第7話《Bパート》
「俺は『進化する黒龍 ブラック・ドレイク』でディフェンス」
「おれはエフェクト! 『レン』の効果、『炎の補佐』でチャージを一つ増やします」
翔太は宣言し、手札から一枚チャージゾーンにカードを置いた。それにより、翔太のチャージゾーンにはカードが三枚となった。Bフォンに映し出されているライフ8の表示を確認した後、翔太はダイゴを見た。
ダイゴも『ダイナミック・ドラゴン』のアルター効果『壮大なる力』によってチャージを増やし、現在四枚のカードが置かれている。ダイゴのライフは、翔太が最初に削った7から変わっていない。
「ちゃんとエフェクトも使えるようになったんだな?」
からかうように言うダイゴの言葉に、翔太はわずかに頬を膨らませる。
「お、おれだっていろいろ勉強しながらブレバトやってるんです」
「そうだったな。なら、その勉強の成果とやらを見せてもらおうか」
「はい!」
と、威勢よく返事をした翔太だったが、自分の手札とダイゴのチャージやライフを見て一瞬手を止めた。
[翔太、どうする?]
ホログラフのショウが振り向いて、翔太に尋ねる。
[ここで一気に攻めるか?]
「うん……でも、まだ……」
翔太は自分の手札を見てショウの言葉に首を振った。そして、カードを引いた。
「ドロー! ……チャージ、ドロー!」
「パーティーコール。俺は『龍巫女 リリース』をコールする」
ダイゴが宣言すると、アルターゾーンのダイナミック・ドラゴンの前に龍の顔を模した仮面を着けた黒い髪の少女が現れた。白い着物のような服に赤い袴姿は、まさに巫女装束だった。
「……やっぱり巫女ってああいう感じだよね」
「ああ……」
つい先日、同じ『巫女』と名がつく物の全く雰囲気の違うカードを見たことがある翔太と譲は、現れた『龍巫女 リリース』を見て乾いた笑いを浮かべた。
「っくしょん!」
そんなくしゃみをしたのは、ドリーム☆ライブのゲーム機械の前にいた、とある男子高校生だった。
「……誰かが噂でもしているのか? ん……レアコーデ……」
眼鏡のブリッジを人差し指でくい、と押した後、男子高校生――一瀬はゲームの選択ボタンを押した。
「おい、翔太」
ダイゴに呼ばれ、翔太ははっと目を開いた。それから手札から一枚カードをコールした。
「す、すみません! おれは『勇者の盾 ラウンドシールド』をパーティーコール! ディフェンスです!」
「俺は『リリース』でエフェクト発動。『龍巫女の祈り』により、チャージを一つ追加」
そう言って、ダイゴはデッキからカードを一枚引き、チャージゾーンに置いた。
「さらに、『ダイナミック・ドラゴン』のアルター効果、『壮大なる力』発動。アクション成功時にチャージを一つ追加する」
「チャージを二つも……」
ダイゴのチャージゾーンには六枚のカードが置かれた。それを見た翔太は、自分の手札をもう一度見た。険しい表情の翔太を、ショウが見上げる。
[翔太、大丈夫か]
「……うん。必ず、チャンスはあるはずだから」
そう言って、翔太はカードを一枚引いた。
「ドロー! チャージ、ドロー!」
「俺はチャージを六枚レイズする」
ダイゴはチャージゾーンからカードを六枚パーティーゾーンの後ろに置き、パーティーゾーンにカードを一枚置いた。ダイゴのその動きに表情を険しくさせながら、翔太もパーティーゾーンにカードを置いた。
「パーティーコール、『炎の狼 ファイヤ・ガルル』でアタック!」
「ブレイク!!」
翔太の宣言をかき消すような大声で、ダイゴが叫んだ。
「俺は『ドラゴニック・ラグナロク』を発動! レイズしたカードの数だけ、相手にダメージを与える!!」
「え?!」
ダイゴの言葉に翔太が驚きの声を上げる。それと同時に、ダイナミック・ドラゴンが口を大きく広げて咆哮を上げた。そして黒い翼を羽ばたかせ、宙を舞う。
「行け! ダイナミック・ドラゴン!」
ダイナミック・ドラゴンがショウの上を飛ぶ。ショウは剣を構えるが、高く飛ぶダイナミック・ドラゴンの前になす術はなかった。ダイナミック・ドラゴンが翼を一振りすると、黒い風がショウに向かって吹き荒れた。
[うわああっ?!]
風に巻き込まれ、ショウの体が宙を舞う。そしてその勢いのままショウの体は地面に叩き付けられた。
「ショウ!」
翔太が叫ぶと、Bフォンのライフ値がどんどん減少していった。そして、その値は『2』の表示で停止した。
[……大丈夫だ。おれはまだ、戦える]
翔太の叫びに答えるように、ショウは剣を地面に突き立て、それを支えにして立ち上がった。
[翔太。まだ、チャンスはあるだろ?]
ショウは振り向き、翔太を見た。その真っ直ぐなまなざしは、翔太を信じている、と語っていた。そして、翔太もショウを見返して、確信を持って頷いた。
「……ダイゴさんは多分、おれに『バーニング・スラッシュ』を使わせないためにライフをぎりぎり削らなかったんだ」
翔太の切札であるブレイク『バーニング・スラッシュ』はライフが1の時にしか使用できない――ライフが1以上であれば、『バーニング・スラッシュ』は使用できない。だからこそ、ダイゴは翔太のライフを2の状態で残したのだ。そして、ダイゴの使うデッキはドラゴン――打撃力が高いデッキである。
「ショウ。まだ、おれたちは負けてない」
翔太ははっきりと、ショウを見て言った。ショウは翔太の言葉と、その真っ直ぐな瞳を見て、確信を持って頷いた。
「ドロー! チャージ、ドロー!」
「……お前、まだ諦めてないのか」
翔太がカードを引く様子を見ていたダイゴが、驚いたような、それでも楽しそうな表情を浮かべた。初めてのバトルで怯えながらカードを引いていた翔太が、今は堂々とダイゴを見つめて、そして勝利を諦めていない表情を浮かべてカードを手にしている。
「諦めてません。だって、まだ、おれのライフは残ってるから!」
「面白い……。なら、次のラウンドで決めてやる! ドロー!」
ダイゴも笑いながら、カードを引く。手札にあるカードをみて確信の笑みを浮かべるダイゴは、カードを設置した。
「パーティーコール! 俺は『黒曜龍 オブシダン・ドラゴン』でアタックだ! 打撃力は2!」
ダイゴがカードを表に返し、黒いドラゴンをコールした。ホログラフに映し出されるドラゴンの鱗は鉱石のように鋭く輝いている。
「おれは『双剣 ロインズ・ソード』をコール! アタック!」
翔太が宣言すると、ショウの手に緑色に輝く刀身の剣が現れた。それを掴み、ショウはオブシダン・ドラゴンと向き合う。
「ここに来てアタックか。だが、ショウのアルター効果を使っても、その剣じゃオブシダン・ドラゴンの攻撃は防げないぞ」
ダイゴの言う通り、ショウとロインズ・ソードのアタックポイント、さらに『剣の加護』のアタックポイントを加えても、オブシダン・ドラゴンとダイナミック・ドラゴンのアタックポイントの合計には及ばない。つまり、このままではダイゴのアタックが通り、翔太の残りのライフが削られてしまう。
「『ロインズ・ソード』の効果、『呼び合う運命』! このカードがアタックするとき、デッキから『双剣 カイムズ・ソード』をパーティーコールできる!」
「……何?」
翔太は宣言し、デッキから『双剣 カイムズ・ソード』を引いてパーティーゾーンに置いた。それにより、ホログラフのショウは右手に緑のロインズ・ソード、左手に黒く輝くカイムズ・ソードを二本持った状態となった。にっ、と笑いながら、ショウは二本の剣を構える。
「さらに、『剣の加護』はパーティーコールされた『剣』と名の付くカード一枚につき、アタックポイントを500アップさせる。つまり、プラス1000!」
「なるほど……そうなると……」
[はあっ!!]
ショウとロインズ・ソード、カイムズ・ソードのアタックポイント合計値に、効果による1000ポイント。ショウはオブシダン・ドラゴンを二本の剣でバツ字に斬った。オブシダン・ドラゴンは悲鳴のような甲高い鳴き声を上げて消滅した。
「双剣は二つで一つの効果を発揮する……このアタックの打撃力は、1です」
翔太はそう言って、パーティーゾーンのロインズ・ソードとカイムズ・ソードをドロップゾーンに置いた。ダイゴはBフォンを見て、自分のライフが7から6に減少したのを確認した。
「二本の剣で打撃力1、か」
ふっと、笑いながらダイゴが言う。まだ半分以上残っている自分のライフを見て、ダイゴは余裕の表情でカードを引いた。
「ドロー! チャージ、ドロー! カードをレイズ! さあ、どうする翔太!」
余裕を見せるダイゴの表情も気にせず、翔太は確信を持った表情でカードを引いて手札を見た。そこにある一枚のカードに確信を持ち、翔太はカードを置いた。
「おれは、カードを6枚レイズ!」
「パーティーコール! 俺は『轟く黒龍 ブラック・ドラゴン』でアタックする!」
ダイゴの宣言により、ホログラフ上に黒いドラゴンが現れた。岩の様にごつごつとした重々しい鱗を持つドラゴンが、大きな翼を広げて宙を舞う。ダイナミック・ドラゴンも咆哮を上げて、翼を羽ばたかせた。二体の龍の羽ばたきから吹き荒れる風が、ショウのマントをばさばさと揺らす。
「打撃力は2! さあ、決着をつけてやる!」
「そうですね……ブレイク!!」
翔太の宣言に、ダイゴがはっと目を見開いた。
「おれは、『ソードズ・レイン』を発動! ドロップゾーン、そして、アルターゾーンにある『剣』と名の付くカードは6枚! その分だけ、ダメージを与えます!」
「何?!」
ブラック・ドラゴンとダイナミック・ドラゴンの周囲に無数の剣が現れ、その剣が雨の如く一気に二体のドラゴンに突き刺さる。そして、ショウは光る剣を一本掴み、ドラゴンに向かって走った。
[食らえ!!]
ショウは叫びながら跳躍し、横一線に大きく剣を振った。二体のドラゴンは悲鳴を上げて、ホログラフ上から消滅した。同時に、ダイゴのBフォンに0と言う表示が映し出された。
「……か、勝てた……」
「うおお! 翔太、すっげー!! DDに二勝目だー!!!」
呆然とした表情で呟く翔太の元に、譲が叫ぶように言いながら駆け寄った。翔太の両肩を叩きながら、譲はきゃあきゃあとはしゃぐように跳ねている。
「ちょ、ちょっと譲! 痛いって!」
「だって今のすごかったぜー! なんかもう、オレがいろいろ教え与えた知識を使ってくれたー! 感じでマーリンも泣いて喜んでるぜ!」
興奮しすぎている譲の言葉の半分は理解できなかった翔太だったが、それでも譲が今まで一緒にバトルをしてくれたことでここまでの戦いができた、というのは事実だった。
「まあ、マーリンのおかげかもしれないけどね」
が、目の前ではしゃぐ譲を見ていると、何故か素直に礼を言えなくなった翔太はふふ、と笑いながら言った。
「おい! オレのおかげだろ!」
「翔太」
そんなやり取りをしている間に、翔太の元にダイゴがやってきていた。翔太が声に気付いて見上げると、ダイゴはふっと穏やかに微笑んだ。
「お前、強くなったんだな」
「……はい!」
「今日は良いバトルをありがとう。だが、次に戦うときは俺も負けないからな」
「つ、次も……、次もおれが勝ちます!」
ダイゴの言葉に翔太が張り合うように言うと、ダイゴはにっと歯を見せて翔太の頭を撫でた。
「おう、楽しみにしてるぞ!」
「おいDD! 次はオレとバトルしろよー!」
翔太とダイゴの会話を横から見ていた譲が、ぴょんぴょんと跳ねながらダイゴに言う。ダイゴは「おう、いいぞ」と楽しげに言いながら、バトルテーブルに向かった。譲もデッキケースを取り出して、ダイゴと同じテーブルに向かって走る。
[翔太]
ダイゴと譲がテーブルを挟んで向かい合っている姿を見ていた翔太に、カードの中からショウが声をかけた。声に気付いた翔太が、カードを手にしてショウの顔を見た。
「何?」
[お前、強くなったな]
ショウに言われ、翔太は目を丸く開いた。ぱちぱち、と瞬きをして、翔太はショウを見た。
「え……?」
[正直、最初はお前っておどおどしてたし、おれを見るだけでも叫んだりしてただろ? あのダイゴってやつと戦ったときも、不安そうだったし。でも、あの戦いの後から、どんどんお前は強くなっていったよ]
ショウはふっと微笑みながら翔太に言った。翔太はショウの言葉を嬉しく思いながらも、小さく首を振った。
「違うよ、ショウ」
[え?]
「おれも多分、強くなったのかもしれない。でも、それはショウも同じだよ。おれとショウは、一緒に強くなったんだよ」
[一緒に、強く……]
今度は、ショウが驚いたように目を丸く開いた。翔太はそんなショウを見て微笑んだ後、言葉を続けた。
「おれはショウに力を貸した。おれもショウに力を貸してくれた。これって、二人で強くなったってことじゃないかな?」
[……ああ、そうだな]
「だからさ、これからもよろしく」
にっ、と翔太が笑ってみせると、ショウも強く頷いて翔太に微笑んだ。
[ああ、よろしくな]
「翔太ー! そろそろバトル始めるぞー! オレがDDに勝つところ見せてやるー!」
バトルテーブルについた譲が翔太に向かってぶんぶんと手を振りながら声をかける。翔太は譲に向かって頷き、バトルテーブルへ向かった。
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