16 妹時間

 連れられるがままにやって来ました大型ショッピングモール。フードコート、専門店、スーパー、ゲームセンターすべて揃っている場所。

 勿論、俺は本屋一択だ。新刊のマンガやラノベをチェックし、買うものを事前に決め出かける。その後に、なにか面白そうなマンガやラノベを探す。

「今日は本屋には行きません!」

「え、ウッソだろお前。本屋に行かないならここになにしに来るわけ?」

 大型ショッピングモール=本屋。これ常識な。というレベルなのに、我が唯一無二の妹様は本屋に興味を示さない。

「ふふふ。それは、お兄ちゃんに似合うパンツを買うのです!」

「さ、帰るかー」

「あー!待って待って!嘘!冗談だから!」

 結花の言うことは冗談に聞こえないからな。本気と書いてマジと読むくらいには。

「そうだなー。もうすぐ夏だし水着でも買おうかな」

「いや、そういうのは友達同士でやれよ。それとも何。友達いないの?」

「お兄ちゃんと一緒にしないでよ!」

 お兄ちゃん結構それ言われると傷つくのだけれども?しょげた俺を無視して、結花は俺の手を引き、フードコートへ行く。

「で、フードコートには何しに来たの?」

 只今の時刻、十四時半。おやつ時のため人が結構多い。

「クレープを買うためです」

「いや、並んでまで食べるもんじゃないよな」

 そう話しながらクレープ屋の列に並ぶ。さりげなく誘導されたため逃げることもままならない。

「お前、財布持ってんの」

「当たり前じゃない!…あ、あれ?確かカバンに」

 しばらく結花はカバンを探るも無かったらしく、涙目で肩を落とす。

「家に置いてきちゃったみたい…」

 俺はため息をつく。ちょうど俺の財布は一日バイトで手に入れた資金が幾らかある。まぁ、今日くらいは奮発するとしよう。

「仕方が無いな。俺が出すから好きなの選べ」

「え、でも」

「気にすんな。妹は大人しく甘えとけ」

 結花の頭に手を乗せて撫でる。たまには兄らしいことをして見るのもいいものだろう。

 その後二十分ほど並び、クレープを買う。いや、長すぎだろ。アニメほぼ一話分じゃん。

 空いている席に座り、結花はいちごクレープを頬張る。俺はストロベリースムージーを買ったのだが、合わせて2000円近く飛んだ。流石デザート。高い。

 結花の笑顔を見られたのでこれはこれで良しとしよう。

「美味いか?」

「うん!」

 笑う結花の頬に生クリームが付いている。全く、世話の焼ける。俺は頬に付いた生クリームを拭き取ってやる。

「む。お兄ちゃん。そこは指で取って食べなきゃ」

「生憎、俺はそこまでイケメンじゃねぇからな」

「なにそれ」

 二人して笑いがこぼれる。俺は思う。おそらくあの作戦が上手く行けば、結花との時間は減るだろう。パンツ的には嬉しい限りだが、兄的には寂しいものだ。

「次どこ行く?」

 結花は口に含んだクレープを飲み込み聞いてくる。特に行くあてはないが、折角だ。

「ゲーセン行くか」

「いいね!久しぶりに太鼓で勝負しようよ!お兄ちゃんには昔から負けっぱなしだったからね!」

「はん。妹が兄に勝つなんぞ千年早いぜ」


 ○ ○ ○


 あのあと結花にボロ負けした。太鼓、カーレース、格ゲー、ゾンビゲーム、全てだ。ダンスゲームに関しては野次馬ができて歓声を浴びていた。いつの間にか兄を超えていたことに少し感動を覚えた。

 そして帰り道。

「あー、楽しかったぁ」

「だな。たまには外で遊ぶのも悪くない」

 対象に財布は冬だが。楽しめたので結果オーライということにしておく。

 夕日が辺りを橙色に染める。会社帰りのサラリーマンや犬の散歩をしている人がちらほらと目に映る。

「こんな時間ずーっと続けばいいのに…」

 結花は寂しそうにそういう。俺はその言葉に何も言わなかった。同じ時間が続く事はありえない。いつかは、俺と結花は別々になる。

 それは本人も理解しているのだろう。

「お兄ちゃんは、あたしのこと嫌い?」

「そんなことないさ。妹として好きだか」

「そういうのじゃなくて」

 結花は俺の言葉を遮るように言う。俺は理解している。結花が言いたいこと。そして、結花が一番欲しい答えも。

 でもそれはできない。その答えは間違いで、俺の本心ではないから。嘘を言ったって結花は気づくだろう。俺と似ているのだから。

「異性として見るならそこそこの美人だろ」

 俺は場を茶化し笑う。結花も俺につられて笑う。そう。これでいい。馬鹿な話で笑って、変なノリで会話して、これが川端兄妹だ。

「まぁ?スタイル抜群だもんね」

「おまっ、それ自分で言うのか!?」

 知ってる帰り道なのに、今日に限ってはやけに知らない道に思えた。

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