古城の塔、月夜に響く詩歌、そして引き裂かれる恋人たち。古き良きゴシック・ホラーの要素を散りばめつつ、構成はあくまで新しい(構成! 最近は行き当たりばったりのストーリーばかりが流行り、構成の完成度が高い作品が軽視されがちと感じるのは、古い人間の偏見であろうか?)。
古来、悲恋は男女どちらか片方に、比重が偏っていることが多い。極論を言えば、比重が軽い方は、悲恋から逃げることも可能なのである。例えば、望まぬ結婚を強いられた乙女に逃げ道はないが、彼女に恋する若者は諦めて別の相手と結ばれる道もある。それを卑怯などと誰が非難できようか?
残念ながら、この悲恋にそんな救いはない。呪いは男女に均等に降り下り、釣り合った天秤の如く均衡している。彼らのどちらも、悲恋の天秤からは降りられない。一見すると神の悪趣味な戯れのようだが、せめてもの慈悲とも捉えられまいか? 少なくとも、偶然の結果にしては、その物語的配置はあまりに完璧すぎる。
ある意味、彼らはどんな恋人たちよりも強い絆で、永遠に結ばれたとも言えるのではないか?
蒼白い宵、森の中を吹き抜ける夜風と共に
亡者の嘆きが響き渡る。
塔の上の姫の許に届けとばかりに、哀愁と
冷たい情熱を以って切なる願いを口にする。
死霊は、招かれなければ室へは入れない。
異教徒との戦いに敗れ、泥土と自らの血に
塗れた騎士。幼い頃からの約束を胸に
朽ち果てた姿で塔の下に佇む。
夜毎に、冷たい墓から這い出しては塔の
上の彼女を呼ぶ。
戦地から還って来た騎士は、何の因果か
魔性 となって戻ってきたのだが。
塔の上の姫君は決して彼を招き入れる事が
出来ない。それは死者を恐れたからでは
なくて ────。
一途な想いの皮肉な結末。
蒼白い月が照らす塔の頂。漆黒の夜風に
流れるのは
屍者の嘆き だけ