第8話 ギャンブル依存の自分だけど、そう言えば高校生くらいの時に包丁を小脇に抱えた母ちゃんと、出て行こうとする姉ちゃんがにらみ合ってた事があった




 幼少期に機能不全の家庭で育ち、その頃の心の疵が大人になっても生きづらさを感じてしまう「アダルトチルドレン」は依存症に追い込まれる素地が強いらしい。



 自分はパチンコ依存症ですね。



 その自覚は大いにあり、実際に借金を 300 万ほど作ってしまって現在は返済中である。



 あと 100 万。



 返済は月々 6 万。



 なぜ、パチンコをするようになったかと言えば、母親について小学生くらいからパチンコ屋に出入りするようになり、働くようになって自分の自由になるお金が出来ると、ちまちま打っていた。



 当時は 1 万も負けたら青くなっていたのだけれど、一度 10 万勝ちしてしまうとその時の興奮を思い出し、もう一度 10 万勝ちを目指すようになったのである。



 そうすると一日で 10 万負ける日が出てくるので、当然お金は足りなくなる。



 収入の上限は限られたものであり、増やすにはタネが必要になる。



 そやって一度、本当に首が回らなくなった時、パチンコを一度止めた時期が三年ほどあった。

 当時は 4 円でた玉を借りて、交換は 3 円くらい。



 その差額が馬鹿らしくなって辞めたのである。



 それなのにまた始めたのは等価交換が主流になった頃である。



  4 円で借り、 4 円で交換。



 3日間で 30 万くらい勝った時もあったが、負ける時は同じ額が 1 週間かからないで負けるような地獄。



  10 万の借金が 20 万になるのに 5 年。



  20 万の借金が 120 万になるのに 3 年



  120 万の借金が 300 万になるのに 1 年



 それくらいのペースで増えていきました。



 まさに自転車操業。



 しかも増やす為にパチンコ屋に MAX 機を打ちに行く。



 もう、パチンコはやらないと決めて、会社帰りに寄らないぞと、会社を出る時には決めてても、パチンコ屋の前まで来ると駐車場に入っていったり。



 「打たなきゃ、減る事もないけれど、増えないのだ」



 と思うのである。



 最期はもうだめだと言う事になり、親に事実を話し、迷惑かけると頭を下げたり、勤め先に給料の振込先の口座を変えてもらったり。





 これは誰にも言ってないけれど、パチンコ屋に閉店間際までいたり、休日も朝から晩までパチンコ屋にいる理由の一つに家にいたくないというのがあったと思う。



 親しい友人もなく、趣味はあっても一人でやるものだったり、彼女もいないし、人付き合いも面倒になっていて、一人でやるパチンコはちょうど良かった。



 勝てば、増えるし。

 

 家は姉が中学時代からグレ始めて、酷いものだった。



 家出していて補導され、警察から親が連れてきた久しぶりに見る姉はアフロだった。



 これから姉ちゃんを説教するから、おまえは寝てしまえと親に言われて小学生だった自分は言われた通りに寝ると、翌朝起きた時、アフロだった姉は顔に痣を作ってパンチパーマになっていたのである。



 父親に髪を切られたらしい。



 「それなら恥ずかしくて、外に出られないだろう」と。



 そんな姉がある日こんな家は出て行ってやると言い、行かせまいとする母親が包丁を小脇に抱えて扉の前に立ちふさがり、



 「出て行くなら、アンタを刺して私も死ぬわ」



 などと叫んでいた。



 この時、横で見ていた高校生の私は思った。



 母親が姉を止めるのは、姉の事を心配してとかではなく、ここで姉を逃がしたら、自分が亭主に怒られて、自分の立場が無くなると言う事で姉を止めているというのが見え見えだった事である。

 

 姉は漫画かドラマのようにその場に泣き崩れたが、そうでなかったらきっと母親は姉を刺していたと思う。



 それくらい我が身かわいい人なのだ。



 母はよく言う。



 「生きている意味が無い。何も楽しくない。みんな私のせいにする。何の為に生きているんだかわからない」



 そんな話を毎日のように私に言うのである。



 私が何か反論しようとしても、私の話は聞き流して、自分の話したい事だけを話し、人の話を聞こうともしない。



 都合の悪い話しは聞こえないふりをするか、別の話を被せてきて話をそらす。関係のない話をして話をそらす。



 私は母親の愚痴を延々と聞かされるだけであった。



 姉は結局、妊娠して冬の北海道で家賃滞納によりアパートを追い出され、ホームレス状態になって助けを求めてきた。



 妊娠六ヶ月のホームレスである。



 迎えに行った母親が連れて帰ってきて、また一緒に住む事になったのだが、産まれた甥っ子は小学校五年生になってから不登校になり、そのまま一度も通うことなく中学を卒業して立派な引き篭もりになると、姉が姿を消した。



 それから7年が経ち、姉の消息は知れない。



 連絡がないと言う事はどこかできちんと生活しているのだろうが、それが出来るならなぜ家にいる時から出来ないのかと思う。

 

 親も歳を取り、甥っ子は二十歳を超えて引き篭もり、私の弟も金に汚く、親に金で迷惑をかけている。



 そう遠くない未来に全てのツケが私に来そうなのだけど、それを考えると何も考えないですむパチンコに行きたくなる気分。

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