第20話

冷酷に言い放たれたその言葉に、全身が凍りついた。


「な、何も、やってない!」


再び事実無根を訴えるが、聞く耳を持たず。

むしろ反抗と捉えられたのだろう、足先に力をさらに加え過敏な箇所を加減なく踏み躙った。

半ば涙目になりながら悲鳴に喉を引き攣らせた。


「だからさっきから嘘つくなって言ってんだろう? ……もしそれでも嘘をつき続けるなら、お前の彼氏に、あんたが付き合ってる奴は女装趣味の変態野郎です、って教えてやろうか?」


吊り上げた口の端から、意地の悪さと、僕が彼の要求を受け入れざるを得ないことを確信している余裕が、たっぷりと滲み出ていた。

腹立たしいことこの上ないが、しかし事実彼の脅しは僕の拒否権を容易に奪った。

黒羽さんの日毎に肥大する僕への執着を考えると、男とばれたが最後、その執着は丸ごと暴力となって僕に降りかかる恐れがある。


「下着を脱げ」


嫌だ。

感情は即座に拒否の言葉を発した。

しかし、実際は黙ったままのっそりと立ち上がり、下着と黒タイツに手をかけていた。

従順となった僕にさぞかし満足しているだろうと、膝の辺りまで下着を下ろしたところで顔を上げると、西條は冷たい無表情でこちらを見ていた。

てっきり嗜虐心溢れた厭な笑みを浮かべているに違いないと思っていた僕は、少し戸惑った。


「……ふぅん、そんなに彼氏にバレたくないんだ」


西條は鼻白んだ声で呟いた。

何が気に食わないのか僕には皆目見当がつかなかった。

僕の視線に気づくと、バツが悪そうに顔を歪めた。


「ぼさっとしてんなよ。脱いだら今度は便器に座れ」


肩口を強く押され、僕はよろめきながら便座に腰を下ろした。

剥き出しになった皮膚に、便座の無機質な冷たさが染みて思わず下半身が竦む。


「次はスカートを口でくわえてチンコを見えるようにしろ」


淡々としたその命令内容に、体が固まる。

そんな羞恥を誘う格好などしたくない。

けれどいくら拒んだところで、僕の意志など暴力をもって容易に却下されることは目に見えている。

無駄な抵抗をしてこの嫌な時間をいたずらに引き延ばすことこそ時間の無駄だ。

僕は視線を逸らし西條を視界から排した。

ここには自分だけだと思い込ませて心を無にする。

スカートの裾を口でくわえる。

荒ぶる波のようなデザインのフリルが口の先でかさばって、空気の行き場を奪っていく。

自然、鼻の呼吸が荒くなる。


「何? お前興奮してるの? 気持ちわりぃ」


西條がこちらを見下ろしながら鼻で笑った。

好きに解釈すればいい。

弁解も面倒だった。

僕はひたすら膝に視線を落とした。


「じゃあ、もっと興奮させてやるよ。……そのままの状態で抜け」


無の心を決め込んでいた僕だったが、この命令にはさすがに目を剥き、顔を上げた。

そんな僕に西條は慈悲の欠片も見せることなく、再度「抜け」と冷酷に言い放った。

早くこの空間から脱するべく、彼の命令に嫌々ながらも従ってきたが、これは容易に受け入れられるものではなかった。

人前で自慰行為など羞恥の極みに他ならない。

逃げ道を探るように無意味に視線を泳がせ躊躇していると、唐突に西條が足を上げ、そのまま僕の股間に蹴りを抉り込ませた。


「っがぁ……!」


苦痛の呻きとスカートのフリルが口からはらりとこぼれ落ちた。


「何、躊躇ってるんだよ。それともあれか? 自分の手より、人の靴の裏でいじられる方いいのか?」


フリルに隠れた西條の足が、剥き出しになった股間を加減なく踏みつける。

小石が所々に埋まった靴底の浅い凹凸をすり付けるような動きに、苦悶の悲鳴がのどの奥からほとばしった。


「や、やめ……っ! じ、自分の手でするからっ」


意を決して口にするが、西條は鼻で笑って足の動きを止めようとしない。


「言い方がなってねぇな。自分の手でシコシコさせてください、お願いします、だろうがっ」


さらに強く踏みつけられ、痛みに苦悶する僕に選択の余地などなかった。


「じ、自分の手で、シ、シコシコさせてく、ださい、おね、お願いしますっ」


大声を上げたはずみに、痛みや恥ずかしさ、悔しさなどいろんなものが混ざった涙が目尻からこぼれ落ちた。

僕の言葉にようやく西條の足がフリルのスカートのから出てきた。


「さっさとしろ。もちろんスカートをくわえろよ」


僕は再びスカートの裾を口に含んだ。

フリルの先が咥内の唾液と口に流れ込んできた涙で湿るのが分かった。

僕の下半身にぶら下がるそれは、瀕死寸前の喘ぎを漏らしているようにも見えた。

痛みで萎えたそれにそっと手を添える。

痛みを癒すようにそっと、けれど欲望を煽り立てるように着実に、その芯を扱いた。

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