19 海って人を開放的な気分にするらしいけど限度ってものがあるヨネ!
青い空、青い海、輝く太陽。そう。海である。
朝早くに大型スーパーのロータリーで待ち合わせということで、ロータリーに行ったのだが、
「えぇー…」
「ふ、ふん!まぁまぁだよねー」
「これは…すごい…」
俺は驚愕、結花は顔を引きつらせ、塔ヶ崎先輩は目を見開いていた。ロータリーで待っていたのは、車の知らない俺でも分かるくらいの高級車だった。
運転席には燕尾服を来ている白髪のおじいさんで、助手席に古海が優雅に座っていた。いやぁ、違和感のひとつありはしない。
「どうしたの?早く乗ってちょうだい。時間が惜しいわ」
「鳴八。そんなに急かすんじゃないよ。さ、皆さん。どうぞ乗ってください」
物腰柔らかなおじいさんだな。古海とは大違いだ。
「おじい様はもう少し急ぐということを知ってはどうです?」
「生憎、歳なもんだからね。ゆっくりの方が気が楽なんだよ」
悪戯じみた笑顔でおじいさんは笑う。あ、これは似てるわ。古海とそっくりだわ。
「って、古海先輩のおじいちゃんなんですか!?」
流石はコミュ力おばけの、我が妹だ。ガツガツいくな。俺は会話を聞いているだけである。
「そうだよ。気軽にオジサマと呼んでくれ」
「全く、すぐに調子に乗るんですから」
古海は深いため息をつく。ところで話が変わるんだけど、助手席からなんで後部座席に移動するんですかね?古海さん?
だが、譲られたのなら仕方ない。俺は助手席に乗り込む。
「ふむ。君が、例の男子だね」
「例の?」
ああ、とおじいさんは頷く。
「鳴八がいつも君の話をするのでね」
「お、おじい様!!早く車出してください!」
「おお!こわいこわい」
おじいさんにこにこと笑って車を出す。
俺、いつも笑い話の肴にされてんの?古海はそんなに俺のこと嫌いなのか…。俺は別に好きでも嫌いでもないが、まぁ、話す奴の中では塔ヶ崎先輩の次に楽しいが…。
「先輩達は好みのタイプとかいます?」
「そういうのは、先に言った貴女が言うべきじゃない?」
「うちは…、ヘラクレス…」
後部座席では恋バナで盛り上がっていた。…いやちょっと待て。今、半神半人の英雄混ざってたぞ!?え、塔ヶ崎先輩の好みってガチムチだったりするの!?…向こうについたらブーメランパンツあるかな。
そうして1時間が経過、今は交通渋滞で車は止まっており、車内はしんと静まり返っていた。後部座席の3人はぐっすりと寝ている。
「よく寝ているねぇ」
「最初の方に騒ぎすぎだろ…」
結花に限っては楽しみで、夜寝るのが遅かったと言っていたし。純粋に楽しむ気持ちもあったようで、お兄ちゃん安心したよ…。
「ところで、川端くん」
「はい、何でしょう」
「君は小学生の夏に、なにか大切なことを忘れていないかい?」
おじいさんの意味ありげな質問に、俺は黙り込む。夏に大切なこと…。ううむ。わからん。
「分からないならそれでいい。あれは思い出すものではないからね」
「それってどう言う…」
「おっと、そろそろ渋滞も抜けれそうだ。トロトロしていたら鳴八に怒られるからね」
おじいさんは俺を見てウィンクをする。どうも、関わりづらい人だ。俺は夏の大切なこと、というワードが気になり、目的地につくまで考えにふけっていた。
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