第3話 成せばなる 成さねばならぬ なにごとも
どうにもならない事は、どうにかしたところでどうにもならないし、どうにかなる事は、何もしなくてもなんとかなる。
どこで見かけたのかは、今となっては思い出せないのだけれども、そんな文章をどこかで読んだ気がする。
早い話が、時間が解決してくれると言う事なんだけれども、無理なものは無理という事でもある。
そんなにっちもさっちも行かない状況に、いきなり陥るという事は、そんなに多く無いだろうし、大抵の場合はずいぶん前から自分自身では、いつかとんでもない事になってしまうと言う予測はあったに違いなく、問題の先送りが招いた自業自得と言える面も大きい。
もちろん、気がついたところで、自分自身に問題解決能力が無いのであるから、それまでの状況に追い込まれたのだから、気づこうとも、気がつかなかろうとも、結果としては同じであると言えるのかも知れない。
どこで道を間違えてしまったのであろうかと、思い返してみれば、そもそも物心が付いた頃にはすでに致命傷であったと言えるのだろう。
裏目裏目に張り続けて、全て表目に出たような清々しい人生を送ってしまった気がするけれど、そう言う星の下に生まれたのだと諦める事にした。
今さら諦めたところで、とくに何かが変わるわけでもないのである。
「親ってすごいよな」
勤め先の休憩時間に、たまたま一緒になった後輩のI君に私はそう呟いた。
「何の話ですか?」
「よく考えてみろよ、自分の親父が今の自分と同じ歳の時、どうだったかって事を。俺の親父なんて、嫁と姉俺弟の三人の子供を養っていて、俺なんて高校三年生だったぞ」
I君は嫌そうな顔をして答えた。
「ありえませんよね。うちはお袋、兄貴、僕の三人を養ってましたよ」
二人とも、結婚どころか、彼女もいないし、彼氏もいない。
「無理ゲーだろ。俺らには。どうやって女房子供を食わせていくんだと。そもそも俺らの収入じゃ、彼女ができて相手の親に結婚させて下さいって会いに行ったら、ふざけるなって殴られるな。そんな収入で結婚させてくれとかふざけるなって猛反対されて、そのとおりですねって、納得しちゃおうよ」
「当たり前ですよね。僕も人の親だったら、絶対に結婚なんてさせませんよ。愛があれば他に何もいらないとか、きれい事は言わせませんよ」
「反対されたら、すみませんとしか言えないよね。事実だから」
「そもそも入社13年目で、手取が18万って、どんな荒行ですか」
「俺なんか入社16年目で手取21万6千円だぞ。入社してから手取が3万くらいしか増えてないわ。他の所で9年ほど働いてたんだけどな」
「ありえないでしょ?それでどうやって家族を養っていけと言うんですか。残業代も、ボーナスもないとか」
「そのうちに、稼ぎが少ないから、高校に行かせてやれないって子供に言ったとかいう社員が出始めるぞ」
「格差社会と言うより、みんな等しく底辺社会ですね」
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