番外編 運も才能の一つ?

「がー!!!」

 そんな譲の悲鳴を、翔太は何度聞いたことか。はあ、と小さくため息を吐き出しながら、翔太も手元にあるブースターパックの封を開けた。

「もう嫌! なにこれ?! おかしくねえ?!」

「譲の運が悪いだけでしょ」

「そんなことな! ……あるかも」

 翔太の言葉に否定をしようとした譲だったが、結局できなかった。うう、と小さくうな垂れて、譲はテーブルの上にあるカードを見た。

「くそう……もうちょっといいカードが出るはずだったんだ」

「どうしてそう思ったの?」

「決まってんだろ? ブレイバーのカン、だ!」

 どうしてそんなに自信もてるかなあ、と思いながら翔太はパックから取り出したカードを眺めた。そして、その中の一枚を見て小さく「あ」と声を漏らした。

「出た」

「え?! 何が?!」

「これ」

 そう言って、翔太はその一枚を譲に見せる。それを見た途端、譲の表情が明らかに変わった。先ほどまで死んでいたような瞳が、きらきらと輝いている。

「それ!! レアじゃねえか!」

「え、そうなの?」

「あー! 何だよ翔太、その反応は! もっと喜べよー!」

「う、うん……でもなあ……」

 翔太はそのカードを見る。確かにホログラフ加工されてキラキラと輝いているが、効果をよく見ると翔太のデッキには合わないようだった。

[それ、多分おれたちと相性悪いぞ]

 翔太の手元に置いているカードの中から様子を見ていたショウが、冷めた声で言う。その意見には翔太も同感なのだが。

「ねえ、翔太さま」

 上目遣いの譲が、翔太を見ている。

「……何」

「これとこれとこれとこれで、そのカード交換してくれない?」

 譲が出したのは、先ほど自分が買ったカードの中の、コモンカード――レアリティの低いカードの詰め合わせ、だった。

「……それは、ちょっと割に合わないんじゃないかな?」

「何だと?! お前! 一パックしか買ってないくせに!! オレが何パック買ったと思ってる?!」

「五パック」

「正解だよ!!」

 小学生のなけなしの小遣いでブースターパックを五個買うというのは、かなり財布の中身が飛んで行ってしまう状況である。結局譲の方のカードはコモンカード地獄だったようで、お目当てのカードは出なかったらしい。

[レアリティの高さが勝利につながるわけではないというのに……]

 翔太の耳に届いたマーリンの嘆きは、もちろん譲には聞こえていない。翔太が乾いた笑いを浮かべている間にも譲は自分が買ったカードの中からまた組み合わせを考えている。

「じゃあ……これとこれとこれ! あとこれも付けるし、これもどうだ!」

「ごめん……それはおれのデッキじゃ使えないし……。あとそれとそれ、持ってる……」

「ですよね!!」

 半ばやけくそになりながら譲が叫ぶ。レジカウンターで様子を見ていた真澄が笑いをこらえきれなかったのか、俯いて肩を震わせていた。

「おうおう小学生ども、なーに賑やかにやってんだあ?」

「兄貴様……」

 店にやってきた要と、その後ろから忍が続いて二人のもとに声をかける。譲は要の姿を認めるとすぐにそばに駆け寄り、再び上目遣いを向ける。

「ねえ、お兄ちゃん?」

「却下」

「まだ何にも言ってないのに?!」

「どうせお前の事だ。小遣い貸せとか言うんだろ? 断る」

「ケチー! 可愛い弟の頼みだろ?!」

「……お前、また無駄遣いしたのか」

 ぽこぽこと要の身体を叩く譲を見て、忍が呆れのため息を吐きながら言う。

「違いますよ師匠! これ、必要トーシってヤツです!」

「必要投資だとしても計算して使え。戦術にも出るぞ」

 忍が腕を組みながら言うと、隣の要が大きく吹きだした。

「日々の生活も……ブレバトに繋がる……くっ……」

「……何が可笑しい?」

「ブレバトバカの思考はさすがだなあって……ぷぷっ……」

「よしわかった、要。ブレバトでボコボコにしてやる」

 ほら来い、と忍は要を引きずるようにしてバトルテーブルへと連れて行った。そんな様子を、翔太は微笑みながら見ていた。

[……で、そのカードどうするんだ?]

「……あ」

 ショウに言われ、翔太は持っていたレアカードの存在を思い出した。

「まあ、いつか使うかもしれないし」

[そのいつかが来るのか?]

「それはわかんないけど。でもほら、いつか、ね」

 にこ、と翔太がカードの中のショウに微笑みかける。ショウは困ったような笑みを浮かべて[まあ、そうかもな]と返した。

「忍?! お前容赦なさすぎじゃねーか!」

「アタック」

「このやろー!!」

「師匠やっちゃえー!」

 ぎゃあぎゃあと騒がしい声がバトルスペースから響く。翔太はぱたぱたと走ってバトルスペースへ向かった。

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