、と」

 塔ヶ崎先輩は犬を抱き抱えながらもじもじと手を動かし俯いている。どうやら今日はゴスロリ衣装ではないようだ。黒いデニムのロングスカートにカーディガン。ない胸が余計にエロいですはい。

「ど、どうも。どうしたんですか?何か大事な用事とか」

「そうじゃ、ないけど、その、暇…だったから…」

 ほうほう。で、暇なので俺の家に冷やかしに来たと。塔ヶ崎先輩。あなたはまともだと思ってたんだけどな。

「だから、一緒に犬の散歩、行こうかなって…」

「よし行きましょう。着替えてきますね!」

 俺は素早く部屋に戻り生まれて初めてのハイスピードな着替えを終え洗面も済ませ家から出る。

 そこら辺のギャルとか煩いパリピが来ても俺は断っていただろうが、塔ヶ崎先輩の頼みとあらば仕方ない。俺は地の果てでも行ってやろうではないか!


 ←←←


 とある近所の大きな公園で俺と塔ヶ崎先輩(と一匹)で歩いていた。その間の沈黙が重かったので話題を出す。

「そういえば先輩、犬飼ってたんですね」

 塔ヶ崎先輩はこくんと嬉しそうに頷く。どうやら自慢のペットらしい。当のミニチュアダックスは舌を出していた。

「名前はなんて言うんですか?」

 俺はこの時名前を聞くことに躊躇はなかった。しかし考えても見ようではないか。塔ヶ崎先輩は中二病に片足、どころか半身突っ込んでいる。で、あるなら犬の名前がまともなわけがないだろう。

「な、名前はね、…ス」

「え?」

「あ、アレクサンドロス二世…」

「…」

「…」

 空気が張り詰める。俺はここをどうすれば良いのか。犬の名前を褒めるべきか!?それとも笑って誤魔化すべきか!?いやいや!ごまかすのは無理があるよな!?インパクト強すぎんよー!!だって、中二病だから、シリウスとかケフェウスとかタナトスとか付けてると思うじゃん!右斜めっていうか一周回ってストレートなんですけどぉ!!

「こ、個性的で、い、いいんじゃないでしょうか」

 語尾がかすれる。いやもうほんとごめんなさい。俺の伝達力と勇気が足りないからね。ごめんなさい。

「本当!?やった…」

 どうやら俺の足りない語彙力と伝達力だけで塔ヶ崎先輩は満足してくれたようだ。

「みんなアレク(アレクサンドロス二世の略)の名前を、聞いたら苦笑いして、皆離れていくから…。嬉しい…」

 俺の心境をいざ知らず。やめろ、その純情笑顔は俺に効く。不意に食らったメンタルシュートのダメージを回復するため自販機で飲み物を買うことにした。

「先輩は何がいいですか?」

「あ、ウチは自分で…」

「良いですよ。こういうのは甘えとけば」

「じゃ、じゃあ、ストロベリージュースで…」

 俺は二百円を自販機に入れ頼まれたストロベリージュースを買う。俺も特に飲みたいものがなかったのでストロベリージュースにしてみる。

 一つを塔ヶ崎先輩に渡して、側にあったベンチに腰をかける。

「あ、ありがとう…」

 えへへ、と笑いながらボトルを小さな手で包む。この先輩といるととても落ち着く。パンツの騒動なんて忘れてしまいそうになる。もういっそ塔ヶ崎先輩に告白して振られて自殺まで自分を追い込んでみようかな。…辞めとこう。

「どうしたの?ウチの顔に、なにか付いてる?」

 ボケッとした顔を見られていたのか、塔ヶ崎先輩は覗き込むように俺を見る。それがわけもなく恥ずかしくなり俺は笑ってごまかす。

「はは、何でもないですよ?ええ、断じて」

「悩みがあるなら…、ウチは何もできないけど、聞くよ?」

 悩みかぁ。悩みねぇ。うちの妹がパンツを盗むんですけどどうしたらいいですか?なんて口が裂けて爆発しても言えない。

「いえ、特には。先輩は何かありますか?」

 塔ヶ崎先輩は俺を見て目をぱちくりさせて、唐突に首を激しく横に振る。

「ううん!ないよ!ウチ、悩みはないから!」

 そういった割には塔ヶ崎先輩の顔は赤いままだった。


 →→→


「ただいまー」

 塔ヶ崎先輩との楽しい時間はあっという間に過ぎ俺は帰路についた。途中塔ヶ崎先輩を自宅まで送ったのだが、かなりの豪邸のご様子。少しびっくりした。と、

「お兄ちゃんだいしゅきホールド(改)!!!」

 だだっ!と走りそして錐揉みしながら垂直跳びで飛んできた。しかも腕を広げながら。卓球で鍛え上げられた俊敏さで俺は咄嗟に避ける。

「甘いわ!」

「お兄ちゃんがね!」

「だ、ダニィ!?」

 避けていつもなら後ろの扉にぶつかる音がするのだが今回はそれがない。もしかして、気づいた時にはもう遅い。腰からの衝撃を受け俺は前に倒れる。

「その通りだよ!お兄ちゃん!」

 そう。こいつは方向転換を覚えていたのだっ!!俺が避けたすぐその後に方向転換を可能にした。その一番の理由は、大きく広げられた腕だ!腕を前に出すことでぶつかるはずだった扉をクッションとし方向転換したのだ。

「ごっへぇっ!!?」

 俺の妹がお兄ちゃんだいしゅきホールドの改良版を作っていて勉強熱心だなと思いしました。まる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る