第9話 不毛大陸




 不毛な日々である。



 長い休みというものは、金があってこそ、それを生かすことが出来るのであって、それがなければ何もすることはできない。



 もちろん、金が無いというのはじぶんの所為であるので、自責の念に囚われることはあっても、当然のようにそれを他の人に向けることはない。



 すでに連休も残すところあと一日となり、残り少ない時間をいかに有意義に使おうと考えたいところなのだけれども、もはや何をするべき事も叶わず、ふて寝するしかないのが現状であると断言できる。



 そんなにヒマなら文章のひとつでも書こうという気にはなるのだけれど、今年の初めから何も思いつかず、これはスランプというやつであろうか。



 もちろん、スランプというものはそれ以前に何かの結果を残しながら、いきなり不調に陥ってしまうことなので、何も成していない自分がスランプというのはおかしいというのは理解できている。



 それを言うなら、生まれてこの方一生涯の間、スランプであると言えることになる。



 それは御免被りたい。



 私は大器晩成なのだ。





 「春の暖かい陽射しの中、子供や孫に囲まれる中で、庭先で日向ぼっこしている間に眠るようにその一生を終えている。家族達は眠っているものだと思って夕方になるまで気が付きもしない。おじいちゃん、最近は眠っている時間が多くなったわね。そんな事を娘に言われながら静かに消えていく」



 「無理ですね。きっと早死にすると思います」



 そんなことを言うのは同じ職場で働くI君である。



 「酷いなぁ。ささやかな夢ぐらい見たっていいだろう」



 「メタボで、胆管癌で有名になった元色校正オペレーターであり、印刷工で、甘いものとタバコが大好きな癌家系のオッサンが長生きできると思っているんですか」



 「正直言って一年間に親類縁者に三人も癌になった人が出るとヤバイよね。全部父方なんだけど」



 「さらに印刷工なんて不規則な生活をする職業の代名詞ですからね。同じ課のkさんなんて、いきなり膵臓が機能を停止して糖尿病ですからね。あれは夜勤をずっと続けてたからに違いないですよ」



 「営業のm君なんかは年明けから四月まで毎日睡眠時間が三時間くらいで、休日出勤で休みもなくて、頭が回らないのか何を言っているのか解らないときがあるからな。あれでよく営業なんてできるなと思うよ」



 「できてないから、この間も社長に午前中ずっと怒られてたじゃないですか。人間の限界を超えているんですよ」



 「まぁ、可哀想だけど、助けないけどね」



 「そうですね。僕らが帰れなくなりますからね」


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