第1話《Bパート》
譲と別れ、家に帰った翔太は早速カードデッキの箱を開け、ベッドの上でうつ伏せになりながらルールブックを読んでいた。
「えーっと……まずは、ブレイバーの代理となるアルターをカードの中から設定します……? 何それ」
出だしから躓いてしまったような気がした翔太は、はあ、と大きく溜息を吐き出した。
「カードには攻撃力と防御力、特殊効果を使うための効果力、そして必殺技の力を示すブレイクパワーがあります……?」
ルールブックを朗読している翔太の頭の上には絶え間なく疑問符が新しく生じている。ルールブック自体は、小学生の翔太でもわかりやすいような、簡単な文章で書かれているのだが、内容のイメージが湧かないことから、翔太はいまいち理解できずにいた。
「うーん……とりあえず、自分のアバター決めたらいい、みたいな感じなのかなあ。それで……? アルター以外のカードはパーティと呼ばれ……、バトルの時にはアルターとパーティの能力値を合計したもので戦うようになります……?」
読み上げるにつれ、翔太の声に疑問の色が深まってゆく。
「で? バトルの時にできるのは、『アタック』『ディフェンス』『エフェクト』、そして必殺技の『ブレイク』……。バトル時にパーティカードと一緒にアクションカードを提示して発動されます……譲、なんでこんなややこしいゲームできるんだ?」
そろそろ読むのを諦めたい、と思いながら翔太はごろりと寝転がって仰向けになり、本を天井に向けながら続きを読んだ。
「『アタック』は『エフェクト』に強く、『エフェクト』は『ディフェンス』に強く、『ディフェンス』は『アタック』に強い……? あ、これ、じゃんけんみたいな感じ? それで、『ブレイク』はどのカードに対しても強い……じゃあ基本的にじゃんけんみたいな感じでできるのかなあ?」
そして翔太は次のページをめくった。
「ん? 世界観……?」
そこに書かれていたのはルールではなく、『ストーリー・世界観』というトピックスで書かれているものだった。
「私たちの住む世界……“オブザー”とは違う、“リヴァーズ”という世界。そこには、人だけではなくドラゴンやモンスターが住んでいて、魔法も存在する、不思議な世界……」
翔太は頭の中で“リヴァーズ”の光景を想像した。広い大地や深い森。茂みの中から現れる獣、空を翔る大きなドラゴン。そして、自分が手にしたデッキのパッケージに描かれていた、勇者。少しずつリアルに、その勇者の姿が浮かび上がる。赤いマントに、白と赤の鎧。銀色の剣を持つのは、翔太自身によく似た少年勇者。
「なんかかっこいいなあ」
想像して楽しくなってきた翔太は続きを読み始める。
「勇者は、暴れるモンスターを倒したり、魔法の力を使って悪いことをする犯罪者を捕まえるために戦います。大きな争いもなく平和であった“リヴァーズ”ですが、今、危機が迫っています……?」
と、読みかけて翔太の視界がぼんやりと歪んだ。「え?」と翔太が声を上げたとき、手の端から、ページがはらりとめくれた。
「うわっ?!」
そのめくれたページから、翔太の顔面に何かが落ちてきた。思わず本を放り投げて、翔太は顔に落ちてきたものを手に取った。
「な、何だ……?」
それは、一枚のカード。黒い裏面にはブレバトのロゴが描かれていた。翔太はカードの面を返して、表を見た。
「あれ? 何も書いてない……?」
白紙のカードをみて、翔太は首を傾げる。それから、ベッドの下に落ちたルールブックを拾った。
「白紙のカードは、初回封入特典……ネットワークに接続して、スマートフォンで読み込むと、限定のカードが手に入ります。へー……じゃあ、試しに!」
翔太は鞄の中からスマートフォンを取り出した。スマートフォンの上にカードを置くと、自動的にカードのデータを読み込み始めた。その間に、翔太はBフォンを操作する。Bフォンのパネルからホログラフ画面が浮かび上がった。
「そろそろ繋がるかな……、あ! きた!」
画面上にブレバトのロゴが浮かび上がる。翔太がそのロゴに触れると、『限定カード読み込み中』と書かれた画面に切り替わった。
「どんなカードかなあ……」
期待に胸を膨らませながら、翔太は画面を見つめる。――ゆらり、と、画面が揺れた。
「え?」
直後、画面が真っ暗になる。今まで起きたことのない事態に、翔太は目を丸くして「え?!」と大声を上げた。
「ちょ、ちょっと何?! 壊れちゃった?!」
慌ててBフォンを操作すると、画面にノイズが走る。
――……か
「何……?」
一瞬、翔太の耳に誰かの声が聞こえた。辺りを見回すが、そんな声を出すような人物は、いるはずもない。
「気のせい……あ! 限定カードは?!」
翔太が画面を見ると、そこには『読み込み完了』の文字と、カードの絵が映し出されていた。
「これが限定カード……? なんか、これ……」
そこに描かれているのは、赤いマントと白と赤の鎧、銀色の剣を持つ少年勇者。その姿は、まるで、
「おれ、そっくり……?」
先ほど想像していた、自分と同じ姿の少年勇者のカードに、翔太は首を傾げた。
「こんなカードもあるんだ……」
それから画面をスクロールさせると、『カード名登録』という項目があった。
「このカードは、あなただけの名前を設定することが可能です。設定されない場合はデフォルトの名前で表示されるようになります。それじゃあ……」
翔太は画面に触れ、名前を入力する。
「ショウ、っと」
確定ボタンを押すと、カード上に『剣の勇者 ショウ』と文字が書かれた。すると、スマートフォンの上のカードにも反映され始め、カードが出来上がった。
「わあ! すごい、本当のカードだ!」
出来上がったカードを手に取って、翔太は喜びの声を上げる。
「これが、おれだけのカード……!」
仰向けに寝転がり、翔太はカードを天井に向けるようにして見た。
――誰、だ
「……え?」
また、声が聞こえた。今度は、はっきりと、翔太の耳に届いた。
「だ、誰?! どこにいるの?!」
カードを手元に置いて起き上がり、翔太はまた部屋の中を見回す。しかし、部屋には翔太一人しかいない。困惑した表情で、翔太は周りを見る。
――お前は、誰だ
もしかして、この声は幽霊なのか、と思った翔太はきょろきょろと周りを見ながら、恐る恐る声を上げた。
「お、おれは……ひ、日村……翔太……で、です」
――ショウタ……?
「あ、あの! そ、そっちは誰なんですか!」
目をぎゅっとつぶり、翔太は勇気を振り絞って謎の声に尋ねた。
――おれは、ショウ
「……え?」
その名を聞いて、翔太は手元を見る。
「ショウ……?」
カードの中の勇者――ショウが、じっと翔太を見つめている。
「今……、まさか……」
[おれは、剣の勇者、ショウだ]
翔太の目の前で、カードの中のショウが、語りかけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます