第24話

ドラッグストアで消毒液とガーゼ、冷却シート、タイツ、それに筆談用の小さなノートとペンを買って、僕らは近くの公園に入った。

噴水の向かいに並ぶベンチを見つけると、黒羽さんは僕をそこに座らせ、タイツを脱ぐよう言った。

もちろん怪我の処置のためであり、彼の言葉にやましさがないことは分かっている。

しかし夕時で薄暗いとはいえ、公園は無人ではなく、ちらほらと人が行き交っていた。

しかも今までは女の子らしくない貧相な脚をタイツで隠していたので、素足をさらけ出すのに躊躇いがあった。

けれど彼の優しさを無碍にできるほどの正当な言い訳を思いつかず、結局はタイツを脱ぐことにした。

石畳の地面に足をつけた途端、指先から冷たさがせり上がってきて思わず肩を竦めた。

すると、黒羽さんは僕の前にまるで姫にかしずく従者のように膝をつき、その上に僕の足を乗せた。

その体勢に戸惑いの視線を送っていると、彼は顔を上げて「これの方が治療しやすいから」と柔らかな笑みで答えた。

善意の行為であることは重々承知なのだが、それでも周囲からちらちらと寄越される好奇の視線に恥ずかしさを感じずにはいられなかった。

だからといって彼の厚意を足蹴にするわけにもいかず、僕は下を向いてこちらに向けられる好奇の視線をやり過ごした。

彼の手当ては、ガラス細工を扱うような慎重さと丁寧さを持ちながら、それでいて迅速だった。


「もうこれで大丈夫だ」


そう言って黒羽さんはそっとガーゼの上から傷の部分を撫でた。

その手つきには、まるで治癒のまじないをかけているかのような神聖さが漂っていた。

その流れで当然のように、新しいタイツを僕の脚にはかせようとしたので、僕は慌てて制した。

流れに身を任せされるがままだったが、さすがにタイツをはかされるのは抵抗がある。

黒羽さんは少し残念そうな顔をしたが、特に食い下がることなく僕の横に腰を下ろした。そして僕がタイツに脚を通す様子をじっとのぞき込んだ。


「明日香の脚は本当に細いな」


ぼそりと黒羽さんが呟いた。

その言葉は女の子のスタイルを称賛する類のものではなく、むしろ理不尽に与えられた不運を哀れむ響きを持っていた。

脚に注がれる視線に耐えられず、僕はさっき買って来たノートとペンを取り出し『見ないでください。恥ずかしいです』と書いた文面を彼の顔に突き出した。

彼はその文字を読み取ると、笑いながら「ごめん、ごめん」と言って顔を僕の反対側へ背けた。

その隙にタイツを腰まで引き上げた。

真新しいタイツと、腿の内側に薄くこびりついた精液との摩擦で生じた不快感に、屈辱的な記憶が一瞬脳裏をかすめた。

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