第6話

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繁華街の中をしばらく男に連れられ歩いた。

酒気を帯びた大人の喧噪がひしめく街は、僕には未知の世界であり、ひとたび男から手を離せば二度と元の世界には戻れないような気にさせた。

はぐれぬよう子供が人混みの中で親の手にしがみつくような必死さで、彼の手をぎゅっと強く握ると、男は微笑みを浮かべて「大丈夫、もう少しで着くから」と言った。


男が足を止めたのはとあるバーの前だった。

明らかに年齢制限を受けるだろうそこに、男は躊躇うことなく踏み行った。

鼓膜を突き破りそうなほどの大音量の音楽に思わず顔を顰めた。

店内は黒を基調にしており、また照明も弱く薄暗かった。

お酒と煙草の香りが立ち込めるそこは、どこのテーブルでも複数の派手な男女が、体を絡ませているのかと一瞬見紛うほど密着して、楽しげにお酒をあおっている。


「あ! ヘッドぉ、こんばんはぁ」


スキンヘッドの男が、席を立ってこちらに、正確には僕の横の男の元へ駆け寄ってきた。


「久しぶりッスね、最近顔出さないから心配したんですよぉ」


赤らんだ顔と、酒気が滲んだ吐息と呂律に、スキンヘッドの男が相当酔っていることが窺えた。

スキンヘッドの男はちらりと僕の方を見て、目を見開いた。


「ヘッドぉ、どうしたんスか? 連れてる女、全然いつもとタイプが違いますね。あ、もしかして、まわす用の女ですかぁ?」


ケラケラと酷薄な下卑た笑い声を立てるスキンヘッドの言葉に、サッと全身から血の気が引いた。

性の知識に疎い僕だが、それでも彼の言葉から物騒さを感じ取ることができた。

さらに不安を煽るかのようなタイミングで、男が繋いでいた手を放した。

裏切られたような心地で男を見る。

しかし、男はこちらを見ていなかった。

男は前のスキンヘッドの男の方へ手を伸ばした。

その手は凶暴さを滾らせた荒い動きで、スキンヘッドの男の胸倉を掴んだ。


「ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ。次そんなことこの子の前で言ってみろ。……殺すからな」


脅しに聞えない冷たく鋭い声に、それを向けられていない僕も思わず震えた。

僕でもそうなのだから、その声を直に差し向けられたスキンヘッドの男の恐怖は想像に難くない。

彼の顔から酔いの赤みが一瞬にして消えた。


「す、すみませんでしたっ」


スキンヘッドの男は、男と僕に深く頭を下げて、逃げるようにして自分のテーブルに戻って行った。

一連の出来事に呆気にとられていると、男は「奥の部屋、使うから」と店員に言って、再び僕の手を握って歩き始めた。

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