第9話《Bパート》
最初のラウンドが、始まる。
「パーティーコール! おれは、『勇者の剣 シルバーソード』をコール!」
翔太は手札から『シルバーソード』のカードを出し、パーティーゾーンに置いた。すると、ショウの目の前に銀色の光に包まれた、剣――シルバーソードが現れた。ショウはシルバーソードを掴み、大きく振って構えた。
[『騎士の剣 ブラックソード』をパーティーコール]
相手が翔太と同じように宣言すると、シャドウの前に黒い刃の剣が現れた。シャドウも剣を片手で掴み、構える。
「翔太、行くぞ!」
「うん! おれは、『シルバーソード』でアタック!」
[『ブラックソード』でアタック]
翔太と相手が宣言をすると、ショウとシャドウは同時に互いに向かって走り出した。
「うおおお!!」
ショウは声を上げながら剣を振る。銀色の刃を、黒い刃が確実に受け止める。しかし、シルバーソードは銀色に強く輝き始めた。
「『ショウ』のアルター効果、『剣の加護』でアタック値は500ポイント上がる! ショウの攻撃が通る!」
翔太が言うと、ショウはシャドウに向かって横一線を入れた。その一線を受け止めたシャドウのブラックソードが、硝子が弾けるような音を立てて砕けて散った。
「『シルバーソード』の打撃力は3だ!」
[『シャドウ』のアルター効果。『痛みの代償』により、ダメージ一回ごとにチャージを増やす。……次だ]
相手は冷静な声のまま、言った。翔太は小さく頷いて、カードを引き、それぞれのゾーンに置いた。
「チャージ! ドロー! ……カードをレイズ!!」
[パーティーコール。『撃滅龍 デモリッシュ・ドラゴン』をコール]
相手の声に応じて、シャドウの背後にドラゴンが現れる。岩のようなごつごつとした鱗、刃のような鋭い爪を持つデモリッシュ・ドラゴンが、咆哮を上げた。
「おれは、『勇者の盾 ラウンド・シールド』をパーティーコール! ディフェンス!」
[『デモリッシュ・ドラゴン』、アタックだ]
ショウはコールされたラウンド・シールドを持って盾の後ろに身を隠した。これで攻撃は通らない、と翔太が思った時だった。
[『デモリッシュ・ドラゴン』のアタック時効果。ライフを一つ払うことにより、その攻撃を必ず通す。――『撃滅の羽ばたき』]
相手の宣言と同時に、デモリッシュ・ドラゴンが翼を大きく振って、羽ばたく。その強い風から黒いオーラが放たれ、ショウに向かう。
「ぐっ、うわあ?!」
ラウンド・シールドがオーラを受けて消滅し、ショウの身体は吹き飛ばされる。
「ショウ!!」
[『デモリッシュ・ドラゴン』の打撃力は、3]
その声が響いた直後。翔太の身体に、目の前から何かがぶつけられたかのような衝撃が走った。どんっ、と大きな音を立てて翔太が地面に倒れる。
「わああ?!」
「翔太?!」
立ち上がったショウは、倒れ込んだ翔太に向かって駆けよろうとした。が、翔太とショウの間には、まだ見えない壁があるままだった。
「くそっ……! 翔太! 大丈夫か?!」
「……い、今のは……何……?」
翔太はゆっくりと起き上り、自分の身体を抱きしめるように肩を掴んだ。身体が、わずかに震えていた。
[さあ、次のラウンドだ]
相手の声は、それでも、冷静だった。翔太はびくり、と肩を震わせる。
「翔太!! まだ、終わってない!!」
「う……うん……」
ショウに言われ、翔太はバトルゾーンの前に立った。手札を見て、デッキからカードを引く。
「チャージ、ドロー……。お、おれは、『獄炎の剣士 レン』をパーティーコール!!」
ショウの隣に、炎が上がる。その中から、大剣を抱えた剣士、レンが現れる。それを見たショウが、笑みを浮かべた。
「頼むぞ、レン」
「誰に言ってやがる」
チッ、と舌打ちをしながらレンは剣を地面に突き刺した。レンがぎろり、と睨む先にはシャドウが静かに立っていた。
[『断罪の盾 グリーフ・シールド』をパーティーコール。ディフェンス]
「『レン』でエフェクトを発動! 『炎の補佐』でチャージを一つ増やす!」
コールされた盾を持つシャドウに対し、レンは地に突き刺した剣から炎を生み出した。その炎がショウを包むと、翔太のチャージゾーンに一枚カードが追加された。
「……ショウ」
低い声で、レンがショウに言う。
「自分を見失うな」
「え……?」
ショウが聞き返そうとしたが、効果を発動させたレンは光に包まれてその場から姿を消した。
[『グリーフ・シールド』の効果、『過ちの痛覚』。このカードがアクションに失敗した際、ダメージが一つ追加される]
「……え?」
相手の宣言を聞いた翔太が不思議そうな声を上げた。これにより、翔太のライフは7、相手のライフは5まで減少した。
「アクション失敗で自分にダメージ……? そんなカードを、どうして……」
「翔太! 油断するな!」
疑問を呟いていた翔太に、ショウが叫ぶように言う。翔太ははっと意識を目の前のバトルに戻し、手札を見た。
「ど、ドロー! チャージ、ドロー!」
[カードをレイズ]
ダメージを受け、ライフも減少しているというのに相手の声は冷静だった。相手のライフは5、翔太は手札のカードとチャージゾーンを見比べて、小さく頷いた。
「カードをレイズ! さらにチャージゾーンからカードを二枚レイズ!」
翔太は手札の一枚を裏返しに置き、その下にチャージゾーンから二枚のカードを置いた。
「パーティーコール! チャージ2で『炎の闘士 マーサ』をコールする!」
翔太の宣言の直後、ショウの隣に炎が上がり、その中から黒い短髪の人物――『炎の闘士 マーサ』が現れた。その格好は学ランを思わせるような黒い長袖・長ズボンだった。
[俺は『人形使い ルイ』をパーティーコール]
シャドウの隣に、暗闇の中から魔法陣が現れる。黒い光に包まれて出てきたのは、黒い髪に黒目、赤いスーツの女性だった。妖艶な笑みを浮かべているが、その瞳は鋭く、獲物を狙う様な表情だった。
「アクション! おれは『マーサ』でアタック! 『マーサ』はアタック時、必ず攻撃を通すことができる! 『異能の炎』! ダメージは2だ!」
翔太が宣言すると、マーサがその手に炎を宿して走り出した。
[ルイのエフェクト、『狂気の笑み』]
相手の声に応じるように、ルイは右手を前方に向ける。そこに黒い魔法陣が現れ、中から何人もの少女がマーサに向かって飛びかかった。マーサは一瞬驚きの表情を浮かべたが、手の炎の火力を上げて、少女に殴りかかった。
[『ルイ』はパーティーコールでエフェクトを発動させたとき、相手のアクションを問わずに効果を発揮することができる。『ルイ』の効果、『狂気の笑み』によりライフ2を回復する]
少女たちを蹴散らしたマーサがルイの目の前まで迫り、そして腹部に拳を叩きつけた。しかし、ルイは痛がる様子を見せずに笑みを浮かべたまま姿を消した。その光景に、翔太は引きつった表情を浮かべる。
「何、あれ……なんか……怖い……」
翔太はかすれた声で小さく言う。その声に気付いたショウが一瞬翔太を見たが、すぐに背を向けて剣を構えた。
[チャージ、ドロー。カードを、レイズ]
「チャージ、ドロー。おれもカードをレイズ……パーティーコール! 『炎の狼 ファイヤ・ガルル』でアタック!」
[『死神の刃 デスサイズ』をパーティーコール。アタックだ]
ショウの隣に現れたファイヤ・ガルルが咆哮を上げた後、シャドウに向かって駆けだした。シャドウは目の前に現れた黒い鎌を握った。
[『デスサイズ』の効果。自身にダメージ2を受けることで、相手の効果を無効とし、ダメージ2を与える――『死を導く力』]
「え?!」
シャドウは飛びかかって来たファイヤ・ガルルに横振りに鎌を入れた。黒い刃を受けたファイヤ・ガルルが悲鳴を上げて光に包まれて消える。
同時に翔太の身体にも、鋭い痛みが走った。
「ぐっ、うわああ?!」
「翔太!!」
再び地面に倒れ込む翔太に、ショウが大声をかける。翔太は立ち上がろうとするが、身体が震えて上手く立ち上がれなかった。
「何、これ……?! ダメージが、本当の痛みになってるの……?!」
「翔太、しっかりしろ!! 立ち上がれ!!!」
ショウが悲痛な叫びをあげるが、俯いている翔太の手に、足に、力が入らなかった。身体の震えが、おさまらない。
[降参するか]
一向に立ち上がらない翔太に気付いたのか、相手が静かに尋ねた。翔太は一瞬びく、と肩を震わせて顔を上げた。
「こう……さん……?」
呟く声は、掠れていた。目の前に見えない相手が提案してきたその言葉を、翔太は受けようとしていた。
「ふざけんな!!」
しかし、そんな翔太の思考を遮ったのはショウの怒声だった。
「おれは……ここで退くわけにはいかない……! おれは、お前に負けるわけにはいかないんだ!!」
ショウの言葉に、翔太がはっと目を開いた。この戦いは、ただのバトルではない。ショウの仲間を取り戻せるかもしれない、負けられない戦い。
「そう……だよ、ね……」
翔太はぎこちない動きで、ゆっくりと立ち上がった。掠れた声のままショウの言葉に返事をすると、翔太は手札を確認した。
「チャージ……ドロー!! まだ……負けられない……! ショウ、行こう……!」
そういう翔太の声は、まだ、震えていた。振り向いて翔太を見たショウは一瞬だけ不安げな顔を浮かべたが、すぐにその表情を消した。翔太の瞳には恐怖も映っているが、諦めていない、という意志も見えた。
「ああ! 翔太、頼む!」
「おれは『勇者の剣 レッドソード』をパーティーコール! アタックだ、ショウ!」
「おう!!」
コールされた赤い剣、『レッドソード』を掴み、ショウはシャドウに走り出した。相手のライフが5、そして翔太のライフも5。ここでダメージを当たれば、勝ち目は見える。そう、思っていた。
[ブレイク]
相手の宣言に、翔太とショウの目がはっと、見開かれた。
[チャージ5を支払い、俺は『ジ・エンド・オブ・ソード』を発動させる]
ごご、と地が揺れるような低い音が響く。
「な、何……?」
[『ジ・エンド・オブ・ソード』、終末の剣。このカードは、今まで自分が受けたダメージを、相手に与えることができる]
「何?!」
相手の言葉に、ショウが驚きの声を上げる。
「今まで受けたダメージって……相手のライフは5……いや……」
相手のライフは5だが、実際相手が受けたのは回復した分も含めて7。そして、翔太のライフは5。
「翔太のライフ以上のダメージを与えるつもりなのか?!」
[――俺の痛みを味わえ]
その言葉と同時に、翔太の目の前にあったバトルテーブルが暗闇に消える。
「な、何?!」
「翔太!!」
ショウが翔太を振り向いた直後、すぐ隣を何かが駆けぬけていくのを感じた。まさか、と思った時だった。
「う、うわああ?!」
翔太の目の前に、シャドウが現れた。その手には、黒いオーラを纏う、禍々しい黒い剣が握られている。
「やめろ!!」
ショウがその光景に気付き、翔太に向かって走り出そうとした、が。
「――終わりだ、力無き者よ」
黒い刃が、翔太の身体を貫いた。
どたん、という大きな音が譲の耳に届いた。
「え?」
バトルを終えて通信を待っていた譲は、席を立ちあがって向かい側の筐体に近づいた。
「翔太? なんかあった……の……」
そこに広がる光景に、譲は驚愕の表情を浮かべた。
普通に座ってバトルをしていたはずの翔太が、地面に倒れ込んで荒い呼吸をしている。俯いている顔の端からは、尋常ではない量の汗が、出ていた。
「翔太?! なっ、だ、大丈夫か?!」
譲が駆け寄り、翔太の肩に手を触れた。が、翔太はびく、と身体を震わせ、譲の手を勢いよく振り払った。
「うわあ?!」
「え?!」
「あっ……」
譲の声に気付いたのか、翔太はようやく顔を上げて、譲の顔を見た。
「……翔太、えっと……大丈夫……か」
しかし、翔太は譲の言葉に答えることなく、苦痛のような表情を浮かべ、筐体の上に置いていたデッキを乱暴に掴み取って、その場から逃げるように走り去ってしまった。
「お、おい?! 翔太?! ……どうしたんだ、あいつ」
何が起きたのかわからない譲は走り去った翔太の背中を見た後、ゲームの画面を見た。そして、そこに映されていたものを見て、再び驚愕の表情となった。
「おい……翔太が対戦したのって……」
そこに映し出されていたのは『WINNER “Shadow”』の文字だった。
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