第4話《Bパート》

「おれは、『炎の翼 ファイヤ・フェニックス』でアタック!」

「ディフェンス、『辻斬り鼬 ハヤテ』」

 続いてのラウンド。翔太が出した炎に身を包んだ不死鳥、ファイヤ・フェニックスが村正に向かって飛ぶが、その前に現れた小さな鼬のハヤテが持っていた鎌を振るう。直後、強い風が吹いてファイヤ・フェニックスは押し返されてしまった。

「『ハヤテ』の効果、『辻斬り一刀』でお前のチャージを一つ減らす」

 忍は翔太のチャージゾーンを指さして宣言する。宣言を受け、翔太はチャージゾーンのカードを一枚ドロップゾーンに置いた。翔太のチャージゾーンのカードは二枚のまま。

「はあ……」

 翔太の耳に、忍のため息が聞こえた。カードを見ていた翔太は顔を上げて、忍を見た。

「……あの、忍さん」

「何だ」

「もしかして、楽しくない……ですか?」

 翔太は少し怯えた様子で、忍に尋ねた。忍は眉を歪め、「は?」と聞き返した。翔太はびく、と肩を震わせ「す、すみません!!」と大きな声で謝罪をする。

「何で謝るんだよ」

「えっと、だって、怒らせたかと思って……」

「別に怒ってねえよ」

「は、はい……」

 怒っていないと言っている忍だが、表情は相変わらず不愛想な気だるい表情のまま。翔太はそんな忍を不安げな表情のまま見ていた。

「……次、行くぞ」

 一つ息を吐き出して、忍はカードをドローした。

「チャージ、ドロー。カードを、レイズ」

「おれも、カードをレイズ」

 チャージとドローを終えた翔太もカードをセットする。

「アクション」

 忍が言うと同時に、二人はカードを表に返した。

「おれは、『勇者の剣 レッド・ソード』でアタック!」

 翔太がカードを表に返すと、ショウがカードに描かれた赤い刃の剣を構えた。

「ディフェンス、『獄卒忍者 羅刹丸』」

 ショウが剣を振った先に現れたのは、赤い肌に額から赤い角が生えた、逞しい肉体の鬼のような忍者――羅刹丸。大きな包丁のような二本の刀でショウを斬った。

[うわあっ?!]

「『羅刹丸』のディフェンス効果、『地獄落とし』。ディフェンスに成功したとき、相手に3のダメージを与える」

「3のダメージ……?!」

 アタック時の『獄卒忍者 羅刹丸』の打撃力と同等のダメージを、ディフェンス時に与える。翔太は震えるBフォンを見た。ライフは残り、5。

[反撃か……まさかこんなにダメージ食らうなんてな]

 ホログラフのショウがマントをひらりと返して翔太を見た。見上げるショウの表情は、言葉とは裏腹に楽しげなものだった。

「うん! あんな反撃の方法があるなんて、すごい……!」

 翔太も、ショウにつられて笑みを浮かべる。

[翔太!]

「うん! 次、行きますよ!」

 翔太はそう言って、カードをドローして、チャージゾーンに置いた。楽しそうに笑う翔太の様子に忍が一瞬、驚いたような表情を浮かべた。

「ドロー、チャージ。ドロー……俺は、カードをレイズ」

「カードをレイズ! アクション!」

 翔太はカードを表に返す。

「おれは『勇者の盾 ラウンド・シールド』でディフェンス!」

「エフェクト、『忍法帳 電撃影分身』。これにより、お前に1つダメージを与え、そして自分のチャージゾーンに一枚カードを置くことができる」

 直後、ショウの身体に電流が走り、翔太のBフォンに映るライフも4に減少した。忍のチャージゾーンにあるのは8枚。忍はちら、と自分のチャージゾーンを見た。

「……次」

「はい!」

 二人はカードを引き、チャージをした。そして、忍は自分のチャージゾーンからカードを3枚取り、アクションゾーンのカードの後ろに置いた。

「俺はチャージを3つレイズ」

「……アクション!」

 翔太は、その動きで忍が次に何をするかうっすらと把握していた。ショウもじっと忍の表情を睨むように見つめた。何かが、来る。

「おれは、『勇者の剣 シルバー・ソード』でアタック!」

「ブレイク」

 忍は冷静に、はっきりと宣言した。

「俺は『忍法 獄霧の裁き』を発動」

 瞬間、ホログラフの村正の周りに濃い緑色の霧が出現した。その霧は、ショウの周りにもまとわりつく。

[な、何だ?!]

「これまでのラウンドで忍者とつくカードを使用した数だけ、ダメージを与えることができる。俺が使ったのは、4枚」

 ショウの目の前に甲賀と半蔵が現れ、苦無でショウの身体にバツ印の斬撃を入れる。

[うわあ?!]

「ショウ!」

 ショウの背後に羅刹丸が現れ、大きく横に刀を振る。ショウは、霧の外に吹き飛ばされた。

[ぐあっ……?!]

 そして、吹き飛ばされたショウに向かって忍刀を構えた村正が跳躍する。二人がすれ違う瞬間、横一線が空間に入った。

「……これで、終わりだ」

 どさ、と地面にショウが倒れる。翔太のBフォンに映されたライフは0になっていた。

「ショウ?! 大丈夫?!」

[あ……ああ……]

 翔太が倒れ込んだショウに声をかける。ショウは呆然とした表情で返事をしていたが、それからすぐににっ、と笑った。

[すごかったな]

「え?」

[反撃、か。多分あいつ、まだいろいろ隠し持ってるぞ]

 そう言って、ショウは勢いよく起き上がった。その視線の先には、自分にとどめを刺した村正の姿があった。

[翔太。おれたち、まだまだ強くなれるぞ]

 確信を持った、ショウの言葉。真っ直ぐな黒い瞳が、翔太を見つめていた。

「うん。もっと、強くなりたい!」

 翔太も頷いて、視線をショウから忍に向けた。カードを整理していた忍が、翔太の視線に気づき、顔を動かした。

「あの、忍さん!」

「何だ」

「おれ、今日のバトル、すごく楽しかったです!」

 翔太が言うと、忍は大きく目を開いて驚いたような顔を浮かべた。それを見ていた要が「ぶっ」と大きく吹き込んだ。

「おい、忍! 何だよその顔!」

 笑い声をあげながら言う要に、忍が「うるさい!」と顔を赤らめて怒鳴る。そんな間に、翔太は自分のスマホとデッキを持って忍のそばに寄っていた。

「忍さん。おれ、まだブレバト始めたばっかりで、わかんないことがいっぱいあるんです」

「あ、ああ……」

 翔太にじっと見上げられた忍は、ぎこちなく返事をする。

「おれ、忍さんみたいに強くなりたいです! だから、いろいろ教えてくれませんか?!」

 きらきら、と効果音が付きそうなくらいの翔太の眼差しに見つめられて、忍は困ったようにあたりを見た。救いを求めて見つめた先の要と譲は兄弟そろってにやにやと笑うだけで、真澄と弘明も別の客の対応をしている。

「いや……その……」

 何かを言いかけては言葉を詰まらせる忍。それでも翔太はじっと返事を待っていた。そして、とうとう翔太の視線に耐えられなかった忍が「ああ、もう……」と首を振って諦めたようにうな垂れた。

「わかった。わかったから、そんなにじっとこっちを見るなよ……」

「えっ、あ……すみません」

「……じゃあ、とりあえず今日のバトルの振り返りからするぞ」

 そう言うと、忍は翔太が持っていたデッキを指さした。それから腕を組み、視線を翔太からバトルテーブルに向けて、話しはじめた。

「お前のデッキ、チャージ貯める効果が少なすぎる。あと、効果が基本アクション成功時、っていうのが多いだろ。正攻法かもしれないけど、それだけじゃバトルは勝ち進められない。だから、アクション失敗時の効果、つまり反撃効果を持つカードを入れる必要がある。例えば……」

 と、言いかけて忍ははっと言葉を止める。つい勢いで一気に話してしまった、と思い、翔太の方を見た。翔太はぱちぱち、と瞬きをして忍を見ていた。

「あ……わ、悪い……」

 昔から、熱くなると――いわゆるスイッチが入ると、一気に語りだしてしまうのが忍の悪い癖だった。特にブレバトに関しては、相手の弱点を克服させようと思って分析をするのだが、それで他のブレイバーと揉めたり関係を悪くしたり、と言う事が多々あった。だからこそ忍はなるべくブレバトに関してスイッチを入れないよう、冷静であるように、と思っていた。しかし、今回は翔太の熱意に負けてスイッチを入れてしまい、目の前の翔太の表情を見て冷静に戻った。また、相手を傷つけてしまったか、と思ったが。

「すごい……」

「え?」

「忍さん!!」

 ぐい、と迫ってきた翔太に忍は思わず身をそらした。翔太の瞳には、再びきらきらとした輝きが灯っている。

「もっと聞かせてください!!」

「え?!」

「カードのこと、もっと聞かせてください! 忍さん、ブレバトのこと大好きだから、それだけ詳しいんですよね?!」

「え、あの、いや……」

 興奮した様子で言う翔太に、忍は困惑したような表情を浮かべる。

 ブレバトが、好き。それは、もちろん忍の中にあった感情だが、ここまで表に出したことは久しぶりだった。目の前にいる翔太のように、一生懸命にブレバトをしていたことがあったからこそ、忍の中の熱が灯ったのだろう。自分ではそのことを理解していない忍だったが、見ていた要は笑いながら頷いていた。

「忍のブレバトスイッチ入ったの、久しぶりに見たなあ」

「やっぱり師匠ってすげー人なんだなあ! オレが教えてって言ってもなかなかあんなに言ってくれないのに!」

「いや、すごいのは……」

 譲の言葉を聞きながら、要は視線を忍から翔太に移した。

「忍のスイッチを入れさせたヤツ、かもな」

「え?」

「おーい、忍! ついでだから俺にも教えてくれよー」

 要の呟きを聞き返した譲だったが、先に忍の元へ行く兄の背中を慌てて追いかけた。

「あ! オレにも教えてくださいよ、師匠ー!」

「だ、だから師匠じゃないって言ってるだろ?!」

 忍は顔を真っ赤にさせながら、それぞれの言葉に対応していた。遠くからみていた真澄と弘明が、顔を合わせて笑った。

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