第19話
「どうして、ここに……?」
困惑と恐怖で声が震えたが、何とか質問することができた。
「どうしてって、お前が最近俺らと遊ばなくなったからどうしたのかなと思って、後つけてきたんだよ。……お前、何? 女装にはまちゃったの?」
僕を見下ろす目には、残忍な光が宿っており、思わず後ずさる。
「そ、そんなんじゃないっ」
「あっそ。でもその姿で言っても説得力ねぇから」
確かに彼の言う通りだった。
恥ずかしさのあまり熱を帯びた顔を下に向けたが、そんなことお構いなしに、西條は僕の前にしゃがんでこちらをのぞき込んできた。
「あ、それとも彼氏に嫌われないようがんばって女の子演じてんの? 健気だねぇ」
彼の言葉に顔を上げると、西條は携帯の画面をこちらに突きだしてきた。
そこには、女装した僕と黒羽さんが並んで歩く画像があった。
サッと全身から血の気が引いた。
「不細工童貞河合くん、熟愛報道~。お相手は超絶イケメン男子。いったい河合くんはどんな腰づかいで彼を射止めたのでしょうか」
携帯をマイクに見立てているようで口元へ押しつけられる。
卑猥な響きを持った冷やかしだが、目が笑っておらず、鋭い詰問の視線に僕は身をすくめた。
すると、何も答えない僕が気に食わなかったのだろう、腕を振りあげ携帯で左頬を殴りつけてきた。
「どう腰を振ってあのイケメンを虜にしたか答えろって言ってるのが聞こえねぇのか」
冗談を一切含まない低い声音に、ひゅ、と喉の奥がすぼまる。
無言は次の暴力を招く。
僕は萎縮した喉を何とか叱咤して答えた。
「な、何もしてな、いっ」
無実を訴えるような必死さで言い募ったが、再び左頬を殴られる結果となった。
「嘘ついてんじゃねぇよ。てめぇみたいな不細工、セックスなしであんなイケメンがつき合うわけないだろ」
ハッ、と鼻で笑われる。
確かに彼の言う通りだ。
女装をしたからといって、可愛くなるわけでもなく、むしろこの貧相な男の体で女の子の服に身を包んでいる姿は、ひどく歪で、不気味ですらあった。
けれど、黒羽さんが僕に尋常でない好意を抱いているのは確かだった。
ただ、なぜ彼がそこまで僕なんかを好いているかは皆目見当がつかず、何も答えられずにいると、西條が苛立ちの滲んだ長いため息をフーッと吐いた。
「もういいわ、時間がもったいねぇ」
黙りこんでいる僕にうんざりしたのか、もしくはそれほど興味はないのか、彼はあっさりと詰問の姿勢を崩した。
僕はほっと胸を撫で下ろした。
しかしそれは、言葉による、詰問をやめただけだった。
突如、彼は脚を振り上げ速度を落とすことなくその足を僕の股間に振り降ろした。
「……っ!」
過敏な急所に、加減を一切感じられない強い蹴りがめり込むように入り、僕は声にならない悶絶の悲鳴を上げた。
だが、そんな僕を一顧だにせず、むしろ苦悶の様子をおもしろがるようにせせら笑いながら足に重心を掛けてきた。
「い、痛いっ! や、やめて……」
懇願するように訴えるが、彼はそれを無視して言った。
「どうやってあのイケメンを手懐けたか、体で答えろ」
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