(4)


 境内けいだいの石畳の上で鞠をついていた。


 大人ばかりのこの場所には、友達がいない。一人で数え唄を歌い鞠つきをしても面白くもない。

 誰か、一緒に遊んでくれたら――そんなことを思っていると、ひんやりとした風が頬を撫ぜた。

 夜風のようだ。そう思い顔を上げると、いつの間にか目の前に夜空のように玲瓏とした、白い直衣の男が立っていた。


「一人で遊ぶのは楽しいかえ?」


 冷たくもうるわわしい低音の声は、人外じみた美貌の男によく似合う。


「ううん、一人だとつまらない」

 正直に答えると、男は幼い自分を抱き上げ、ゆっくりと笑った。


「ならば、我が遊んでやろう。飽きるまで、ずうっと一緒じゃ」


 低く甘く囁く男の目は月のように金色に輝き、とても美しいが、少し怖いとも思った。


「あ、鞠が」

 抱き上げられた拍子に落とした鞠に手を伸ばすと、男は優しく諭す。


「そなたにはもっと美しい鞠をやろう」?


 あの鞠は父様がくれた大事な鞠なのに。

 どんなに訴えても、美しい彼はそれを最後までわかってはくれなかった。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る