第3話《Aパート》


「本当におれ……勝ったんだ」

 父親への報告を終えた翔太は、部屋に戻ってベッドの上に転がっていた。仰向けで大の字になり、翔太は天井を見つめていた。

「……本当に」

 言いながら、翔太はポケットの中に入れていたカードを収めているデッキケースを取り出した。そこから一枚、自分のアルターカードである『剣の勇者 ショウ』のカードを取り出した。

「おれ、勝ったんだ」

[ああ、お前の勝利だ]

 翔太の言葉に、カードの中のショウが強く頷きながら言った。それを見ていた翔太は、目を丸く開いて、動きを止める。

[……ん? どうし]

「うわあああああああああっ?!」

 ショウが尋ねるよりも先に、翔太が驚きの声を上げ、勢いよく起き上がる方が早かった。起き上がった拍子で、ショウのカードはひらり、と床に落ちた。

[お、おい?! なんなんだよいきなり?!]

「や、やっぱり喋ってる?!」

[はあ?! お前、さっきまで普通に話してたじゃねえか!!]

 床から聞こえてくる怒鳴り声にびくり、と肩を震わせながら、翔太は床に落ちたショウのカードを拾い上げた。

「だ、だって……さっきはそういうの気にする余裕もなくって……」

[何なんだお前……]

「そ、それはこっちも同じだよ! 君は一体何なの?!」

 翔太はカードの中にいるショウに尋ねる。ショウは訝しげな顔をして、[はあ?]と聞き返した。

[お前、おれのこと知ってるんじゃないのか?]

「知ってるって……おれが知ってるのは、君が『剣の勇者 ショウ』ってことぐらいで……あとはブレバトのカードってことしか……」

[ブレバトのカード?]

 翔太の言葉に、ショウが首を傾げた。

「えっと……君は今、おれの持ってるカードの中にいるんだ。それがブレバトっていうカードゲームなんだけど……。そっちは、どういう感じでおれと話してるの?」

[え? あー、なんか目の前に四角い光があって、そこにお前が映し出されてるって感じ。まあ、そういう魔法の一種かって思ってた]

「ま、魔法……」

 ショウの口から何気なく出てきた単語を、翔太は思わず繰り返した。

「……ショウは、リヴァーズの人なの?」

 翔太は、昨日読んだルールブックの中にあった異世界の名前を出した。剣と魔法、ドラゴンとモンスターが共存している異世界、リヴァーズ。

[ああ、そうだ。じゃあお前は……オブザーの人間なのか?]

 今度は、ショウが同じように尋ねた。オブザー、それは自分たちが住む世界。翔太はこくり、と頷いた。

[そうか……本当にあったんだな、オブザー……]

 ショウが、信じられない、と言う様な口調で小さく呟いた。

[不思議な力があるんだろ? えっと、何だっけ……、カガク、だっけ?]

「あ、うん……」

[遠くの人と、魔法を使わなくても簡単に話ができたりとか、馬とかモンスターとか、そう言うのに乗らなくてもいい乗り物とか!]

「うん、スマホとか車とか……」

[すげえ……本当にあったんだ……!]

 感動したように、ショウはぱっと表情を明るくさせて翔太を見つめる。翔太はそれを見て、ようやく表情を緩めた。

「ねえ、今度はショウのことを教えてよ」

[おれ?]

「うん。その、君は何者なの? おれは、本当に君の名前ぐらいしか知らないから……」

[わかった。おれは、ブライト・ブレイバーの勇者だ]

「……ブライト、ブレイバー?」

 初めて聞いた単語に、翔太は首を傾げる。

[ああ。おれたちは、敵と戦うために組織を作ったんだ]

「敵?」

 翔太の問いかけに、ショウはゆっくりと頷いた。

[今、おれたちの世界……リヴァーズに、危機が迫ってるんだ]


 リヴァーズは、モンスターやドラゴン、人が共に暮らす世界。魔法を用いて活動することが当たり前で、モンスターたちの力を借りて日常生活を送っている。

 時に荒くれ者のモンスターが人々を襲ったり、魔法を使った犯罪が起きたり、と事件が起きることもあるがそれを取り締まるのが勇者と呼ばれる存在であった。モンスターやドラゴンも、勇者として人間とともに戦うことがあった。戦うことはあれども、大きな争いとなることはなかった。

――しかし、そんな平和は突然崩れ去った。

「――聞こえるか、世界よ」

 空から響いてきた声は、リヴァーズ全土に届いた。低い男の声とともに、リヴァーズの空は暗い雲に覆われ始める。

「我はイーヴァル、新たな世界の支配者だ」

 その声と同時にそれまで温厚だったモンスターやドラゴン、勇者たちまでもが人々を襲う事件が多発した。

「新たな世界を創造する、我らは“ディス・パレイド”。この世界を全て無に返し、新たな世界を作るのだ」

 ディス・パレイド。首領のイーヴァルより与えられた闇の力を使い、あらゆる生命を洗脳し、世界を滅亡へと導く謎の組織。ディス・パレイドによる破壊活動が続く中、正気を保っていた勇者やモンスターたちはディス・パレイドに対抗するための組織を作った。それが、“ブライト・ブレイバー”である。


「……つまり、ショウたちはそのディス・パレイド? っていう奴らと戦ってるって事、だよね?」

[ああ、そういうことだ]

 ショウの話を聞き終えた翔太はぱちぱちと瞬きをしながらショウを見ていた。

「ショウは、すごいね」

[え?]

「だって、世界を救うために戦ってるんでしょ? それってすごいことだと思うよ!」

[そんなこと……]

 翔太に言われ、ショウは顔を俯けて否定した。明らかな様子の変化に疑問を抱いた翔太が話を聞こうと思った時、スマートフォンから着信音が鳴った。

[な、何だ?!]

「ああ、メールだよ。えっと……手紙、みたいなものかな?」

 突然の音に驚くショウに説明をしながら、翔太はスマートフォンを操作する。メールが一通、譲から届いていた。

「えっと……明日、ブレバトで面白いことするから最低でも百円は持って来いよ……? 何だろう?」

[……なあ、翔太]

 譲からのメールに首を傾げている翔太に、ショウが声をかけた。翔太はスマートフォンから手元にあるショウのカードに視線を移した。

「何?」

[今日、お前と戦って……おれ、もっと強くなれる気がしたんだ]

「……強く?」

 真剣な眼差しのショウを、翔太は見返した。こくり、と頷いたショウは言葉を続ける。

[おれは、強くならないといけない。リヴァーズを守るためにも、もっと強く。だから、お前の力を貸してくれないか?]

 それは、先ほどダイゴと戦っていた時にも言われた言葉だった。翔太はショウと、カードが収まっているデッキケースを見た。

「よく……わかんないけど……。でも、おれも、もっとブレバトで強くなりたい! だから、おれも力を貸してほしいな。これからよろしく、ショウ!」

 ショウを見て、翔太は笑みを浮かべて言う。それを聞いたショウも、[ああ、よろしく!]と翔太に向かって微笑んだ。


 翌日。一日の授業を終え、翔太と譲は一緒にショッピングモールに向かっていた。

「今日はシャインじゃないの?」

「シャインでもよかったけど、ちょっと面白いことしようと思ってな!」

 そう言って譲は翔太をゲームセンターまで連れてきた。久しぶりにゲームセンターにやってきた翔太はあたりをきょろきょろと見ながら、譲について行った。

「何でゲーセン?」

「そりゃもちろん、ブレバトするために決まってるだろ!」

「え?」

 翔太がきょとんとした表情を浮かべた時、譲が足を止めた。

「お! 今日は空いてる! ラッキー!」

 そこには、『Break×Battle Arcade』と書かれたゲームの筐体が背中合わせに二台設置されていた。横に広い画面と、手元にはブレバトのバトルテーブルと同じようなフラットパネル。横には赤・青・緑・黄色の四つのボタンがあった。

「ブレバト……あ、もしかしてこれがアーケード?」

「そう! 今日はこれでオレと対戦しようぜ!」

「譲と対戦……」

 今まで譲からブレバトの話を聞かされたことはあっても、実際に譲がブレバトをプレイしているところを見たことがない翔太は、少しだけ緊張していた。しかし、それ以上に、譲と一緒にブレバトをしたいという気持ちがあった。

「うん! やりたい!」

 翔太が返事をすると、譲はにっと笑った。

「よし! じゃあ始めようぜ!!」

 そして翔太と譲はそれぞれ筐体の前に座った。筐体の硬貨投入口に百円玉を入れると、ゲームが始まる。

「翔太、二人で対戦ってやつを選べよー!」

「あ、うん」

 譲に言われ、翔太はボタンを操作して画面の選択肢を選ぶ。『二人で対戦』という項目を選び、赤いボタンを押すと『Lording…』と画面が切り替わった。

「譲、これって他にどんなゲームができるの?」

 待機の間、翔太は譲に尋ねる。

「他? えーっと、5ラウンド制限の『スピードバトル』っていうのと、ラウンド制限なしでレベルアップを目指す感じの『エヴォルトバトル』、それと遠くの人と通信する『オンラインバトル』の三つだぜ」

「譲はよくアーケードやってるの?」

「んー、まあ、たまに。でも、一対一でアーケードするのは初めてだから、超楽しみ!」

 譲が楽しそうに言うと、翔太も「うん!」と頷いた。それと同時に『通信完了! デッキゾーンにデッキを置いてください』と画面に表示された。

「じゃあ翔太、始めようぜ!」

「うん!」

 翔太は画面の指示通り、フラットパネルのデッキゾーンにカードを置く。画面に『デッキ読み込み中…』と数秒ほど表示された後、すぐに『アルターゾーンにカードを置いてください』と出た。

「ショウ」

 デッキから『剣の勇者 ショウ』のカードを取り出し、翔太は声をかけた。

[ああ、行くぜ!]

 カードの中のショウが拳を握ってガッツポーズを取る。それを見た翔太は小さく頷いて、アルターゾーンにショウのカードを置いた。

「アルターコール!」

 翔太と譲が同時に宣言する。翔太の画面上に、ショウの姿が映し出された。

「『剣の勇者 ショウ』をコール!」

「オレは『深海の賢者 マーリン』をコール!」

 ショウの正面に、譲のアルターであるマーリンが現れる。

「バトル!!」

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