ほうれい線に愛をこめて ~時を遡る薬~
漢方太郎
第1話 消えた大量出血
一
広島県警察刑事部捜査第一課・
「血も流れちょらんのに失血死たぁのぅ。
隣でハンドルを握る、同じく捜査第一課の
「
パトカーはけたたましいサイレンを鳴らしつつ、尾道の
国道一八四号線が交差して栗原川を越えると、右手に《尾道漢方薬局》の看板が現れた。看板の後ろに四台分の駐車スペースと、赤茶のスレート
小早川がサイレンを消し、パトカーを道路脇へ
ブルーシートの
「通報者は、朝の散歩に出た隣の住人です。店の自動ドアが数センチほど締まり切っちょらんし、声を掛けても中から返事が
ブルーシートを
「漢方薬局では、建物にまで漢方薬を飲ませちょるんか。こぎゃぁにどぎつい
「
小早川がスンスンと鼻を鳴らし、ワインのテイスティングのように目を閉じた。
「おどれ、
「
「婚活しちょる暇も
二人は、一階の店舗部分のレジカウンターを抜け、奥の階段から二階の住居へ上がる。
殺人現場となった寝室は、厚手のカーテンが閉められたままで、薄暗い。二つ並んだ布団の上に、ガムテープで口をぐるぐる巻きにされた男女の遺体が横たわっている。二人ともパジャマ姿だが、下半身は下着まで脱がされ、性器が露出している。黒々とした髪と筋肉の張り具合から、男女どちらも三十代前半~半ばくらいか。女性は、仰向けでも弾力を失わない胸と長い手足を持ち、魅惑的な姿態だ。
白い手袋を着け、蓼丸は男の
「ひどい貧血じゃ。こりゃ確かに大量失血死じゃのぅ。
露出した下肢も顔も蒼白で、水が
「動かんように、手足を押さえ付けた痕じゃろ。どれも
「
「
蓼丸は、「機捜」の腕章を着けた刑事へ、疑問を投げた。
「この薬局を経営しちょる夫婦は、八十代っちゅう情報じゃろ?
「今、夫婦の一人娘に連絡を取っちょります」
「娘は、どこに
「去年、福山医大を卒業して、今は附属病院の寮に
若い機捜の刑事が、メモ帳を読み上げる。
「医者か。昨夜の娘のアリバイも洗わにゃぁのぅ」
考え込む蓼丸をよそに、あらためて小早川が男女の遺体を上から下まで見廻し、うんうんと深く頷いた。
「とても八十代の
「おどれ、しっかりせんか!
怒鳴り付けた蓼丸へ、「機捜」の刑事が
「病院の交換台から、娘の院内PHSへ繋がりました。直接、話されますか?」
おぅ、と
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