第30話 やがて廻る日々




 一年の内に何日かだけ本当に何もかもが嫌になってしまう日がある。



 何が嫌かと言えば、何もかもが嫌なのであって、そこに嫌さの大小種類分別というモノは存在しない。



 そんな時はどうするのかと問われれば、鬱々なる気分が晴れるのを、ひたすら待つしかない訳なのだけれども、そもそもがあまり変化のない日々を送っているせいで、気分が晴れるきっかけがなかなか登場してくれなかったりする。



 もちろん選択肢として、他にいろいろと手段がある事は、知識として知っているわけだけれども、大抵の場合それらは非常に暗黒面に落ちかねないものであったりして、もはや自分だけの問題では無くなってしまうので、個人的には選択する余地はない。



 中には、そんな後の事なんか知ったこっちゃねぇよと、言う人もいるのかも知れないが、何せ私は愚かしいほどに見栄っぱりであるから、人様に迷惑をかけるような方法は御免被りたいのである。



 他にも全裸で深夜に街に出て歩き回るとか、寝静まった住宅街で奇声を発声してみるとかというストレス発散の方法はあるだろうけれども、事案として通報されない行為もまたそれは他人に迷惑をかけてしまうわけだから、やめておいた方がいいと忠告する次第である。



 しかし精神的な負債の蓄積は身体に悪影響を及ぼす事もある。

 

 以前私は仕事に行く為に家を出ると、吐き気を覚えて実際に吐いてしまった事もあった。



 パブロンの犬じゃないけれども、問題は早めに解決しておいた方が良いだろう。



 しかし、それが出来ないからこそ問題は大きくなり続け、もうどうにもならない状況にまで追い込まれ、にっちもさっちもいかない事の責任は私自身にはないと言っておく。



 悪いのは社会であって、政府であり、行政や企業の責任であると、私は自己弁護させてもらうのである。



 人生の中での失敗は十代もしくは二十代であるならば、「人生はやり直せる」「諦めたらそこで試合終了だよ」などと言う優しい言葉でもかけられれば、「何度でも立ち上がってみせるさ」とヒーロー補正の効いた主人公みたいなセリフと共にカンバックすることも出来るだろうが、四十代ともなればそれは現実的には無理な話であると言って良いだろう。



 四十代ともなれば一角の人間になっていておかしくない年齢であり、多くの人はそうなっているはずである。



 家庭を持ち、家族を養い、社会的な責任を持たされ、それを確実に実行する。



 そんな時代に躓こうものならば、もう目も当てられないのである。



 家庭崩壊、一家離散、親の介護に、自身の老化で持病の発症。



 もはや、そんな時代に立ち上がる気力は残っていない。



 例えあったとしても、現実が事実として無慈悲に突き刺さって来るのである。



 負けらぁっ!!と叫んでみたところで、歳を考えろよオッサンと言われるのが関の山であり、後は野となれ大和なれと言った具合に余生とか、晩年と呼ばれる時代に突入する。



 自らを振り返ってみれば、家庭も家族も社会的地位も何ら持ち合わせていない事に先見の明であったと、若かりし日の自分を褒めてあげたいくらいの気持ちなのであるが、それでも親の面倒と、自分の面倒から逃れる事は出来ないのである。



 もはやお釈迦様のように、世捨て人になってしまいたいくらいなのだけれども、現代では野山にて修行に明け暮れるような怪人は、不審者として通報される事案になるくらいであろう。



 どうしてこんな事になったのかと問われれば、何もしなかったからであると胸を張って言い切る事が見栄というものであろうが、好きでなにもしなかったわけじゃないやいっ!!と、言っておくくらいは赦されるべきである。



 ゆるしてください。



 「ここは自分の本来の居場所ではない」



 そう思う事が良くあった。



 だからと言ったところで、ではその自分が本来いるべき場所というものを捜す術を持っていなかったし、そもそも何となく生きてしまえるのであるから、わざわざ苦労してまで捜すほど私は努力家でもないのだし、世の多くの人もまたそうであると願いたい。



 では、世の多くの人がそうであるとして、現実に差が出てしまうのは何でであろうかと考えれば、それはきっと「運」であるに違いないし、そうであろうし、そうに間違いないはずだ。



 産まれ持った才能と、運と、ほんの少しのお金がある人が、きっと世の中で幸せな自分の居場所というものを見つける事が出来るのである。



 全てがない私としては、ひたすらさまよい歩くしかないのであるが、そろそろそれも現実という奴に追いつかれ、追い越されてしまった感はある。



 めぐり廻って、この有様。



 ナムー



 





 



 



 

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