24 縁日って遊ぶより食べることの方が多かったりするヨネ!
やって参りました。縁日。
屋台から甘い匂いやソースの香りがあたりに漂い、人々の喧騒が耳に割り込む。
「うわぁ!お兄ちゃん!早く早くっ!」
結花は藤色の生地に朝顔を散らせた浴衣を身にまとい、下駄をカラカラと言わせて、もどかしそうに俺を呼ぶ。
「そんなに走るとコケるぞ」
「ふふ…、まるで、小学生みたい…」
塔ヶ崎先輩がぽつりと呟いた。先輩の浴衣は黒色の生地に和金が泳いでいるような模様。普段ゴスロリを愛着しているので、違和感がない。むしろ華やかですらある。
「はぁ…。全く、子供じゃないんだから」
「ま、今回はいいんじゃないか?」
淡い青色の生地で、菊を浮かせた浴衣を上品に着こなす古海。結花のはしゃぎ様に呆れているようだ。
「そう、ね」
「さてと。何から食べようか」
俺は少し興奮気味に屋台を見渡す。たこ焼き?焼きそば?フランクフルトも捨て難い。
「お兄ちゃん!りんご飴あるよ!」
「おいおい。甘いのは最後だろ?」
川端家の会話を聞いて古海はくすりと笑う。何がおかしいのか。
「私は唐揚げがいいわ」
「うちも…」
古海と塔ヶ崎先輩が唐揚げを推薦する。となれば、唐揚げで決定である。遊ぶのはあとだ。まずは祭りの味覚を味わうことが最優先。
と、目の前に人だかりがある。よく見るとクラスメイトがいる。何故?幻覚と信じたくて、俺は目を擦りもう一度目の前を見る。しかし、やはりと言うべきか目の前には顔見知りがいる。
「桐片…」
そう。あの優しい爽やかイケメン野郎の桐片晴斗。そして目を疑うような光景。そいつの横には似ても似つかない可愛らしい女の子がいた。
「やっぱり…」
古海は今にも崩れそうな笑みを浮かべている。脆く少しでも触れれば壊れてしまう。そんな表情。
昨晩聞いた話。そして義妹。昔からの幼なじみ。そして桐片がいる。
ああ。なるほどと俺は理解した。おそらく踏み入れてはならないもの。では、古海のおじいさんが俺に言ったあの言葉一体何なのか。
分からないものだらけだ。だが、ただ一つ言えることは古海をあいつと鉢合わせさせるわけには行かないということ。
「塔ヶ崎先輩お金渡しとくんで遊んどいてください」
「え、でも…」
「今度またお礼はしますんで!」
財布から万札を抜き出し塔ヶ崎先輩に渡すと俺は古海の腕をつかみ引いていく。
「え!?ちょ、ちょっと!」
「いいから来い!まだお参りしてないだろ」
多少強引だが仕方がない。そのまま人混みを突っ切って社に向かう。祭りの喧騒は遠く、揺れる提灯の光は横目で過ぎる。
ようやっと社に着くと、古海が息を切らして途切れ途切れに話す。
「いきなり、何を、するの…」
ここでお前のためだとか言ってもくさいので、無難な言葉を選ぶ。
「お社にお参りを」
「嘘」
あららら。バレてらっしゃる。強引だったしね仕方ないね。
「君は残酷な程に優しいのね」
「さてなんのことやら」
「昨日の話と、うまく繋がったかしら?」
「まぁな」
「どんな気持ち?懐古趣味の変な女って思った?そうよね。だって昔のことを人に話して挙句にその本人とばったり出会っちゃうんだから無様よね」
何も言わない。これが正しいかはわからないが、今俺ができることは黙って聞くだけ。弱々しい古海声は今にも消え入り作法だった。
「笑えるわね。ほら、笑って、嗤いなさいよ。笑ってよ…」
俺は優しくない。良くも悪くも、その場しのぎだ。
「そうだな」
俺がようやく声に出した声はこの一言だった。その言葉に古海は涙目をこちらに向ける。
「無様と言えば無様だ。いつもは馬鹿みたいにクールぶってるのに、自分の昔の事となれば弱くなる。何度も見てて惨めだ」
俺はつらつらと言葉を重ねる。今の古海は見るも無残な姿だ。迷子になった幼子みたいに。だから俺は敢えて言おうではないか。
「人と接するのが怖くて友達を作らなかったんだろ?昔みたいに裏切られるのが悲しいからクールを装って、弱い自分を武装で固めて」
「そんな…!ことは…」
「でもな。今はいるだろ?結花だって塔ヶ崎先輩だってな。俺は保証出来ないけどな。いつ裏切るかわかった人間じゃないから。ま、そういう事だ。今のお前に必要なのは、何かを信じることだ。黒歴史なんて放って投げ捨てろ。俺の方が黒歴史は多いぜ?お前なんかその程度だ。ルックスいいんだからよ、笑ってる方がお似合いだ」
そして途中からなんかくさいことを言っていたことに気づき顔が赤くなる。やっべぇ!これは、これは恥ずかしい!増えたよ!黒歴史増えたよォ!!
当の本人の古海と言えば、涙を流して、笑っていた。クールに。いつも通りの笑顔で。
「一件落着と、言いたいけど」
「どうしたの?」
「いやなんでもない。ほら、行くぞ。塔ヶ崎先輩と結花が待ってる」
「ええ。…あの」
「ん?」
古海がなにを口ごもる。提灯に照らされて古海の顔が茜色に照らされた。
「向こうにつくまで、手、を、握っててくれる、かしら…」
妙にしおらしい古海に内心ドキリととするが、結花にもやってやった事だ。うん。何ともない。
「お、おう」
うわずる声は祭りの喧騒に掻き消され、右手には柔らかく暖かい古海の手の感触だけが、俺の気持ちを高ぶらせていた。
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