第2話 あやふやな事件
「5年ほど前くらいから、行方不明になっていたらしい、だいたい小学校六年生のおそらく女の子が、たぶん本日無事に保護されたらしいという情報が今さっき入って参りました」
きっと日曜日の午前中、俺は目が覚めてからテレビを付けると、たぶん女性アナウンサーがそんな原稿を読み上げているところだったらしい。
「本日は番組内容を大幅に変更し、急展開を見せた、たぶん女子小学生行方不明事件解決についてお送りできたらと考えたりしています。えー、何か情報は入ってきているでしょうか? 報道部の○○さん」
十年くらい前にタレントとして売れていた司会者がテレビに深刻そうな表情で映っていた。
画面は切り替わり、タレントみたいなアナウンサーとは全く違う、地味目の三十代前半と思われる女性記者が、アクセントも何もない、伸びきってたんたんとした声で答えている。
「報道部・○○です。え~…こちらに入っている情報ですが、新しい情報は全くまだありません。とりあえず、行方不明になっていたと思われる、おそらく女子児童が保護されたという事なのですが、もしかしたら誘拐、それとも事件事故、全ての可能性を踏まえて情報を集めているところです」
「まだ何も解らないという事ですが、こちらには一緒にいたと思われる、成人の男性か女性かは不明ですが、きっと警察に身柄を確保されたんじゃないかなと言う情報が入ってきたりしているようなんですが、その辺はどうなっているのでしょうか?」
「そうですね。なんとも言えませんが、こちらに入ってきている情報には誘拐事件だとすれば、身柄を確保されたらしい人物が、十代、二十代、もしくは三十代か四十代、五十代か六十代かも知れませんし、七十代という事もあるかも知れませんが、女性か男性かのどちらかが確保されたんじゃないかなと言うところまでの情報が曖昧な形で伝わってきてはいるみたいです」
「確定ではないと?」
「そうですね。何とも言えませんね」
「解りました。一度、スタジオに戻します。○○さん、ありがとうございました。何か情報が入りましたらまたお願いします」
そう言うと、画面はスタジオに戻り司会者と、ゲスト席に一人のたぶん中年男性が座っていた。
「本日は元警察官で、現在はミステリー作家としてご活躍しているという、△△さんにお越しいただいております。今日はよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
「今回の事件、まだほとんど何も解っていませんが、どのようにお考えですか?」
「そうですね。詳細は全く解っていませんが、可能性の話だとすると、誘拐というのも考えられますし、そうでない事もありえますね」
「しかしですね。ほぼ五年間も行方不明だったとかで、全く事件性の無いと言う事はありえないと思われるのですが、そうじゃない可能性もあると……?」
「どっかで聞いた事があるような気がするんですよね。ほら、神隠しとか浦島太郎とかあるじゃないですか、そんなオカルトっぽい話ですけれど」
「と、言う事はなにやらオカルト的な部分も考えられなくはないという事でしょうか?」
「99パーセント有り得ないとは私も思っているわけなんですが、ただ1パーセントでも確率があれば、絶対にないとは言い切れないんですよね。むしろ絶対なんて言葉を使ってしまう事にうさんくささを感じない事も有り得なくはないのです」
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上記の文章は私の創作であるのだけれど、この頃というわけではないのだろうが、こんな憶測と推定だけで成り立っている報道もどきの番組をうっかり観てしまうと、私はイライラしながら思う。
こいつら何を言いたいんだと。
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