第17話 若返りの血を追って
一
誰かが、部屋へ入って来た。紫乃は、薄目を開けてみる。ベッドの脇に座ったのは、金髪の大男だ。
「あんたぁ、今から人を殺しに行くような顔をしちょるが!」
ロイの左頬のケロイドが、真っ赤に
わざとらしく目を細め、ロイの全身を眺め廻した。首筋に力が入り、ビリリと痛む。グッ、と
「まさか……うちを殺しに来たんか? 黒幕は、あんたじゃったか」
険しかったロイの表情が、
「どんだけ快復が
「美貌も聡明さも神様に
今朝から鼻カヌラも尿道カテーテルも外され、身軽になった。痛み止めが減量され、眠気も薄い。相変わらず、右の手足は重く冷えたまま、動かない。
「比嘉に言うて、早めにリハビリを始めて
「そりゃ名案じゃわ! なんで、もっと
「焦るな。物事には、順序ってもんがあるねん」
「ずっと目ぇ閉じちょるよりも、楽じゃ。TVだって観れるし、のぅ……お笑いを観ても、笑わんようにせにゃぁいけんが」
「くれぐれも、
「うちは、口封じのために殺されかけたんか? 犯人が分かったんか?」
「それが、な……」
ロイが、低い声で語り始めた。
「若返り薬の存在を知る、うちを消そうとしたわけか。ほいじゃぁ次は、あんたも狙われる可能性があるじゃろ?」
「俺が日誌を手に入れたと、バレたらな。奴らの目的は、新薬の利益の独占や。情報が洩れたと気付いたら、とことん
「先の
「関わるどころか、今や
ロイが、いきなり顔を近付けて来る。紫乃は慌てて、左手でロイを押し
「待たんか! こぎゃぁに殺風景な部屋で!
眉ひとつ動かさず、ロイが言葉を続けた。
「アスタリスクのナンバー2は、俺の親父やった。二十二年前に母親と離婚して、ここ十五年ほどは連絡を絶ってたから、俺は知らんかった。親父は、研究部門のトップや。つまり、お前の両親やお前を襲わせたんは、親父かもしれん」
スマン、とロイが深々と頭を下げた。
予想と違う展開にガックリしつつ、紫乃は
「新薬の
警察からの情報は、その後途絶えている。紫乃が
「可能性があるには、ある。二十五年前、
「うちのお母ちゃんの出産が、いつの間にか世界で有名になっちょったんか! ほいじゃあ若返り薬の秘密も何も、あったもんじゃ
地方病院の一介の産婦人科医が、わざわざ症例報告を書きたくなるほど、稀少なケースだったのだろう。
「世界へは、発信されてへん。日本語に堪能な奴が、日本の医学雑誌のデータベースから見付け出したんや。ただし、症例報告に『自家製ハーブ』の中身は一切、載って無かった」
「どんなハーブを飲んじょったか分からん
「そういう興味とは、種類が違うねん。症例報告を読んだら、そらぁビックリするで。四十手前で早発閉経してた女性が、五十六で自然妊娠の自然出産をしてるんや。『自家製ハーブ』に効果があったんは、明らかやろ」
「二十五年前の、しかも日本語の症例報告に、どぎゃぁして海外から
「金脈を掘り当てる奴は、それだけ必死こいてるねん。恐らく『時騙し』かて、同じようにして見付けたんや」
「これまで何も考えんと処方しちょったが、薬を創る側には色んな人間が
「お前のオトンや伊豫のように、『研究で誰かを救いたい』っちゅう気概を持ってる研究者は、ごくひと握りや。大概は、カネ目当てやろ。お前かて、若返り薬を売ってセレブになりたいとか、ほざいてたやん」
「うちは……今は、ただ、元の体に戻りたいだけじゃ。
――絶対、歩けるようになってやる――
自分の足で歩いて、両親の遺体を引き取りに行く。最初は、そう決意していた。
意識が戻ってからこの三日間で、完治は不可能だと早々に悟った。右半身の麻痺は、頸部の切創や呼吸などと、
「ほいで、日誌は、どうじゃった? 万願寺先生の所から帰って来て、お父ちゃんはどうしちょったんじゃ?」
「一九九〇年に『トキモドシ』二gを再開して、あとは
「待たんか! うちは一九九九年に生まれたんで? そぎゃぁに
「知らんがな。多分、子供の作り方がイマイチやったんやろ」
「アホか! このセクハラ講師が!」
ばんばんとロイを叩きつつ、紫乃はちらりと頬を
「あんたの頭と語学力がありゃぁ、もう全部、日誌を読めたんじゃろ? 若返り薬は、作れそぅなんか?」
ロイが怖い顔をしていなければ、今日、真っ先に訊きたかった件だ。
「自信が、無いねん。結局、『トキモドシ』の有害事象を抑える決め手は、分からへんかった。このまま薬を作っても、一歩でも間違えれば、お前を殺してしまうかも知れへん」
金髪頭が、うなだれる。赤褐色だった頬のケロイドが、今は青黒く見える。疲れているのだろうか。
紫乃はガハハハッと笑い飛ばし、ロイの膝をぱしんと叩いた。
「こぎゃぁに気落ちしたあんたを見るんも、一興じゃのぅ! 写真に
言い放ってから、はっ、と紫乃は口を
いつの間にかロイの背後に、スクラブの上下を着たスキンヘッドの男が立っている。
救急・集中治療科の比嘉教授だ。滑らかに光る頭のあちこちで、青い静脈が怒張している。
「お
紫乃もロイも、慌ててシーッ、と唇に指を当てた。ロイと比嘉の大きな体に隠れ、多床室から紫乃は見えない。スクラブの半袖から突き出た太い腕で、ビクンビクンと筋肉が
「ちょ、ちょっと待て、比嘉、落ち着いて聞けや。これには、深い
紫乃は、既に観念していた。
「比嘉教授は、命の恩人じゃ。今も、この命はあんたらに預けちょる。うちのせいで迷惑を懸けて申し
ロイが頷き、個室と多床室を隔てるアクリル窓のブラインドを下ろす。
ひと通り、話を聞き終えると、比嘉が深々と頷いた。
「なるほどのぅ。合点が行くわい。手口が、プロの殺し屋じゃったけぇ。三阪の安全と秘密は、
盛り上がった両肩の筋肉から、ボッ、と炎のような熱気が昇った。大きな両手で、比嘉が紫乃の左手を優しく包む。
「救急・集中治療科のスタッフには、
パチン、とロイが指を鳴らした。
「比嘉が口裏を合わせてくれるなら、広島県警にも紫乃ちゃんの意識が戻ったと伝えとこか。早めに
「スタッフの手前、意識が
「イケそぅやんけ! 決まりや! よし、県警に電話しよか」
早速PHSを取り出すロイを、比嘉が手で制した。
「院内PHSは、よぅ混線するし、盗聴されやすいけん。集中治療科の責任者の
比嘉がPHSを耳に当て、「広島県警へ繋いでくれい」と交換台へ伝える。
ロイと比嘉が揃うと、トントン拍子に事が運ぶ。
「さすが、教授先生じゃのぅ。同じ
ボソボソと紫乃が呟くと、ロイが恐ろしい目でギロリと
二
水曜日。紫乃が襲われた金曜の夜から、五日が経った。
「お客さんが来たで」
ロイの合図で、紫乃はぼんやりとした無表情を装う。
刑事たちを招き入れてドアを閉め、ロイがブラインドを下ろす。
蓼丸が、紫乃の顔を覗き込みつつ、一語、一語、言葉を区切った。
「こん、にち、は」
小早川は、紫乃をちらりと
「
「アホタレ、全部分かっちょるわ! たとえ相手の意識が
いきなり喋り出した紫乃を見て、蓼丸と小早川の目玉が五㎜ほど飛び出す。
「こりゃぁスマンかったのぅ。随分と快復されちょってじゃ」
「実は日曜から、意識は完璧に戻ってるねん。紫乃ちゃんの判断で、意識が無いフリをしながら様子を
ロイが、
紫乃は、吐き捨てた。
「話しても無駄じゃ。その刑事たちは、若返り薬の話を頭っから信じちょらんけぇ」
「
珍しく本気で怒声を上げたロイに、紫乃は思わずたじろいだ。
「あとは、比嘉が電話で話した通りや。集中治療科のスタッフへは、昨日から紫乃ちゃんの意識が部分的に戻ったっちゅう
勧められたパイプ椅子に座り、小早川がノートパソコンで記録を取り始めた。以前と同じく、蓼丸が質問役だ。
ばつが悪そうに紫乃の顔を
「確かに病院関係者が内通しちょる可能性があるし、用心せんとのぅ。犯人は、福山市の救急医療体制や病院内部の事情に、妙に詳しいけぇ。羽立先生が殴られたんはセキュリティの掛かったVIP病棟で、三阪先生が襲われたんは研修医フロアじゃ」
キーボードを叩きながら、珍しく小早川がロイへ質問して来た。
「三阪先生の体調は、どんなね?」
「呼吸と循環は、ほぼ元通りやし、首の切創の快復もアホみたいに順調や。ただし、右の手足の麻痺は重度や。今のところ、治る見込みも薄い」
蓼丸が目を固く閉じ、表情を
「現時点で三阪先生の意識が完全に戻ったと知っちょるんは、羽立先生と比嘉教授だけね?」
「せや。比嘉の
蓼丸と小早川が、顔を見合わせる。
「比嘉教授は、
「初期研修を終えてから去年までやから、十年近くかな。……おいおい、比嘉は
「参考までに、訊いただけじゃけぇ」
蓼丸の、そらっトボけた笑顔が、余計に紫乃のカンに
「
紫乃は、蓼丸と小早川を
「なんじゃて? それは誰なら?」
ロイが、口をへの字に曲げた。
「バレてから言うんも、嫌やし。……俺や」
「羽立先生じゃて? どういうわけね? アスタリスクと関係があるんに、黙っちょったんか?」
「アスタリスクのナンバー2
「最後に連絡を取ったんは、いつね?」
「今、言うたがな! 十五年前や! 嘘やと思うなら、俺のメールの履歴でも電話の記録でも、十五年ぶんを調べたらええがな!」
ロイが声を荒げる。勝ち誇ったように、紫乃は高らかに宣言した。
「ほれ見んさい。今度は、あんたを疑い出したわ。この刑事らは、目の付け所がへなちょこじゃけぇ、何を言うても時間の無駄じゃ!」
小早川が、パチパチとキーボードを打っていた手を、ぴたっと止めた。がっちりした顎で、言葉を噛み砕くように、低い声で喋り始める。
「三阪先生の
座ったまま、小早川が深々と頭を下げた。横の蓼丸も視線を落とし、初めて悔しげに頬を
「言い訳じゃがのぅ。刑事の仕事は、一つ一つ可能性を考えては
今度はロイが、立ったまま、コンパスを折り曲げるように頭を下げた。
「スマン。つい、
紫乃は、仰天して思わず声のトーンを上げた。
「なしてじゃ。あんたぁ、素人じゃろ。もしかして脈診以外に、指先で殺し屋を探知する特殊能力でも持っちょるんか?」
シッと唇に人差し指を当てつつ、ロイが続ける。
「俺を襲った四人の中国人は、プロレスラーみたいな体格をしてる割に、CTを撮ったら
――ヘタレ研修医……桧垣じゃのぅ。
紫乃は、桧垣の
「他にも、違和感はいっぱいあってん。紫乃ちゃんの研修医宿舎に入った犯人かて、俺らが部屋へ行く直前まで
蓼丸と小早川が顔を見合わせ、
「違和感と言やぁのぅ。犯人が尾道漢方薬局から持ち去った物は、他にもあるんじゃ。お二人とも医者で、漢方の専門家じゃ。捜査情報について、意見を聞きたぁわ」
「日誌と生薬以外にも、盗られた物があるんかいな」
「ご夫婦の死因は、失血死じゃ。
紫乃の心臓が、トクン、と寂しげに鼓動した。トクン、トクン、トクン。こうして心臓が一生懸命に働いて、ヒトを生かすべく送り出した血液を、両親は奪われ、息絶えた。
胸にぽっかりと
ロイがちらりと紫乃を見て、慌てて口を開いた。
「紫乃ちゃん、大丈夫やで? ほら、医学部で勉強したやろ? 血管に痛覚は無いねん。針が皮膚を突き破るほんの一瞬、チクッとするだけや」
懇願するような
紫乃へ無理に笑顔を向けたロイの頬が引き攣れ、ピクピクと震えだした。
「オトンもオカンも、全っ然、
天を
「なんちゅうクソったれや! 生きたまま血を抜くなんざ!」
左頬のケロイドが、ぶわっと破れそうなくらい赤く
「俺が、ぶっ殺す! ボコボコにしたる! 外道が!」
ロイが自分の白衣の腕にがぶっと噛み付いた。ウーッ、と
「アホゥ。あんたが泣いて、どうするんなら?」
「あんたぁ、以前に
つーんつん、つーんつん。ロイの白衣の
ようやく、ロイが口を離した。白衣の腕が、唾液と涙でベトベトに濡れている。
「スマン。なんか知らんけど、めっちゃ悔しいねん。腹が立って、しゃあ
蓼丸が、ぺこりと頭を下げた。
「いきなりショックな話をして、申し
「うちは漢方オタクじゃし、変わった人間じゃが、人の血を抜こうとは思わんのぅ。珍しい生薬を見付けたら、それを盗って終わりじゃわ」
カラカラと、紫乃は明るく笑って見せた。
ロイが、自分を落ち着かせるように、ふーっ、と大きく息をつく。乱れた金髪から覗く
「新薬の情報だけや
「研究者にとって、血液はそぎゃぁに価値があるんね? どんなふうに血液を使うんね?」
小早川のキーボードを打つスピードが、速くなる。
「血液の利用価値は、無限大や。人類史上初の若返り薬を、副作用も無く何十年も服用して来た、世界でたった二人の症例やで? 貴重やからこそ、大量に、採れるだけ採ったんや」
ちらり、とロイが紫乃を
「気にせんで、ええ。うちは、しゃんとしちょる。あんたは、漢方医としても、研究者としても、超一流じゃ。思い付くまま喋って、捜査に役立てんさい」
ん、と安心したように頬を
「薬を毎日飲んで、若返りを体現してた夫婦の血液や。血清を他人の体へ入れるだけで元気になったり、なんらかの治療効果を持ってる可能性がある。多少は
蓼丸が、気持ち悪そうに唇を
「中世の西洋で、似たような話があったのぅ。伯爵夫人が、若返りのために処女を殺して、その血を浴びちょったとか、飲んじょったとか。
「お前は
感心して蓼丸が頷き、小早川が得意げに鼻先をそびやかした。
紫乃も、勢い込んで話に加わる。
「エリザベート・バートリじゃろ! 罪に問われて、暗黒の部屋に幽閉されて以降も、一日一食の劣悪な環境で三年半も生き延びたんじゃ。五十歳を過ぎちょったんよ! じゃけぇ、若い女の血を吸ぅたら不老不死になる、っちゅう伝説が生まれたんじゃ!」
一気に喋り終えたら、蓼丸も小早川も
構わず、ロイが言葉を続ける。
「他には、遺伝子の解析に使うやろな。例えば、紫乃ちゃんの両親と、『timeless』の臨床試験で有害事象を生じた人たちとで、血液を比べてみる。ご両親の血液中でのみ活性化されている遺伝子は、有害事象を抑制してる可能性がある」
「トキモドシ』だけじゃ
納得顔で頷く蓼丸へ、ロイが水を向けた。
「ところで、そっちはどないやねん? 外国が絡んどる犯罪やから、警視庁公安部まで話を上げるとか言うてたやん」
「外事一課から外事四課まで、総力を挙げて合同捜査をしちょる。じゃが、のぅ。アスタリスクは
「全然、アカンやん。手詰まりやがな。俺も含めて、な」
話し疲れたように、ロイがどっかりとパイプ椅子に座り込んだ。
三
刑事たちが帰った後も、ロイが腰を上げる気配は無い。早く帰宅する理由――日誌を解読する使命――が、無くなったからか。目的を見失っているとも、受け取れる。
ロイの白衣をつーんつんと引っ張りながら、紫乃は決心を固めていた。
「あんたぁ、今日は刑事たちへ、ええヒントをくれたわい。お疲れさんじゃったのぅ」
「お前に
「
「知らんがな! 来週の月曜、
比嘉やロイ
――口は悪いし、外見はゴツイが、優しいお人じゃのぅ。
ロイへは、感謝の想いしか無い。本来、三阪家だけに降り掛かるはずだった
「うちの望みは、鯨羊羹じゃ
「知っとるわ。『トキモドシ』を飲みたいんやろ?」
金色の前髪の奥で、ロイが気弱げに
「半身不随で一生を過ごすくらいなら、イチかバチか『トキモドシ』を飲ませて欲しい。うちみたぁな乙女じゃ
「そらぁそぅやな。なんの不思議も無いわ。お前が乙女かどうかは、別としてもな」
冗談を織り交ぜつつも、ロイの声には覇気が無い。
思い切って、決心を口にする。
「代わりに他の願いを叶えてくれるんなら、『トキモドシ』を飲むんは諦めてもええよ?」
「なんやねん、その願いって」
「あんたのお父ちゃんに会いたいんじゃ」
ロイの片眉が、二㎝ほど跳ね上がった。
「はぁ? 正気か? お前の命を
「うちの意識がフルに戻ったんは、じきにどこかからバレるじゃろ。どうせ、また凄腕の殺し屋が来るわい。このまま何も手を打たずに
「敵の
「自分から乗り込んで殺されるなら、本望じゃ。うちは自由の利かん体じゃし、連れてって
「
「ただ、訊いてみたぁんよ。薬は、人を救うはずの道具じゃろ? その薬を、なして、人を傷付けて、殺してまで、創ろうとするんね? 『timeless』の臨床試験でも、沢山の人が犠牲になったんじゃろ? なんでじゃ? 正義? カネ? 医学の進歩のためか?」
「
「あんたのお父ちゃんは、製薬会社の経営陣の一人じゃし、一流の研究者でもあるじゃろ? どぎゃぁな理想を持って研究しちょるんじゃ? うちみたぁな
「親父の口癖は、『研究で
「とにかく、
「そんなん、オトンもオカンも知りたいか? 教える意味があるんか?」
「想像してみぃ。突然現れた殺し屋連中に、死ぬまで血を抜かれたんよ? 訳が分からんまま、ただ
「俺の親父が、常人には理解できん
「それならそれで、吹っ切れるわい。なぁ、頼むわ。この願いが
つーん、つーん。今度は
「比嘉に相談したら、全力で止めるやろな……」
ロイの伏せた目を覗き込み、ニタリと笑い掛ける。
「あんたぁ、既に行く気になっちょるじゃろ?」
「アホか! まだ決めてないわ! 検討してみるだけや。最短でも、お前の首の抜糸が終わる頃……来週の火曜あたりやな。行くなら、一泊三日の弾丸ツアーやで?」
「前から言うちょるじゃろ。男のせっかちは、
「お前なぁ! 来週のスケジュールを調整するんが、どんだけ大変やと
「まぁ、ええわい。あんたにゃ、いつか新婚旅行のときにでも、ゆっくり
虚しい軽口だと、紫乃は自覚している。あと少しで、ロイとは疎遠になる。この体では、研修医の仕事を続けられない。病院を退職すれば、いずれロイとの関係は切れる。
「車椅子で
「セクハラ変態講師が! ……でも、あんたの言う通りじゃわ。ちなみに部屋は、どうするんなら?」
ロイの父との面会だけに気が
「一人でトイレにも行けへんなら、同じ部屋にするしか無いがな。
「うちは、相変わらずのアホじゃのぅ。現実が見えとらんわい。……ウトウトと
「お前らしく無いやん。
「中屋の鯨羊羹を食べたら、元気になれそぅじゃが……」
じっとりと横目でねだってみたが、気にする
「まずは家に帰って、親父と連絡を取ってみるわ。ホテルの空きと航空券も、調べなぁアカン」
精悍な顔付きを、ロイが取り戻していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます