ほうれい線に愛をこめて　～時を遡る薬～

尾道漢方薬局を営む老夫婦が、死体で発見された。八十九歳と八十二歳のその夫婦は、まだ三十代に見える若々しい肉体を持っていた。死因は大量出血だが、現場には血痕一つ残されていなかった――。
夫婦の一人娘――三阪紫乃（二十五歳）は、福山医大病院漢方診療科の研修医。講師の羽立ロイ（三十五歳）は、手首の脈から体調を読み取る「脈診」が得意な天才漢方医。教授の行木（六十歳）は、半年前から病欠がちだったが、最近は覇気を取り戻している。
両親が殺された同日、紫乃の宿舎が荒らされ、ノートパソコンが消える。紫乃はロイへ「若返りの薬って、実在すると思う？」と意味ありげに問う。折しも昨年、米国の国立衛生研究所(ＮＩＨ)が「中国奥地の寄生植物『時騙し』が劇的な若返り効果を有する」と発表していた。
米国のアスタリスク製薬が…続きを読む