1 妹にパンツ盗られるのなんて良くあるヨネ!?

「返してよ!あたしの大事なパンツ!」

「うるさいわっ!返せって言われて返すバカがどこにいるんだよ!」

 パンツ。それは人を惹き付ける魅力の布である。だがしかし、その魅力を放つのは女性、又は二次元の女性にしか効果はない。

「大体それはだろうが!」

 男のボクサーパンツなど、ましてや兄のパンツなどに人を惹きつける魅力なんてあるわけが無い。

「お兄ちゃんのパンツはあたしのものだよ!」

 俺の妹、川端かわはし結花ゆいかは俺のパンツを片手に叫ぶ。

「暴論も程々にしとけよ!?前にも言っただろ!新品くれてやるから使用済みは盗るなって!」

「未使用はお兄ちゃんの匂いがしないからダメなのっ!」

「どうせ洗濯したやつ盗ってるんだから同じだろ!!」

 俺の妹は、兄のパンツで興奮するヤバイやつだった。


 →→→


 俺の名前は川端かわはし結太ゆうた。極普通の高校生だ。自己紹介はテンプレ。特別な自己紹介をする訳でもなく平凡。成績は良くて下の上。いや、下の上の上かな。まぁどっちでもいい。友人は多いか少ないかの二択だと少ない。あり溢れるリア充と呼べなくもないが。

 学校では全然話さない物静かなオタクとして有名。…嘘です。すみません。誰も俺の話題なんて話してません。むしろ空気みたいな扱いです。そんな俺に唯一話しかけてくれる女子がいる。それは後々話すとして。

 季節は巡り巡って春。追認補講を受けてギリギリ二年生にあがれた俺は今年こそはしっかり勉強しようと心に決めていた。まぁ自業自得なんだけど。

 そして同時に俺はある問題に直面していた。学校のことではない。家庭のことだ。ならそれは何か。

 両親などによる虐待?違う。

 最近のオカズに不満を感じている?それも違う。

 妹のことだ。我が妹は容姿端麗才色兼備文武両道とこの上なく素晴らしく完璧な妹だ。目に入れても痛くないし、何ならトーキョーに行けば一流俳優にでもなれる。何なら日本国家財産にでもなれる。

 そんな俺ご自慢の妹だが、一つ残念な面がある。それは、こじらせブラコンであること。他者にそれを話せば自意識過剰だろうと鼻で笑われるであろう。しかし、これは事実であり真実なのだ。

 俺は見てしまった。中学三年生の時に。

 夜に目が覚めてトイレに行こうとした時、妹の部屋の扉が少しだけ開いていた。何をしているのだろうとそっと覗いたら、あいつの部屋の壁そこかしこに俺のなくなったと思っていたパンツたちが額縁に入れられ丁寧に飾られていたのだ。

 そして当人の妹は、そのパンツを嗅ぎながら顔を蕩けさせていた。齢14にしてあんな顔ができるなんて素直に感心してしまった。

 その日は何も言わなかったが、ものの2ヶ月で耐えられなくなり、とうとう夜にも関わらず妹の部屋に強行したのだった。

「おい!」

「ふあぁ!?お、おおお兄ちゃん!?な、何でここに…」

「それ、俺のパンツだよな?」

「し、知らない…」

 そっぽを向く結花に俺はさながら刑事ドラマのように問い詰める。

「正直に話せ。話したらお前の好きな都亭のモンブランを買ってやる」

「し、知らないったら!」

「ほう。シラを切るのか。その右手にある布切れは何だ?」

 右手は結花の背に隠されていて、ピロっとパンツのゴムの部分が見えている。

「こ、これは…。そう!拾ったんだよ!そこの公園で!」

「どこぞのおっさんが履いていたかもしれないパンツを拾うなよ!公園にパンツ落ちてるとかカオスすぎるわ!」

 こういう時アドリブに弱いのは結花の弱点とも言える。

「…う」

「何だって?」

「死のう」

「は?」

「お兄ちゃんにバレたなら仕方ないよね。殺るしかないよね」

 人形の如くゆらりと立ち上がる。結花が持っているのは片手に俺のパンツ。もう片方にハサミが手に握られていた。

「なぁ…。待って待って!それ危ないから!やるって絶対にやばい方だよな!?殺る方だよな!?落ち着いて?な?落ち着けって。お、落ち着けぇぇ!!」

 俺の制止をを無視して結花は俺に迫り来る。

「もうバレちゃったなら仕方ないよね?一緒に死のう?お兄ちゃん」

「愛が重すぎる!」

「だってぇ、お兄ちゃんのパンツはあたしのなんだもん!誰にも渡さないんだから!お兄ちゃんにも渡さないんだからぁ!」

「それ俺の!」

「ん?でもよく考えたらバレたなら逆にオープンでお兄ちゃんのパンツを盗めるってこと?なぁんだ、何も問題ないじゃない」

 と、勝手にひとり納得して俺は部屋から追い出された。

 そして時は経ち、俺は高校2年生。あいつは高校1年生。パンツの件が改善されたかと言うと、その逆見事に悪化していた。

 週に3回はタンスからパンツが消え失せ、代わりに結花のパンツコレクションが増えていった。何なら略してパンこれとか言った方が何かすっきりするな。

 そして結花の入学式の夜。ちょうど丑三つ時だった。

 俺は結花が容易に中に入れないよう最近はしっかりと鍵をかけていた。掛けていたのに、キィと扉の軋む音がする。開けられたのだ。どうやって?

 俺はそっとベッドから降り、部屋の明かりをパチンと付ける。明かりに照らされていたのは、やはりと言うべきか結花だった。

「お、お兄ちゃん…」

「お前、俺の部屋の合鍵作ったろ」

 ビクンっと方を跳ね上がらせる結花。その反応が物語っていた。そう、なぜ鍵を開けられたのか。正解は合鍵を作っていたからだ。

「い、いいじゃない!1枚くらい!」

「お前は何10枚と盗ってるだろうがよぉ!」

 こうして冒頭に続く。


 ←←←


「ふ、ふん!あたし知ってるんだからね!お兄ちゃんがいつも楽しそうにクラスの女の子と話してるの。どうせその女と不純性行為でもしてるんでしょ!知ってるんだからね!」

「ハハハ!お前は知らないだろうがなぁ、その女子は俺を憐れみで話しかけてるんだぜ!」

 まぁ、このセリフは自分で言っといてなんだけどブーメランでこっちに帰ってくるからね。

「だから、それを確かめようとしてお兄ちゃんのパンツの匂いを嗅いで確認してるんだから!」

 ぱよんと豊満な胸が揺れる。我が妹ながら大した胸だ。じゃなくて大した度胸だ。

「ふふ、毎回毎回俺は困っている。だがしかぁし!」

「ふひゃう!?い、いきなり大声出さないでよ!」

「今回の俺は違う」

「な、何が違うの?」

 ここで律儀に乗ってきてくれる妹は健気で可愛いですまる。

「俺は考えた。お前にどうやればパンツ泥棒とブラコンを治してもらえるのかと」

「ぶ、ブラコンじゃないし!」

 パンツ泥棒は否定しないのか。

 俺は話を続ける。

「そして思い立ったのだ!そう、これ即ち『お兄ちゃん離れ強化年間~ラブズッキュン命短し恋せよ乙女!!~』だぁ!」

 妹の反応をうかがうと、あらまぁドン引きの体制だった。どうやらネーミングセンスが無かったらしい。

「やっぱりラブズッキュンはダメだったかぁ」

「いやいや、全面的に無いよ…」

 こうして始まった俺のパンツ奪還作戦。絶対にこれ以上被害(パンツ)を増やす訳にはいかない!

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