8 相手が後輩でも何故か不思議と敬語になることってあるヨネ!
体育祭種目決めのあった放課後。パコン、パンツとボールがラケットに弾かれる音の中俺は佐原のとテニス部の部室で向かい合っていた。
「あの、話ってなんでしょうか」
オドオドしたふうに佐原は恐る恐る聞いてくる。だがひとつ言わせてもらうと、後輩が相手だろうが俺のコミュニケーション能力ではスラスラと話すことすらできない。圧倒的コミュニケーション能力の欠如。
「あの?」
「ひぁ、んん!え、エットですねぇ」
何故か敬語。見知らぬ相手にいきなりタメ語とか無理でしょ。と言うよりそれを出来るのはイケメンとバリバリスポーツマンだけじゃないかと考える。飽くまで俺の偏見です。
「佐原君は今、彼女って、いりゅ?」
あわ、噛んだ…。恥ずかしい、死にたい。生まれてきてごめんなさい…。
が、それを無視して佐原は律儀に答えてくれる。
「いませんね。今のオレには不要なものですから」
「へぇ…」
手応えは悪くない。これなら俺の例の作戦は上手くいく!名前を言わないのは長いからというのとなんか周りがドン引きしていたので俺の豆腐メンタルがズタズタにされたからです。
「じゃ、じゃあさ。気になる子っていますか?」
「どうしてそんなことを言う必要があるんですか?」
当たり前の反応。確かに。今日初めて出会って開始約1分足らずでここまで他人のプライバシーに踏み込むのは良くない。ましてや心内を晒すはずはないのだ。
「まぁ、答えなくてもいいですよ。今は」
「はぁ…」
「最後の質問なんですけど、今回の体育祭で佐原君は出場しますか?」
「ええ。そうですね。部長から出るように言われてますので」
「そうですか。大変参考になりました」
「それなら良かったです」
見た目は割といい奴そうだ。性格云々は置いておいて顔も申し分ない。結花のやつ、何処が俺にちょっと似てるんだ?
「また来ますね」
そう言い残し、俺は礼をしてからテニス部の部室を出る。そしてその俺を物珍しそうに、コートで練習をしているテニス部員が視線を送る。
俺はまたも一礼してその場を去った。
→→→
「ただいまー」
擦り切れた俺の豆腐メンタルにムチを打ち更に擦り切れさせ家に到着。長く辛い戦いだった…。やはり人と話すのには気力が必要だと自覚する。気を遣わなければならないことと、相手を不快にさせないように下手に出ること。これをリア充達は毎日当たり前のようにしているのだ。こんなんなら俺はリア充にならなくてもいいや。
「お兄ちゃんだいしゅきホールド!」
「ふっ!馬鹿め!人間は学習する生き物なのだよ!」
結花の声を聞いた瞬間俺は数歩右による。
「ふふ!甘いよお兄ちゃん!あたしだって同じ手を使うほど馬鹿じゃないよ!」
「だ、ダニィ!?」
我が妹は俺が右によることを想定していた。つまり!結花は端から右にお兄ちゃんだいしゅきホールドを仕掛けていたーーーー!!
「とおう!」
「ごばはぁ!?」
お兄ちゃんだいしゅきホールドは見事決まり俺は多大なダメージを受ける。
「ぁあ…。至福…」
「お兄ちゃんは至福じゃないけどな…」
ガッチリと抱きつかれた俺は酸素を取り入れるべく結花を剥がし始める。
「お兄ちゃんは今しんどいの。だからあんまり構わないd」
「ぬおっ!お兄ちゃんの体からテニス部の臭いがする!」
途端に俺の体から結花が離れる。確かに離れてとは言ったが、そんな反応で離れられると傷つくんですけど。豆腐メンタルがさらに崩れてとうとう残飯に成り果ててしまうんですけど。
「何しにあんなむさくるしいところに行ってたの?」
「お前のための」
「ああ。で、どうだった?」
「今はなんとも」
「良かったね」
いい笑顔でのサムズアップ。完璧に俺の豆腐メンタルを潰しにかかってきてる気がするのは気のせいですかね?
「あ、それよりさっき古海?って人が来てたよ」
「ふーん…。は?」
「お兄ちゃんがいつも楽しそうに話す女だよ」
その言葉にトゲがあったのは俺の気のせいだと思っておこう。
「で、どうしたんだ?」
「あなたの大好きなお兄ちゃんはまだ帰ってませんって言ったら顔を真っ赤にして帰っていったよ?」
「おまっ!それやめろ!顔真っ赤にして帰ったとか」
「だよねぇ。明らかに」
「怒ってんじゃん!」
「そうだよね!あの女絶対にお兄ちゃんにって、へ?」
俺は焦る。明日古海と顔を合わせづらい。もしかしたら、君の妹の責任は君も背負うべきよ。なんてことになりかねない。くっそ!我が妹ながらやってくれたな畜生!
「お兄ちゃんって、鈍感なのか敏感なのか分かんないよね」
「結花よ。お前だけには言われたくないぞ」
俺は削れた豆腐メンタルを立て直すべく重い足取りで部屋に向かった。
←←←
翌日、古海は平然と俺の元にやってきた。
「昨日の結果はどうだった?」
俺は少し困惑しながらも昨日の結果を報告する。
「騎馬戦には出るらしい。彼女はいない。作る気がないらしい」
「それはかなり厄介ね」
「まあな」
古海に昨日のことを聞こうかと思ったがそれを寸でのところで踏みとどまる。思い出されて責任転嫁されかねない。
「まぁ、後々考えてく」
不安を抱えつつも俺は机に突っ伏した。
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