第10話
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やはり黒羽さんは誠実だ。
今日も僕より先にカフェに来ていた。
携帯をいじりながら僕を待っている。
その姿を近くの席に座っている女子高生三人が、ちらちらと見ながら声を潜めて話している。
話している内容は全く聞こえないが、高揚に頬を淡く染める彼女たちの表情を見れば大方見当はつく。
彼の秀でた容姿は、人の、特に女の子の目を引くため、注目を集めている時に話し掛けるのは勇気のいることだった。
できれば彼女たちの話題が彼から他のことに移った時を見計らって席に着きたいが、待たせるのも悪い気がして僕は意を決して、彼の元へ向かった。
僕がテーブルに近づくと、彼は気配を察知したのか携帯からスッと顔を上げた。
『待たせてしまってごめんなさい』
鞄からあらかじめ準備していたメモ帳を取り出し、彼に向ける。
彼は優しく微笑んで首を振った。
「気にしなくていい。俺、明日香を待っている時間は好きだから」
耳の奥まで鳥肌の立ちそうな甘い言葉に、僕はまごつきながら椅子に腰を下ろした。
「なに飲む?」
『ホットコーヒー』
僕の返答を見るとすぐに黒羽さんは店員さんを呼んで注文してくれた。
別に筆談で注文すればいいのだが、彼は喋れない僕を気遣ってか店員との仲立ちをしてくれる。
「うわぁ、すっごいブスじゃん」
小さな声だったが、しかし剥き出しの悪意ははっきりと聞き取れた。
声の方に視線を向ければ、さきほどの女子高生たちがこちらを見ながら、あからさまな嘲笑を浮かべこそこそと話している。
一応声は潜めているものの、隠すことのない悪意は、彼女たちの密めきから溢れ出ていた。
僕は居心地の悪さから顔を下に向け、お冷をちびちびと飲みながら気を紛らわせた。
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