第10話


****


やはり黒羽さんは誠実だ。

今日も僕より先にカフェに来ていた。

携帯をいじりながら僕を待っている。

その姿を近くの席に座っている女子高生三人が、ちらちらと見ながら声を潜めて話している。

話している内容は全く聞こえないが、高揚に頬を淡く染める彼女たちの表情を見れば大方見当はつく。

彼の秀でた容姿は、人の、特に女の子の目を引くため、注目を集めている時に話し掛けるのは勇気のいることだった。

できれば彼女たちの話題が彼から他のことに移った時を見計らって席に着きたいが、待たせるのも悪い気がして僕は意を決して、彼の元へ向かった。

僕がテーブルに近づくと、彼は気配を察知したのか携帯からスッと顔を上げた。


『待たせてしまってごめんなさい』


鞄からあらかじめ準備していたメモ帳を取り出し、彼に向ける。

彼は優しく微笑んで首を振った。


「気にしなくていい。俺、明日香を待っている時間は好きだから」


耳の奥まで鳥肌の立ちそうな甘い言葉に、僕はまごつきながら椅子に腰を下ろした。


「なに飲む?」

『ホットコーヒー』


僕の返答を見るとすぐに黒羽さんは店員さんを呼んで注文してくれた。

別に筆談で注文すればいいのだが、彼は喋れない僕を気遣ってか店員との仲立ちをしてくれる。


「うわぁ、すっごいブスじゃん」


小さな声だったが、しかし剥き出しの悪意ははっきりと聞き取れた。

声の方に視線を向ければ、さきほどの女子高生たちがこちらを見ながら、あからさまな嘲笑を浮かべこそこそと話している。

一応声は潜めているものの、隠すことのない悪意は、彼女たちの密めきから溢れ出ていた。

僕は居心地の悪さから顔を下に向け、お冷をちびちびと飲みながら気を紛らわせた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る