第10話 コンビ解消?! 動き出す“ディス・パレイド”

第10話 《アバン》

 炎は、赤かった。

「誰か!! あの中に、まだ!! まだ、うちの子が!!」

 泣き叫ぶ声が、少年の耳の奥の鼓膜を、ビリビリと揺らしていた。少年は、目の前の光景を恐れて、すぐ隣にいた父親の足にしがみついた。

「おとう、さん……」

 少年が父親の顔を見ようと顔を上げる。父親は、ただ、真っ直ぐに炎が上がる建物を見つめていた。

「おとうさん……?」

 隣の父親がそっと離れ、少年と視線を合わせるようにしゃがんだ。そこにある父親の顔は、いつもと同じ、笑顔だった。

「ここで、待ってろ」

「え?」

「必ず、帰ってくる。だから、お前はここで待ってろよ」

 そう言うと、父親はいつもと同じように少年の頭を乱暴に撫で、立ち上がった。そして、父親は走り出し、燃え上がっている建物に向かって泣き叫んでいる女性のそばに寄った。

「俺が行きます! 必ずお子さんを助け出します! だから、下がって待っていてください!!」

 そして、父親は炎に向かって、走った。その背中を、少年は目を大きく見開いて見つめていた。

「まって……」

 炎の中に、背中が、消える。

「いかないで」

 建物の奥から、轟音が響く。がら、と、建物が崩れるような音が聞こえた。

「いかないで、おとうさん……」

 少年の視界が、揺らぐ。激しい音が、あたりに、響く。

「おとうさん!!!」


[先日発生した大型商業施設での火災で、救助活動にあたっていた消防隊員の日村雄一さんが、一酸化炭素中毒のため重症。その後病院へ搬送されましたが死亡が、確認されました]

[なお、来店客・従業員は無事に救助されており――]

 少年は、目の前のテレビに映されている火災現場の映像と、そして死亡した消防隊員の写真を見つめていた。彼の耳には、テレビのアナウンサーの声と、何処からか聞こえる女性の泣き声が届いていた。

「……おとうさん」

 少年の頬から、ぽつり、と、涙が一筋、落ちた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る