第三章

神官の提案

「・・・・・・ここだ」


 宮殿内を血管のように走っている廊下の一つで、才人たちを先導していたエイドリアンは足を止めた。


 先程まで教皇たちがいたという場所では、未だ状況についていけない召使いたちがおろおろと慌てている。とりあえず情報の間違いではなさそうだった。


「じゃあ、手分けして調べるぞ。・・・・・・おかしなものがあったら、すぐに俺に教えてくれ」


 とりあえず一カ所に固まっても意味がないので散開を告げ、才人は手と膝を床につく。コンタクトでも落としたかのように辺りを見回し、何か手掛かりはあるかと探索に集中しようとするも・・・・・・頭の中はどうやっても、ルイズたちのことでいっぱいだった。


 海竜船に乗って戻るか? いやルクシャナはともかく、アリィーが竜を動かしてるんじゃ説得できるかどうか・・・・・・いっそみんなと一緒に行動した方が、早かったりするんじゃないのか・・・・・・?


 考えれば考えるほど不安は強くなるばかりで、実現しそうにないことばかり思いついてしまう。才人はそんな自分を叱咤し、活を入れるために自らの頬を張った。


 違うだろ? 自分の間違った判断でルクシャナは、テファはどうなった?

 ・・・・・・そうだよ。もっとみんなを信じてやってもいいはずだろ? 少なくとも俺なんかよりは上手くやれてるはずだ・・・・・・


 竜の巣での失敗を思い出し、勝手な行動はダメだ、と自らに言い聞かせる。ということで才人はまず、自分にできること───どうして教皇たちが突然姿を消したかについて、考えを巡らせ始めた。


「まず、一番怪しいのはジュリオだよな。あいつなら竜だって自在に扱えるわけだし・・・・・・いや待てよ、確かこれって・・・・・・」


「ああ。嬢ちゃんが唱えてた“幻覚”と同じだね」


 なんとなく触れた鞘から前後運動で出てきたデルフリンガーの言葉に、才人は待ったをかける。


「いやいや、今までだれも気付かなかったわけなんだろ。実体がなかったら、すぐにわかりそうなもんだって」


「そうじゃねえんだよ相棒。・・・・・・スキルニルって魔道具があってだな、見た目も性格もそっくりな偽物を作れるんだ。もっとも命令通りのことしかできねぇから、近くにいて指示しねえとすぐボロがでちまうんだけどな」


「なるほど・・・・・・。つまりデルフ、お前はジュリオたちがそんなに遠くにいないって言いたいのか?」


「うーん、違うなあ。なんだかうまく言えねえけどよ、もしその“幻影”を何かに投じることができたとしたらどうだ? 虚無でガワを繕っちまえば、もっと遠くから動かせるかもしれねえって思ったんだよ。・・・・・・メイジにゃ無理な芸当だろうが、できそうな奴は心当たりあるだろ?」


「いいから勿体ぶらずに教えてくれよ。おれにはわかんねえよ」


 最近妙に回りくどい言い回しをするようになった愛刀に答えを求めると、デルフリンガーは渋りながらも質問に答えてくれた。


「まだわからねえのか? 青髪の嬢ちゃんの妹は、ガリアの王様の虚無を扱える。でもってお前さんはいま、胸と左手に二つのルーンを持ってるわけだ。ここまで言えば、わかりそうなもんだろ?」


「・・・・・・ミョズニト、ニルン・・・・・・そうか! ジュリオも、あいつも俺みたいに二重契約して・・・・・・」


“───いやあ、説明する手間が省けて助かったよ。さすがはリーヴスラシル・・・・・・いや、それともその剣のおかげ、ってところかな?”


降ってきたその声に顔を上げると、天井の模様がなにやらうごめき、手のひらサイズの小さい人形が浮かび上がってきた。


“悪いね、きみのルーンに反応するよう仕掛けたつもりだったんだけど、少し時間がかかったみたいだ。使いこなすのが難しいんだよ、これ”


「・・・・・・その声、ジュリオだな?」


“よし、ちゃんと聞こえるみたいだね。・・・・・・ちょっと待ってくれよ。もうそろそろこっちの様子が映るはずだから”


 そのままコトンと床に落ちたかと思うと、人形は目を怪しげに光らせる。光は壁に当たると拡大され、映写機のように何かを投影し始めた。ちらつくノイズが次第にクリアになっていき、すぐに、ジュリオ、ジョゼット、ヴィットーリオの姿が映し出される。


 最初に分かったことは一つ、ジュリオたちがいる場所は明らかに地面じゃないことだった。周囲の風景が流れるのを察するに、恐らく使い魔であるアズーロで移動しているのだろう。


 ・・・・・・散歩でもあるまいし、この非常時に一体どこにいるのかと怒りに口を開こうとした才人だったが、投げようとしたその問いはヴィットーリオに答えられ、その衝撃の内容に固まってしまう。


「我々はいま、ネフテスの国境付近にきています」


「ッ!?  ど・・・・・・どうしてそんなとこにいるんですか!」


 あまりに急な展開についていけず、思わず叫んでしまう才人。

その声で騒ぎを聞きつけたのか、宮殿内に散らばっていた仲間たちが集まってきた。


「どうしたサイト、ってうわっ、聖下!?」

「これはいったいどういう状況なんだ? 説明してくれ」

「いや俺だってわかんねえよ!! なんかエルフの国に向かってるらしくて・・・・・・」


動揺しながらも話をすると、すぐにレイナールが異を唱えた。始祖への信仰が厚いこともあってか、その舌鋒はいつにもまして鋭い。


「聖下! なぜあなたはそんな所にいるんです!? “虚無”の担い手であるあなたが先陣を切る事に、何の理があるというのですか!!」


「連絡も無しに勝手な行動に出た事は謝罪します。・・・・・・申し訳ありません」


 教皇相手に一歩も引かない様子を見せるレイナールの言に感じ入るものがあったのか、画面越しのヴィットーリオは深く頭を下げた。


「あの場では言えませんでしたが、わたしのこの計画には綿密な下準備が必要なのです。・・・・・・実行の可否すら危うく、成功するという保証もない作戦に一体誰が乗ってくれるというのでしょうか?」


「・・・・・・いや、ですが、それはその・・・・・・」


まさか頭を下げられるとは思わなかったのか、勢いある口調は次第に小さくなっていき、レイナールは閉口してしまう。


「なので我々はその“下準備”を予め施しておこうと思い、今回の挙動に至ったのです。・・・・・・子細は連合軍がこちらに来てから話すつもりですが、陸路とあれば到着する頃にはすべて終わっているかもしれません。来られるようであれば空から兵を出すように、アンリエッタ殿にお伝えください。兵を絞ってもネフテスは問題なく制圧できるでしょうから」


 あまりに突拍子もない言伝を頼まれるも、教皇を相手に引き受けられないという選択肢はない。それはそうですが、しかし・・・・・・と言いはするも、水精霊騎士隊の面々は次第に静かになっていく。


「・・・・・・とりあえず、報告が先だ。ギムリ、みんなを引き連れて姫さまにこの件を伝えてきてくれ。俺はちょっとジュリオと話したいことがあるからここに残る」


「わ、わかった。・・・・・・水精霊騎士隊、続けッ!!」


 そう言うなりギムリは会議室へ飛んでいった。残るオンディーヌの面々も駆け足で続き、後には才人だけが残される。


「・・・・・・で、僕と話したいことって何だい?」


 周囲に人の気配がなくなったのを感じたのか。才人が見送っているうちに、画面の相手はヴィットーリオから再びジュリオへと変わっていた。


「とぼけんなよ。なんでお前らは俺が、ここに来ることを知ってたんだ?」


“さあね。強いて言うとすれば勘、かな”


威圧的な才人の尋問をさらりと流し、ジュリオは世間話でもするように口を開いた。


“それよりさ、そんなとこで突っ立ってていいのかい? 君のご主人さま大変だよ?”


 言葉と共に唐突に、画面が切り替わっていく。ぼやっと霞んで写るが、やけに見た事がある場所だ。徐々に鮮明になっていく。


 ここはたしか・・・・・・“評議会”の地下牢?


 そんな事よりもまず、才人の目に留まったのは。

 牢の中、ここにいるはずの“自分”を抱きしめている桃髪の少女の姿だった。


 ・・・・・・ルイズ?


 それがどういう事か、最初は理解ができなかった。混乱する頭に淡々と、ジュリオの声が流れてくる。


“上の空のきみに説明しても無駄だろうけど、その映像はとあるメイジの“遠見”を飛ばしたものでね。そこに映っている「君」は多分、エルフたちの用意したスキルニルだろう。彼らはまんまと欺かれ、捕らえられてしまったって訳だ”


悲哀に満ちたその情景は次第に消えていき、再び月目の神官の姿が映し出される。才人はさらにしばらく愕然としていたが、すぐにこれはありえない事だと確信した。


「そ、そんなわけあるかよ! あっちには先生やキュルケ、タバサだっているんだぞ? そんなヘマやるわけが・・・・・・」


“ぼくもそう思ってはいたんだけどね。彼らにとってきみたちは、無謀な賭けと知っても取り戻したい存在だったらしい。よかったじゃないか、こんなに愛されて”


「からかうのもいい加減にしろよ! この後に及んでそんな嘘・・・・・・」


もうたくさんだ、と才人はデルフリンガーに手をかける。これ以上なにか言ってくるなら人形を切り捨てる、という意思表示だったが、当のジュリオは動揺するどころか、かえって呆れたように肩をすくめてみせた。


“わざわざ教えてやってるのに、ずいぶんな言いようだな。こっちも好きでこんな面倒なことしてるわけじゃないんだ、通信を切るなら早くしてくれ”

 

「な、なっ・・・・・・そもそも黙って勝手なことしといて、どの口が言って・・・・・・」


 崩れそうにない余裕げなその態度に、思わず話に耳を傾けそうになる才人だったが、ふと左手に宿る力のことを思い出して踏みとどまる。そう、だったらおかしいではないか。神の盾の名を持つこのルーンは、主人の危機を察知する力を持っているはずなのだから。


「そ、そうだよ、だったら俺のガンダールヴが反応するはずだろ!? ルイズに、あいつに何かあったっていうなら、俺の右目に映ってなきゃ・・・・・・」


“残念だけど、二重契約するとルーンの発動は任意になるんだよ。・・・・・・ほら、現にその左手、うんともすんともいってないだろ”


言われてふと刀を差した腰を見やり、次の瞬間才人は驚愕に目を見開く。ジュリオの言葉は正しかった。鞘に添えた左手の刻印には、輝きを完全に失っていた。


「な、なんで光らねえんだ!? おいデルフ、一体どういうことだよこれ!?」


“どういうこともなにも、ぼくらの主はひとりじゃないんだぜ? 左手と心臓、異なる主に仕えたとあれば、どちらの権能が優先されるかは分かり切ったことじゃないか。・・・・・・まぁ、そこの剣が知らなくても無理はないかもね”


「そ、そうなのか、デルフ?」

「ああ、サーシャの奴は普通に使いこなしてたから、てっきりそうだと思ってたんだよ。・・・・・・だがな月目の坊主。片方しか使えないっていうんなら、どうしてお前さんの右手は今も光ってるんだ?」


思わず愛刀に問いかける才人だったが、返す言葉にハッと気付かされる。ジュリオはその質問を待っていたらしく、画面の向こうで手を叩き始めた。


“うんうん、察しが良くて助かるよ。というわけで提案だ。ぼくの方でその制約を外してあげよう。そのかわり連合軍と一緒でいいから、きみときみのご主人様にこちらに戻ってきてほしい。どうだい?”


「・・・・・・そ、そんなことでいいのか?」


いきなり取引を持ち掛けられるも、その対価に才人は思わず拍子抜けしてしまう。

怪我をしているティファニアのことが気になったが、四の四を揃えないといけないことを考えれば、承諾以外の選択肢はなかった。


“契約成立だね。それじゃあ僕の右手を見つめてくれ。念じていれば自然と、ルーンが切り替わっていくはずだ”


頷いてみせた才人に、ジュリオは満足げな笑みと共に白手袋を外す。


言われた通りに右手の踊るルーンに視線を向けると、次第に左手の刻印が輝き始め・・・・・・そして、才人は見てしまった。


 信じる、信じないの話じゃなかった。ガンダールヴの左目に映る光景は、先ほど映し出された牢と全く同じものだった。


「・・・・・・流石に信じてもらえたかな? って、おいおい。いきなりどこに行くつもりなんだ?」


「決まってんだろ、いまからそっちに向かう! 疑ったことについては悪かった!」


「君がいる場所は、ここから何千リーグも離れたガリアだよ」


焦りで頭がいっぱいの才人に、ジュリオは現実を突きつける。


「どうやってこっちに来るんだ? 普通に連合軍と一緒に来ても間に合わないぜ。・・・・・・あいにくぼくたちも準備で忙しくてね。悪いけど彼らの方にまで手が回せそうにない」


「じゃあどうしろってんだよ!! このまま黙って見てろっていうのか!?」


 なにもすることができない悔しさに、才人は声を震わせ叫ぶ。自分じゃない「壊れた平賀才人」を抱きしめているルイズの顔を、見ているのが辛かった。


「ルイズゥ・・・・・・」


 才人の視界が涙で歪む。目の前の光景は、完全に自分が至らないが為に引き起こされたものだった。喚き叫ぼうがどうしようが、どうにも変わらないものだった。 


 ジュリオはそんな心情を察してか、しばらく顎に手を当てて熟考すると、重々しく口を開いた。


“・・・・・・・・・・・・死なないと、約束するかい?”


 え? といった様子の才人に、こめかみに指をあてたジュリオは言葉を続ける。


“一応救援として腕に覚えがある者を寄越してはいるんだけれども、思ったよりエルフたちが兵を集めていてね。・・・・・・どのみち担い手、使い魔のどっちが欠けてもまずいんだから、きみに任せてみてもいいかもしれないと思ってさ”


「なにか方法があるのか!? そうだとしたら頼む、教えてくれ! いま行かなきゃ俺は、・・・・・・俺はっ!!」


“そうだな、七万に立ち向かったきみなら、やってのけるかもしれないな。・・・・・・ヴュセンタール号に、きみの飛行機械が積んである。現地で役に立てばと思って、あらかじめ引っ張り出してたんだけど・・・・・・まさかネフテスじゃなくて、こっちで活躍することになるとはね”


「そうか、わかった! ・・・・・・恩に着るッ!!」


 画面越しの神官に頭を下げ、すぐさま走り出した才人は廊下を駆け抜けていく。


「・・・・・・我らのためにがんばってくれよ、リーヴスラシル」


 だから。そんなジュリオの独り言のような呟きは、当然才人の耳には入らなかった。

 



 ───こちらはガリア王国、ヴェルサルテイル宮殿の一室。


 持ち前の生真面目さで情報を整理したのか、レイナールの説明にはよどみがない。手際のいいその報告を首肯で返し終わると、アンリエッタはゆっくりと口を開いた。


「やはり、あなたの見た光景に間違いはなかったようね、アニエス」


 そう言うとトリステイン女王は、腹心である銃士隊隊長に説明を促す。詳しい話をするため、報告の最中に呼びつけていたのだった。


「ヴィットーリオ聖下とジュリオ殿、ジョゼット様の件には確認している。陛下の御命令で彼らの視察を行っていたのだが、数日前の夜更けに風竜に乗り、バルコニーから飛び立ったのを目視した」


「・・・・・・しかし、聖下たちに変化は見受けられず、定期的な“探知魔法”にも反応がなかった。下手に問いただせば異端審問に転じる可能性がある以上、見に回ったというわけですか」


「そうだ。一応陛下にご報告した上で、視察を続けていたのだが・・・・・・」


 レイナールの言葉に頷くアニエスだったが、その説明は乱入者によって断ち切られる。ドパン、と勢いよくドアを開け飛び込んできた才人に、一同の視線が突き刺さる。


「サイト殿?」


 息せき切ったその様子に心配半分、質問半分アンリエッタが声をかけるが、当の才人にそんな余裕はないようだった。呼吸を整える間も惜しいとばかりに、荒い息のまま尋ね返す。


「姫さま、ヴュセンタール号ってどこに配置されてます?」


「え? ・・・・・・そ、その、最寄りの軍港に置いてありますけれど・・・・・・それがなにか?」


「ここからその軍港、どの方角にあります? あ、あともしあれば大きい地図とか───」


 矢つぎはやに質問を投げてくる才人に、アンリエッタの顔が戸惑いに曇る。水精霊騎士隊も揃って尋常ではないその様子に気圧されるなか、アニエスの指摘が室内に響き渡った。


「おい、話すならもう少し落ち着いてからにしろ。会議の最中に飛び込んで、陛下に質問するなど・・・・・・いくら貴様の武勲を鑑みたとしても、到底許されるものではないぞ?」


 厳かなその声に諌められたことで、やっと周りが見えてきたらしい。申し訳無さそうに肩を落とす才人に、しかし銃士隊隊長はそれ以上の追求をせず、代わりに懐からペンを取り出した。


「・・・・・・地図ならちょうどわたしが持っている。軍港に印をつけておけばいいんだな?」


「あ、アニエスさん・・・・・・!!」


「しかしだ。これだけ場を乱した以上、きちんと話はしてもらうぞ。・・・・・・もしその焦燥が、取るに足らないものであれば・・・・・・」


 丸めた羊皮紙を脅すように突きつけてくるが、アニエスの言うことはもっともだ。一同に向き直って頭を下げた才人は、かいつまんで状況を説明した。


「───というわけでみんなごめん、俺はいまからネフテスに戻る。・・・・・・ところで、アリィーとルクシャナたち知らねえか?」


「うん? ああ、さっきサイトが席を外したとき、一緒に部屋を出てったけど。・・・・・・きみを追っかけてったんじゃないのかい?」


 問い返してくるギムリと同じく、疑問に首をかしげるが、今はそんなことに思考を割いてなんかいられない。見かけたらよろしく言っといてくれと言伝を頼んだ才人は、入室時から感じていたティファニアの視線に応じることにした。


「わ、わたしも連れてってくれるよね? また一人で行くだなんて言ったらわたし、サイトを絶対許さないから」


 の瞳からは、刺すような非難が伝わってくる。しかしそんな主の詰問を、才人は否定で返すよりほかなかった。

「許してくれなくていいよ、テファに怪我させたのは俺なんだから。それに今度はルイズたちの命が懸かってるんだ、なにがなんでも失敗するわけにはいかない」


「そう言ってまた無茶するつもりなんでしょ! ・・・・・・守って欲しいだなんて言わない、だからせめて一緒にっ・・・・・・」


 なりふり構わぬ懇願に、罪悪感が込み上がってくる。どうにも聞き届けてくれそうにないので、

才人は説得を諦めることにした。


「そもそもゼロ戦は一人乗りなんだ、武器を載せたら座る場所なんてなくなるよ。・・・・・・それじゃ俺、もう行くから・・・・・・」


 そう言って話を畳むなり、才人は部屋を飛び出ていく。奇しくも竜の巣でのように置き去りにしてしまったが、みんなといるのなら怪我のことも心配ないだろう。


(そうだよ、あのときとは違うんだ。わざわざ危ない目にテファを遭わせる必要なんてない・・・・・・)


 何度も胸の内で繰り返すも、後味の悪さは消えてくれない。背中に張り付く後ろめたさを振り払うように、才人は馬小屋ヘとその足を早めた。


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