第3話

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ナンパ通り。

そう呼ばれているのは、街の駅から少し離れたホテル街の手前にある通りのことだ。

もちろん正式名称ではない。

ホテル街が近いこともあり、どんな女の子でもそこに立っていれば、誰でもナンパされるからそう呼ばれているのだ。


西條たちが僕に女装させたのは極めて単純な理由で、そのナンパ通りに僕を立たせて、ナンパされるか否かを賭けるということだった。

タイムリミットは夜の十時。

原と坂本は、ナンパされない方に、西條はナンパされる方に賭けた。


びゅう、と鋭い寒風が通り過ぎ、僕は肩をすぼめた。

かれこれ四時間ほど立っている。

もちろんまだナンパはされていない。

僕としては怪しい人間にかかわり合いたくないので、ナンパなどされたくないが、しかし西條が「ナンパされる」方に賭けたのなら話は変わる。

あの三人の中で中心になっているのは西條であり、彼が一番の発言力を持っている。

彼は子どもっぽく、たいそうな負けず嫌いであるから、こんなくだらない賭であろうと負ければ途端に不機嫌となるだろう。

そしてその不機嫌さは僕に暴力となって吐き出される。

今日ナンパされるかされないかで、明日の暴力加減が変わるのだから心中穏やかではない。


周りをきょろきょろと見渡す。

この通りは、駅の方面に向かって居酒屋が、ホテル街に向かう方にはいかがわしい店が建ち並んでいる。

僕は通りがちょうど居酒屋からいかがわしい店へシフトしていく境に立っていた。

ナンパを狙うのならもっとホテル街寄りの方に移動した方がいいだろうが、僕の立っている向かいのレストランから西條たちが見張っているので移動はできない。

また冷たい風が吹き付けてきた。

タイツは履いているものの、足下が異様に冷える。

僕はその場にしゃがみ込んだ。

体内のわずかな熱が逃げてしまわないよう膝をぎゅっと抱く。


どうしてこんな目に遭わなくてはならないのだろう。

何かの報いであれば受け止めざるを得ないが、人に危害を加えることも、法に触れるようなこともなく、善良とまではいかなくとも普通に生きてきた。

どうして僕が……、と理不尽さにむせびそうになる。

しかしそう自分の不運を嘆きながらも、どうして自分がこういった理不尽を受けるかの理由は何となく分かっていた。


小さな頃から転勤族で、転校を繰り返していた僕は、生まれ持っての気弱さと、見目の悪さで行く先々でいじめにあっていた。

女装を強要させられたのも今回が初めてではない。

いじめの内容は、どこにいってもオリジナルティのないマンガやテレビをまねたようなものばかりだ。

いじめられることが続き、僕の性格はさらに暗く内向的なものになり、そこに付け入れられるようにまたいじめられる。

その繰り返しでできた今の僕は、まるで虐げられるために生まれてきたような人間であり、いじめる者にとっては格好の餌食だろう。

もっと強く、自信を持って生きなければならないことは分かっているが、どうやったらそうできるのかが分からない。


額を膝頭に押しつけ、じくじくと思考を湿らせていると、


「ねぇ、君どうしたの?」

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