23 クラスメイト時間

 夕食を終え、俺もシャワーを浴びて部屋に戻る。が、どうにも眠れない。

「しっかし、今日は疲れた」

 ベットの上でぐったりと倒れ込む。虫の鳴き声と、風が吹くたび擦れる葉の音。静かだ。

「よっと」

 俺はおもむろに立ち上がり、静かに階段を降り、外に出る。

 潮の匂いと、波の音が俺の鼻と耳をつく。今向かっているのは海の方面ではなく、森の方面だ。近くに高台があると聞いたので、俺はそこを目指して歩く。

 夜道は無論真っ暗なのでスマホのライトで道を照らしながら進む。不思議と怖さはなく、神秘的なこの環境を少し楽しんでいる。

 歩くこと10分ほど。

 月明かりが差す場所に、高台があった。しかしどうやら先客がいるようで目がバッチリと合う。

「どうした。寝れないのか?」

 俺は先客に話しかける。先客はつい、と俺から視線を外した。

「いいえ。少し、夜風に当たりたかっただけよ」

 そう言って古海は、高台から見える海を物憂げな顔で眺める。海は、月の淡い光が反射して、夜なのに少し明るい。

「そうか」

「君こそ、眠れなかったのかしら?」

「ん?まぁな」

 生ぬるい風が吹き抜け、古海の髪を揺らす。長い黒髪から、シャンプーの匂いが微かに香る。不覚にも美しいと思わざるを得なかった。

「小学校の頃」

 不意に、古海が話し出す。しかし俺はそれに何も言わずに聞く。

「とある幼馴染みとこの海にきたの。その頃は、きっとその子のことが好きだったんでしょうね。ずっと一緒に遊んでいたわ」

「含みのある言い方だな。今は、どうなんだ?」

 俺の問に古海は薄く笑う。

「今は、どうなのかしらね?その子は、どこかに行って、妹ができたって聞いたの」

「複雑な家庭だな」

「そうね。それ以降、私はその子と再会したわ。でも、妹と楽しげに会話するのを見て、軽く嫉妬したの。それも、私のことなんてすっかり忘れてね」

「…」

「それ以降、その子とは話していないわ」

 俺はただ一言、そうかと言って海に視線を戻す。、か。古海がそういうのならそうなのだろう。

「あー、そうだ。明日縁日があるんだってさ。…行くか?」

 話題を露骨に変えたのは白々しいとは思うものの、重い空気の中これは有効手段だと思う。

「ああ。近くの神社の。…そうね。みんなで一緒に行きましょうか」

 これまた含みのある言い方だが、ここはサラリと流すとしようか。

「じゃあ、浴衣の用意でもしてな。せっかくの美人が台無しになるぞ」

「え…」

「どうした?」

「いえ、何も無いわ。少しだけ、懐かしかっただけよ」

 月明かりに照らされた古海の笑顔は、ただ純粋に楽しそうだった。

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