武江成緒

果てなき溟（うみ）の底の底、まったき闇の深淵にとぐろを据える巨螭（おおみずち）は、ほんの気紛れに、空にかがやく月をひと吞みにしてやろうと思い立った。 和風ファンタジー、中編です…

雨ふる晩のことでした。 ざあざあと降りしきる音を聞きながら、誰もいない家の窓辺で、軒下にぶらさげた白い坊主たちを見ていました。 やがて、その一体が、ゆらり、と紙の体をゆらして。 …

涙ぐんで、歩き去ってゆく陽和（ひより）を、“おれ”は謝ることもできずに見送って。 あいつにそんな顔をさせた原因は、特別校舎の西の壁に浮かびあがる「妖怪」だった。 クロノヒョウ様…

妻が失踪したという旧友の住む屋敷の庭には、それはそれは、真っ赤な楓の樹が生えていた。 柴田恭太朗様主催の企画『三題噺 #117』参加作品。 お題は「庭」「失踪」「腕」です。

月のあかるい晩の浜には、ふたりの童子が鞠とともに舞うのだと、幼いころに聞いた物語。 情念にとらわれし三人の果てを描いた、和風幻想掌編です。

とある匿名掲示板の怖い話スレッドに書きこまれた、いくつかのレスやリンク先についてまとめたものです。 小野塚様の主催になる「お盆お彼岸怪談会」の参加作品になります。 基本、毎日…

盆の前の夏、地区じゃ毎年やってる行事 “かがし” 下げ。 村のはずれの柱までいって “かがし” を下げてくる役目に、運悪く選ばれちまった俺は無事に帰れるのか。 柴田恭太朗様主催…

鏡香がつかんだ俺の右手は、胸のまんなかへ引き寄せられていく。 いや、やめろ。まだ俺たちには、そんなのは早すぎる…………んじゃないかなあ、多分。 柴田恭太朗様主催の企画『三題噺 …

曾祖母の没後、掃除のために母と弟とおとずれたその古い館には。 ほぅら、やっぱり、ロクでもないものが描かれた、隠されてた。 柴田恭太朗様主催の企画『三題噺 #101』参加作品。 …

白く、つめたく、静かな姿で、永訣したはずの彼女。 僕が再会した場所は、赤く、熱く、輝くばかりに燃えさかる丘のうえでした。 クロノヒョウ主催の「第66回「2000文字以内でお題に…

天下無双の男になる ――― 希望と自負に満ちみちて渡米した兄は、廃人となって帰参して。 うす暗い裏手の離れにもう一年も、蟄居しているのでした。 KAC2025 第5回、三題噺「…

闇に包まれたその部屋で、館のあるじ魑ヶ峰男爵。 ぎらぎら双眸かがやかせながら、負けず劣らず鮮血色に光りかがやき膨れあがったその古い品を開陳した。 ミスカトニック大学ウルタール校…

あの夢を見たのは、これで9回目だった。 「かえろう……なぁ……かえろう……なぁ……」と呼びかけてくるその誘いにあらがおうとする主人公の運命は。 KAC2025 第4回、お題書き…

今日もおれは人目を盗んで、村のはずれ、むかしのトリデの跡へコッソリやってきた。 母さん、父さんの家をはなれた、あのちっぽけな、しけた村で。 おれに口をきいてくれるやつは、村のはず…

胸に満ちたこのあこがれ、狂おしいようなこのあこがれ。 それにもう耐えきれなくなって、わたしは、冬の川べりに立っていた。 KAC2025 第2回、お題「あこがれ」参加作品です。

お父さんが、ひなまを釣って帰ってきました。 さっそく家族みんなそろって、飾りつけを始めます。 「とりあえず、皮からやってゆこうかしらね」 KAC2025 第1回、お題「ひなまつ…

七年ぶりに再会したふたりの友人。 帰郷した友人を、もう一人は林のなかへといざなった。 七年前のあの日、隠した秘密が、閉ざした記憶が語られる……。 那智風太郎さん主催の自主企画……

だいぶ昔。ふと思い立って、山へと足をむけたことがある。 紅葉のはなやぐ美しい道、その果てに白くおどる滝。日が傾くまでそれを眺め、帰り道はすでに暗く ――― そこで、彼らを見たのだ…

あの年の夏の夕方。海をのぞむキャンプ場。一回だけの夏合宿。 バーベキューを囲みながら、彼女はひとつの約束を願ってきた。 その約束は、数年たっても……ひょっとしたら数百年の時が過ぎ…

ある日、見た夢。 のっぺりとした灰色の空のした、コンクリートの地面に果てなくひろがる墓石たち。 そのただ中に咲く少女のつく毬は。 柴田恭太朗様主催の『カクヨムに三題噺を復活さ…

ダイエットに耐えかねた“わたし”は「チートデイ」というものの存在を知る。 天にものぼるその心地で、街でたっぷり買いこんだおやつをかかえて、家に帰る途中だったのに。 運がわるかった…

真夏の浜辺。 灼熱する砂のうえに「おれ」はなすすべもなく崩れ伏し、透明な肉をとおして、日光は残酷にも五臓六腑を焼き焦がしてゆく。 その苦悶の時間のなか、人とも水月ともつかぬ「おれ…

ふと気がつくと、闇のなか、あなたは、あなたたちは椅子に座っている。 導くものは正体不明のアナウンス、そして前方のスクリーン。 「『正義』についての心理テストの結果」を告げてゆく、…

その日の朝、葵ちゃんはご機嫌でした。 夢の国で、すてきなすてきな、赤い目をした王子さまに会ったからです。 柴田恭太朗様主催の『カクヨムに三題噺を復活させよう！プロジェクト　#6…

毎年、春になりますと、魑ヶ峰男爵、一人ひそかに、僻村にあるその小山へ、おおきな櫻の樹の根元へとやって来ます。 鍬と円匙（シャベル）とで、根元から掘りいだしたるそのものとは。

遠めがね、それはあり得た世界、かつてあった世界を垣間見せる魔法。 KAC2024 第8回、お題「めがね」参加作品です。

これまで、色んな色を踏み越えて歩んできた。 その果てにある色とは。 KAC2024 第7回、お題「色」参加作品です。

世界の窮（はて）のてっぺんの枝に棲まう鳥。 その枝にはいろいろなものが飛んで来る。 KAC2024 第6回、お題「トリあえず」参加作品です。

はなさず留まっているその人。 その手をはなさず、はなさないでと懇願しつづけるその人。 KAC2024 第5回、お題「はなさないで」参加作品です。

パンダと会話しているうちに、世界全体がささくれて……。 KAC2024 第4回、お題「ささくれ」参加作品です。

わたしは、箱。――― 六枚の平面の肌と、その中身でできた箱。 KAC2024 第3回、お題「箱」参加作品です。

一家で、引っ越しのための住宅内部見学にいったときの話。 あの家、あの土地で、いったい、何があったんだろうか……。 KAC2024 第2回、お題「住宅の内見」参加作品です。

おとぎ話で、だれもが聞いたことのあるだろう、何でも出てくる『打出の小槌』。 阪神地方の一角に、その名を冠した、ひっそりとして、すこしお洒落な町がある。 そんな地名に惹かれたのか、…

唐突に、砂の魔神に呪われたその一家。 砂の渦まくデスゲームから、大切なものを逃れさせることはできるか。 KAC2024 第1回、お題「書き出しが『○○には三分以内にやらなければ…

その砂の王国は、それぞれが、世界のどこかに実在しているという―――。 クロノヒョウ様主催の『「セブンデイズチャレンジ」企画』参加作品。 三つのお題がありますが、すべて「砂の王国…

紋に描かれた絵とはいえど、両者の軋轢の噴き出し口としては十分。 しかしながら、その図が、実在したときは？ 柴田恭太朗様主催の『カクヨムに三題噺を復活させよう！プロジェクト　#50…

さんざんだったテストの答案、秘密の場所に隠そうとして。 その姿を、じぃっと見ているものたちがいた。 「カクヨムWeb小説短編賞2023」創作フェス応募作品です。 第三回お題『秘…

魔の城へと乗りこんで、魔王シャッガートゥを倒した勇者一行。 だが魔王の体が倒れるや、その体からは闇の霊気があふれ出て、城は崩れ落ちはじめた。 この危機を、主人公は乗りこえられるか…

分娩室。 スタートからして思い切り“間違えた”話。 「カクヨムWeb小説短編賞2023」創作フェス応募作品です。 第一回お題『スタート』。

年の終わり、いまだ円き月の上から、兎は地上へ逃げ出した！　その逃避行の果てに昇るのは。 年末年始をテーマに書いた掌編。

幼いころ、祖父の家の奥の奥でみつけた鏡。 その鏡にうつった二人のすがたとは。 柴田恭太朗様主催の『カクヨムに三題噺を復活させよう！プロジェクト　#46』参加作品。 お題は「鏡」「…

村の希望（ホープ）を喰う化け物を退治することを依頼された。灰褐色（トープ）に濁ったディープな湖水にひそむソイツの正体は。 柴田恭太朗様主催の『カクヨムに三題噺を復活させよう！プロ…

息子の学業を成就させんと、精魂と執念と、いろいろ振るう母親の努力の果てに得たものとは……。 クロノヒョウ様主催の『第48回「2000文字以内でお題に挑戦！」企画』参加作品。 お…

霧につつまれる北のちいさな町にある、お婆さまの石のおうち。 その二階の長廊下には、銀のかがやきにつつまれる一枚の絵があったのです。 柴田恭太朗様主催の『カクヨムに三題噺を復活させ…

17世紀イングランド、清教徒革命から王政復古へといたり、名誉革命へと続いてゆく動乱の時代。 叛乱が多発して、魔女狩人が暗躍したこの時代に、その片隅でうごめいた、暗くも哀しい言い伝…

その場所には、学校の裏手にひろがる雑木林をつかうことにしました。 なにもない土のうえに境界をひいて“インシュウムラ”を定めます。 “インシュウムラ”のまんなかに、四角いヤシロを定…

コロといっしょに、今日も町へ散歩に出かける。 でも、そいつらは突然に、あたしとコロの前にたちふさがったんだ ―――。 柴田恭太朗様主催の『カクヨムに三題噺を復活させよう！プロジ…

打ち棄てられ、朽ち果てたその家には、秘め隠された蒐集物と、籠められた忌まわしい念が人知れずこびりついている ―――。 柴田恭太朗様主催の『カクヨムに三題噺を復活させよう！プロジ…

いまは夕暮れ。空は藍色。 人けのない林の道を私は、古いふるいお呪（まじな）いにすがってぐるぐる巡ってた。 柴田恭太朗様主催の『カクヨムに三題噺を復活させよう！プロジェクト　#2…

大ばぁばがいなくなった田舎の家の夏の夜。 ふと窓の外をみると、白い光が黒い闇をうごいていった。 柴田恭太朗様主催の『カクヨムに三題噺を復活させよう！プロジェクト　#25』参加作…