第8話 尾道漢方薬局の奇跡

  一

 ロイは、夜勤の看護師長と事務当直へ、事件のあらましを伝えた。

 VIP病棟での警察への対応を事務当直に任せ、医局へ戻ると、朝の三時を回っていた。

 医局のドアを開けると、ソファに座ってウトウトしていた紫乃が、はじかれたように立ち上がった。

「その怪我、大丈夫かのぅ?」

あざが一つ増えたところで、人相の悪さは変わらへん。……ま、座れや」

 右目の上方視野が、狭い。まぶたが腫れ下がっているのか。

「あんまし覚えてないねん。紫乃ちゃんの当直室を開けたら、あっという間に引きり込まれて、殴られてん」

 はっと息を呑み、紫乃が緑色の目を見開いた。明け方が近いのに、マスカラが一層濃く濡れ光る。

ちゃうで!」

 ロイは慌てて手を横に振った。

「当直室に入る気はかってん。ちゃんと鍵を掛けたか心配になって、ドアをちょっと押してみてん」

 いっぱいに目を開けたまま、紫乃が頷く。

「ほんならくんやもん……」

 ため息をついたロイに、紫乃が吹き出した。

「さっき刑事に、めっっっちゃ疑われてん! 俺は、下着をろぅとか、寝込みをおそおぅとか、ぜんぜんおもてへん。だいたい、そんな趣味は無いっちゅうねん!」

 言葉に力を込めると、思わず唾が飛んだ。院内最大派閥の看護師ナース連中や、近年勢力を伸ばしつつある女性医師を中心に、セクハラには超過敏な昨今だ。紫乃がハラスメント委員会に訴え出れば、ろくな証拠が無くともロイの首は容易に飛ぶ。噂が立つだけで、黄信号だ。

 ふと気付くと、紫乃がニタリニタリと笑っている。

「お前、なんでそんなに嬉しそぅやねん」

夜更よふけに電話して来るわ、当直室の前まで来るわ。そぎゃぁに、うちをおもぅちょるんじゃのぅ」

 よく見ると、普段はロイと同じくらい色白な紫乃の頬が、ファンデーション越しにも赤みが強い。テーブルの上には、三本の四合瓶と湯呑ゆのみが置かれている。

「お前、ぅてるんか?」

「あんたぁ、大阪育ちじゃのに、広島の酒が好きなんじゃねぇ」

「まさかと思うけど……俺の秘蔵コレクションの、全部に手を付けたんかいな」

すいしん》、《賀茂かもつる》、《雨後うごつき》の四合瓶が、仲良くテーブルに並んでいる。

「どれも両親が好きじゃったけぇ、つい」

 ロイは《すいしん》の茶色い瓶をを目の前にかざし、天井の蛍光灯にかす。三合ほど残っていたはずが、カラだ。

「めちゃ酒豪やんけ! どんだけ飲んでるねん」

「まだまだ、これからじゃ! 醸造元が尾道から近い順に、けちゃるけぇ」

「せやったら、三原みはらの《すいしん》の次は東広島ひがしひろしまの《賀茂かもつる》、最後はくれの《雨後うごつき》の順やな。今は切らしてるけど、竹原たけはらの《せいきょう》も極上の味やで。醸造元は、三原と東広島の間にあるねん」

「小さぁ酒造じゃのに、よぅ知っちょるのぅ。なんでそぎゃぁに広島の酒に詳しいんなら?」

「俺の漢方の師匠が、大の酒好さけずきでな。医学部時代、週末は大阪の師匠の家に寝泊まりして診療を手伝てつどぅて、夜は師匠の酒に付き合いながら理論を学んどった。ある日、広島の酒を土産にしたら機嫌がぅなって、漢方の真髄をどんどん喋ってくれはってん」

「広島の酒には、そぎゃぁに不思議な力があるんか。あんたも飲んで、真髄とやらを教えたらどうじゃ」

 紫乃がカラカラと笑い、《酔心》の残りが入った湯呑をカパッと干した。

「真実を教えなぁアカンのは、お前や」

 いきなりロイはグイッと顔を寄せ、正面から紫乃を見据みすえた。

「あいつらは、お前の何をねろたんや?」

 笑みを浮かべたまま、さらりと紫乃が顔をそむけた。スマホを操作し始める。

 ――化粧どころか、きもたままで厚塗りや。

 ロイは内心、舌を巻く。

 紫乃が振り向いた。挑むようにぎらつく緑の目だ。

「どぎゃぁな病気でも治せる万能薬って、あると思うちょるか」

「癌でも心臓病でも、か? ありへんわ」

「じゃあ、若返り薬ならありるんか」

「また、その話かいな。昨日の朝も、全く同じ議論をしたがな」

 紫乃が、スマホをロイへ突き出す。

「うちの、お母ちゃんじゃ」

 画面いっぱいに、女性の顔写真が拡大されている。解像度が悪い。アルバムの写真を、また撮りしたのだろう。色白の肌に、ぱっちりした黒目がちの瞳と、豊かな黒髪が魅惑的だ。

「クソ綺麗なオカンやな」

 紫乃と、うりふたつだ。三十歳手前の頃だろうか。しっとり落ち着いた、女性らしい色香を漂わせている。つい、見惚れてしまう。

 紫乃が、再度スマホを操作した。

「これも見てみんさい」

 五十代半ばくらいになった、紫乃の母親だ。髪は白髪混じりでパサつき、目の下が黒ずんでたるんでいる。顔の肉が全体的に垂れ下がり、ぶよぶよして張りが無い。

「ドアホのギャル崩れを育てるんに、相当苦労しはったんやな」

「どちらの写真も、私を産む前じゃ」

「は? よぅ、この状態で……」

 自然分娩で産めたな、という言葉を呑み込んだ。五十六歳の実年齢からして当然だが、容姿から判断しても、肉体年齢が老化し過ぎている。妊娠・出産など、不可能だ。

「あんたぁ、勘違いしちょる」

 マスカラで重そうな睫毛を垂らし、紫乃がとろんとした緑色の視線をロイへ向けた。

としを取って見えるほうは、お母ちゃんが三十九のときじゃ」

「おいおい……。この状態から十七年後に子を産むんは、キビしいで?」

 三十九歳にして、五十代半ばのごときかただ。これから子を産むどころか、既に閉経していそうだ。

「奇跡が起きたんよ」

 こともなげに、紫乃が呟いた。

わこぅ見える写真が、五十六のときじゃ。うちを産む直前よ」

「……あり得へんやろ」

 つやの良い黒髪に、きゅっと引き上がった白い頬。悪戯っぽい輝く瞳と、しっとり濡れ光る赤い唇。どう見ても、三十手前の女盛りだ。

 二つの写真を見比べる限り、十七年の歳月が流れる間に、二十年は若返っている。

「写真なんかで、俺は騙されへんで」

「お母ちゃんのカルテが、尾共おのきょうの産婦人科に残っちょるそぅじゃ。早発そうはつ閉経へいけいで通院しちょったんが、治って、うちを産んだんじゃけ」

 早発閉経――四十歳未満の閉経だ。

「当時、西洋医学的な治療法は無かったはずやろ?」

 近年は、女性ホルモン補充療法が一般的だ。当時の唯一の治療手段は漢方だが、妊娠・出産可能にまで回復させるのはまず無理だ。

「お父ちゃんが、発明したんよ」

「タイムマシンでも発明したんかいな」

 紫乃が、カラカラと乾いた笑い声を上げた。

「そりゃ最高じゃ。タイムマシンで二日前へ戻って、両親を助け出しちゃるわ」

 胸をかれ、ロイは言葉を失った。

「お母ちゃんは、なかなか子供ができんで不妊治療を受けたけんど、しんどいばっかりでそのうち月経がぅなってしもぅた。京大薬学部で漢方生薬の研究をしちょったお父ちゃんは、尾道へ戻って漢方薬局を開業して、生薬の調合を始めたそぅな」

「無理無理無理無理!」

 ロイはブンブンと両手を振った。

「どんだけ漢方を知っていようが、若返り薬なんて創れるわけが無いねん」

「お父ちゃんには、当てがあったんじゃと思う。国立衛生研究所NIHよりもずっと前に、『時騙し』に目を付けちょったんじゃぁかのぅ。お父ちゃんの研究日誌をちらっと見たとき、ピンと来たんよ。『時騙し』と似た学名があったけぇ」

「お前、『時騙し』の学名を知ってたんか!」

 米国アメリカ国立衛生研究所NIHが発表した、英語の学術論文を読んでいたのか。

「『時騙し』は中国に自生しちょるけぇ、学名の末尾はsinensisじゃろ?」

 sinensisは、Chinaと同義だ。

「その通りや。お前、学名の付け方まで把握してるんか」

 行木教授ですら知るはずがない蘊蓄うんちくだ。植物学者や薬学者ならともかく、漢方医にとっては「重箱じゅうばこすみ」的な素養そように過ぎない。

「お父ちゃんの日誌に出てくる生薬は、『時騙し』と学名は似ちょるが、末尾はjaponicaじゃった。お父ちゃんが近縁植物を発見して、『トキモドシ』という和名を付けたんよ」

 japonicaはJapanを意味する。

「まさか……『時騙し』と同種同属の植物が日本にも自生してて、それを使つこてオトンが若返り薬を創ったっちゅうんかい!」

 紫乃が、微妙に首をかしげた。

「若返りだけが、薬の効能じゃぁぁんよ。お父ちゃんも上手うもぅ説明出来んかったが、細胞を本来の元気な状態に戻す、器官の欠損した機能を元通りに修復するような作用があるんじゃ」

「現実に起こった変化は、お前のオトンとオカンが若返って、子宝に恵まれただけやろが?」

「うちも、その薬を飲んじょったんじゃ」

「はァ?」

 ロイは、紫乃の頭から足まで、無遠慮ぶえんりょに眺め廻した。黒々しく光る髪。厚塗りしたファンデーションの下から、パツンと膨らむ頬。服の内側から盛り上がる、生命力に溢れた胸。

「まさか、お前……とんでもないババァの癖に、薬で化けて出てよったんか!」

「ぶちまわしちゃろぅか! かよわぁ乙女を、モンみたぁに言いよって!」

 紫乃が、からになった《酔心》を振り上げた。鈍く光る茶色の四合瓶を、ロイは慌てて手で制した。

「落ち着け! 医籍いせき登録とうろくをしてるから、年齢を誤魔化ごまかすのは不可能やもんな」

 厚生労働省のデータベースに登録され、医師免許を取得する際には、住民票か戸籍謄本の写しが必要だ。

「うちは、生まれつき心房中隔欠損ASDのある、虚弱児じゃった」

 五十六歳の母から自然分娩で無事に生まれたのなら、心房中隔欠損ASDなど取るに足らない先天異常だ。

「小児の心房中隔欠損ASDは、成長過程で自然治癒する可能性があるやろ?」

「欠損孔は、自然閉鎖が全く期待できんほど大きかったらしいわい。それが、薬を飲んで半年後には完全に塞がっちょった。経過は全部、尾共おのきょうの小児科のカルテに残っちょるそぅな」

「お前、『若返り薬』を今も飲んでるんか?」

「三歳のときの半年間だけじゃ。その後は病気一つ、しちょらんし」

「せやろな。薬をずっと飲んでたら、化粧のセンスと性格も直ってたはずや」

 再び紫乃が振り上げた《酔心》を押さえつつ、うーん、とロイは思考に沈む。

 考え込むときの癖で、手が左頬のケロイドへ伸びる。ケロイドは、季節を問わず乾燥しており、ザラザラと硬く指先に触れる。

「細胞の機能や器官の欠損を正常に戻す薬、かいな」

 ケロイドの原因となる線維せんい細胞さいぼうの過増殖や、果ては、あらゆる細胞の癌化にまで効くのだろうか。不治の病が治るうえ、心身が劇的に若返るなら、薬の応用範囲は無限大だ。

「まさに『万能薬』や。国立衛生研究所NIHの『時騙し』どころやあらへん。オトンは、その薬を売ってたんか?」

 紫乃が、わざとらしく手の甲を口に当て、ホホホホと勝ち誇った顔で哄笑こうしょうした。

「売っちゃぁ、いけんわ! そこいらで採った植物を!」

「せやった! クソッ、俺としたことが」

 日本薬局方で認められた種類・品質でなければ、薬として売るのを禁じられている。

半月はんつきほど前、うちが漢方診療科で研修を始めた祝いに、『若返り薬』の開発過程を書いた日誌のPDFを、お父ちゃんがくれたんよ。三阪家の秘密の家宝じゃ、っちゅうて」

「その日誌が、狙われとるっちゅうんか」

 曖昧に紫乃が頷く。

「他に目ぼしいもんは、三阪家にはぁけぇのぅ」

「売ったことも喋ったことも無い秘密の薬が、なんで狙われるねん」

「うちにも分からんのじゃ」

 犯人の狙いが若返り薬なら、麝香じゃこうがんに見向きもしないのも、頷ける。

「警察には伝えたんかいな?」

「昨日、県警の刑事には話したけんど、頭っから信じちょらんかった。さっきの刑事は、報告を上げてくれるっちゅう話じゃったが」

「せやろな。フツーに考えたら、若返りの秘薬なんて、あるわけが無いねん」

 漢方の専門家のロイですら、まだ半信半疑だ。

「お前が生まれた後も、オトンとオカンは薬を飲み続けてたんか?」

「何がしかの漢方煎かんぽうせんやくを、毎日飲んじょった。多分、その中に『トキモドシ』も入れちょったんじゃろ。二人とも、としの割に異様にわこぅて、よぅ食べて、うちよりも元気じゃったけぇ」

「八十、九十で、お前よりも元気やったんか? もはや妖怪レベルやな」

 ロイは、ピカピカに磨かれてくもりひとつ無い、尾道漢方薬局のガラスケースを思い返した。

「百味箪笥の生薬がごっそり盗られたんも、若返り薬の中身を知るためじゃろぅのぅ」

「オトンから日誌をもろたんなら、生薬さえ手に入ったら、お前は薬を作れるんか?」

「日誌には、『時騙し』のjaponica版どころか、他の生薬まで全っっ部が英語の学名で書かれちょった。その他の部分も、英語の研究用語や、中国語の文献の切り抜きだらけじゃ」

 紫乃がうなだれ、悔しそうに肩を震わせた。

「お父ちゃんからさずかった、家宝の日誌じゃ。この半月はんつきは、睡眠を削って悪戦苦闘したわい。それでも、ちぃーとも理解できんかった。お父ちゃんの期待にこたえられんアホな自分を責めて、毎晩、涙を流したわ。こりゃぁ百年掛かっても無理じゃと思うて、」

「お前・・・ほんの一瞬で諦めたやろ!」

 紫乃が顔を上げ、ぽかんと口を開けた。黒いマスカラがべったりと付いた目元には、涙の欠片かけらも浮かんでいない。

「なしてバレたんじゃ? あんたぁ、うちの背中にいちょったんか」

「お前の場合、マスカラの濃さとあさはかさが比例してるねん」

「あぎゃぁに膨大な異国の専門用語を目にしたら、誰だってすぐに挫折するわい」

 厚盛あつもり睫毛をバチバチとまたたかせながら、紫乃がロイにり寄った。

「ロイ先生は、漢方の専門家じゃねぇ? 難しい遺伝子の研究をして、博士号も取っておいでじゃねぇ? 日誌を解読して、うちにもよ~く分かるように説明してくれんかのぅ」

「お前、ノートパソコンと一緒に、日誌をうしのぅたんやろ?」

「アホか。うちのほうが、犯人より何枚も上手うわてじゃ」

 ニタァッと紫乃が笑った。

「ロイ先生は面倒見がええっちゅう評判じゃけぇ、解読してくれるに違いぁと踏んで、ほれ!」

 得意げに鼻をそびやかし、紫乃が高々とスマホをかかげた。

「いつでもあんたに見せられるように、スマホに転送しといたんよ。うちの勝ちじゃ」

 ――他力本願のたなボタ勝利やんけ!

 不幸中の幸いではあるが、手放しで喜べる結果でも無い。

「お父ちゃんが、言うちょった。臆病なら、この薬を自分や家族のためだけに使つこぅたらええし、上手うも使つかやぁ、億万長者になれると。うちは、臆病じゃぁよ。お父ちゃんの薬で、しかるべきカネも名声も手に入れんと、気がおさまらんわい」

「犯人は既に日誌を手に入れて、若返り薬のアイデアを盗んだんやろ? 犯人がどこぞの企業に売り込めば、すぐに商品化されてしまうやん。お前の負けや」

「お父ちゃんいわく、日誌を読むだけじゃと、若返り薬は完成せん。場合によっては、命までられかねんそぅな」

「何か重篤な副作用があるっちゅうわけか?」

「数か月で二十歳ほど若返った後、数か月で一気に四十歳ほどとしを取るんじゃ」

「飲んだらアカン、危ない薬のたぐいやん!」

「よぅよぅ勉強して経験を積んで、漢方薬を併用すれば、若いまんまの状態を保てるとお父ちゃんは言うちょった」

「抽象的で、よぅ分からん話やな。漢方を使いこなせるようになるまで、何十年も掛かるで? 西洋医学的な研究の素養も必要なら、更にプラス五年や」

 紫乃が、いきなり真剣な表情になった。

「じゃけぇ、こぎゃぁに頭を下げて、お願いしちょる。世界じゅうのどこを探しても、お父ちゃんの日誌を理解できるんは、ロイ先生しからんのよ。お願いします」

 立ち上がり、珍しく、紫乃が深々と頭を下げた。

 ロイは、即答した。

「断る。誰にも理解できへん日誌なら、かえって安心や。これからお前が精進しょうじんして、自分の力で解読する時間が、たっぷりあるっちゅうこっちゃ」

 全身のあらゆる汗腺から血が噴き出すほどの挫折と努力を、自分自身で繰り返さねば、抜きん出た技能は身に着かない。ロイの信条だ。

「タダで、とは言わんけぇ。利益は、山分けするわい。一緒に会社でもおこして、世界に名をとどろかせるセレブになろぅや」

「ホンマもんのアホがほざくセリフやな。若返り薬を使いこなすキモを、なんでオトンがお前に教えんかったと思うねん。お前みたいなアホむすめが気軽に飲んだら命までられかねん、危険な薬やで? フツーは、可愛い娘に全てを教えるやろが」

「お父ちゃんは、うちが可愛かわゆかったんじゃろぅか?」

「お前は、可愛い。でも、アホや」

「今、愛の告白と誹謗中傷を同時に受けたんじゃが、気のせいじゃろぅか?」

「どっちも気のせいや。オトンは、アホなお前が可愛いからこそ、成長させるように仕組んだんや。アホさ加減がマシになって、分別ふんべつが出た頃に薬を扱えるよう、時限装置をセットしたんや」

「あんたぁ、傷心の乙女に向かって、アホアホ言い過ぎじゃ!」

「俺の日本語が通じてて、良かったわ。とにかく、お前の指導医は、俺や。当面のお前の最大の任務は、漢方の習得や。オトンの日誌を理解したいんやったら、がっついて来い。降り掛かるを払いながらでも、俺が持つ漢方の全てを吸い取ってみぃや」

 ロイは、空いた湯呑へ《賀茂鶴》を注ぎ、ゴクリと喉仏のどぼとけを鳴らして飲み干した。

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