第15話

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「私の気分は国を立つ時すでに厭世的になっていました。……――」


僕の前の席で音読する斉藤明日香さいとう あすかの透き通った声に僕は耳を澄ませながら考えた。

黒羽さんとの今後の関係について。

果たしてこのまま嘘を吐き続けて一緒にいていいものか。

嘘は時間が経つ毎に膿んでいき、やがて手の施しようがなくなるものだ。

そうなる前に早く何か手を打たなければ取り返しのつかないことになるのでは、という焦燥感が日に日に増していた。

一番理想的なのは、秘密を打ち明けた上で、友人として、関係を続けてもらうことだが、そんな都合のいいことが叶うはずもない。

女装をして自分を騙していた奴なんかと誰が友人でいたいと思うだろうか。

それに、秘密を打ち明けて無傷でいられるとは思えない。

秘密がばれることはすなわち関係の崩壊を意味する。

それは避けたい。

けれど、秘密を隠し続けるのも息苦しい。

結局、関係を切る覚悟も、秘密を隠し通す覚悟もできないまま、現代文の授業が終わって、そのまま放課後になった。

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