言霊(ことだま)──言葉には呪力があり、口に出す、書き記すだけで、現実世界に影響を及ぼすという思想は有名だろう。少なくとも、人間の心理に何らかの影響を及ぼすことは、現代人の我々でも否定はすまい。色霊とは、いわばその色彩バージョンである。
数ある色霊の中でも、赤は特に呪力が強いと思われる。生命、情熱、温もりなどのポジティブなイメージと同時に、流血、惨死、業火などのネガティブなイメージも想起させるという二面性は、他の色霊には希な特性だ。
この作品は赤の色霊を最大限に活用し、此岸と彼岸を見事に繋いでみせている。ラストシーンで文面から溢れ出す赤は情熱の赤であると同時に、火炎地獄の赤のようでもある(動機が何であれ、生死の境界破りは罪だからか)。そのどちらでもあるからこそ、赤の色霊は最大限の効果を発揮している、とも言い換えられる。
まさに小説ならではの色霊の使い方、と言えるのではなかろうか。
詩的で美しく、かつ情熱を感じられるホラーだと思いました。
幽霊という存在が、寂しく暗い闇の中ではなく、燃えるような夕焼けと花の輝きの中に現れるという導入は、どこかミステリーの要素も含み、読者の好奇心をくすぐります。
主人公は亡き夏奈子との再会のヒントは“情熱の丘”という言葉の意味を探り続け、過去の記憶と知識を頼りにその手がかりを紐解いていきます。
そして最後に待つのは、予感された運命。死が単なる終わりではなく、約束された再会として描かれている点も印象に残りました。
武江さんの繊細な言葉選び、端麗な文体が編み出した詩情溢れる掌編をご堪能ください。