第16話
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「……どうした? 具合でも悪いのか?」
僕の前でパスタを口に運んでいた黒羽さんが、心配そうに訊ねてきた。
その声に遠のいていた意識が現実に引き戻され、僕は顔を上げた。
僕のお皿にはまだ半分以上パスタが残っているのに、黒羽さんのお皿は既に空になっていた。
まさか別れを切り出すべきか、嘘をつき続けてこの心地の良い関係を保つべきかを考えていたとは言えず、僕は首を横に振った。
しかし、黒羽さんは眉根を寄せたまま「本当に大丈夫なのか?」と再度、確認してきた。
言葉で伝えた方が納得してくれるだろうと思い、メモ帳を開いたが、どのページも文字で埋め尽くされ、書くスペースがない。
僕は鞄を探り、新しいメモ帳を取り出した。
そして古いメモ帳を鞄にしまおうとすると、
「そのノート、どうするつもりだ?」
黒羽さんがその動きを遮るようにして訊ねてきた。
変な質問に首を傾げる。
どうするも何も……。
『捨てます』
新しいメモ帳の最初のページにそう書くと、まるで僕が非常識なことを言ったかのように彼は眉を顰めた。
責めるというまで攻撃的ではないが、しかしその目は明らかに非難めいた色を宿していた。
一体、僕の返事の何が悪かったのか全く見当がつかず戸惑っていると、
「じゃあそのノート、俺にくれないか?」
そう言って差し出された手に、さらに困惑が深まる。
なぜ使用済みの、言ってしまえばゴミ同然とも言えるこのメモ帳をわざわざもらおうとしているのか、その意図を図りかね彼とメモ帳を交互に見遣る。
視線に含まれた疑問を察したのだろう、彼が言った。
「だってそのノート、俺と会う時しか使っていないだろう?」
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