第14話
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黒羽さんとつき合い始めてちょうど一ヶ月がすぎた頃、僕らは初めてキスをした。
人気のない夜の公園だった。
僕らは噴水の前のベンチに座って、さっき見た映画の感想を語り合っていた。
電灯の灯りはあるものの、紙の上の文字は見えにくく、自然と僕らの距離は近くなっていた。
会話が途切れて、ふと紙の上から顔を上げると、間近に彼の顔が迫っていた。
キスの予感を感じ取った時にはすでに遅く、唇が重なり合った。
驚きのすぐ後に、じわりと不快感が広がった。
突き放したい衝動に駆られたが、ぎゅっと拳を握りしめ出かけた手を抑え込んだ。
なぜそこまでしてキスを我慢したか。
それはこの一ヶ月で彼のことを好きになったから、ではない。
当然ながら、彼に男女の間に生まれるような恋愛感情は一切芽生えなかった。
しかし、友人として僕は彼に好意を抱いていた。
今まで友人などできたことのない僕にとっては、唯一無二の好意であり、大きなものだが、けれどやはりキスを許すほどのものではない。
それでもキスを拒まなかったのは、この関係を終わらせたくないと思うほどに、彼のことを好いていたからだ。
正確には、僕を盲目的に愛し、肯定してくれる存在を手放すのがおしかったのだ。
有体に言えば、彼の優しく包み込むような肯定の言葉に、僕はすっかり虜になっていた。
「よかった。やっと明日香とキスができた」
僕の唇から離れると、安堵するように微笑んで黒羽さんが言った。
相思相愛を信じて疑わない彼に後ろめたさを感じながら、僕は曖昧に笑みを返した。
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