冒頭から古語の響きを活かした格調高い文体が、読者を一瞬にして神話的世界へと引き込みます。
また『白』というお題に対して対極の『黒』が立ち現れるまでの緊迫感が素晴らしく、実物を求めて各地を彷徨う『花浦』の執念と、内なる真理を追求する『鞍崗』の対比にも読者は興味をそそられます。
さらに一滴の墨が『至高の白』から『絶対的な闇』へと反転させる描写は狂気と罪の重さを鮮烈に描き出し、それが強烈なインパクトを残していく。
そして結末で明かされる「黒鵠」の正体と、冬の夜が長くなった由来。
その美しくも禍々しい情景は読み手の心に決して消えない影を落とすのではないでしょうか。
書き連ねられる言葉の一つ一つがナイフのように鋭利で、またそれが静謐な恐怖と美しさと相まってまるで至高の芸術のような仕上がりとなった傑作。
これを読まずして文学を語ること勿れ。
上代の頃、時の帝が建てた宮に、世の
種々を壁に柱に描かせて、万物をその宮に
再現させようとした時のこと。
絵師に技を競わせて、遂に二人の匠が
勝ち残る。
一人は、山川草木蟲魚禽獣を悉く鮮やかに
描き出し、それらは生命を得て動き出すと
讃えられた『花浦』の匠。
いま一人は、と或る貴人の家の壁に描いた夜空の様が、星一つ一つ悉く真の夜天と
相違いなき色と輝きを放ったという、
『鞍崗』の匠。
帝よりの課題は 卵 それも、北方の
雪と風の中に生きる、まさに白々と光る
白鵠の真白き美しい卵を描く事で、雌雄を
決する運びとなったが…。
雅やかで端正な文筆に流れる、其々の匠の
焦燥と苦悩。この世で最も鮮烈な色彩の
対比で描き出す、匠たちの戦いと顛末は
如何なるものだったのか。
故に、北方に於いては夜が昼を凌駕する
そんな不思議な物語である。