第13話 王女と王妃

 手合わせが終わり、治療を受けているとアルベルト王が話しかけて来た。


「イツキ殿、無茶を言ってすまなかった。実にいい手合わせだった」

「いえ、マーシャルさんについて行くので必死でした」

「……ハッハッハッハッハ!あのマーシャルについて行けるだけでも相当上澄み。誇られて良いぞ」


 やはり、この王様はいい人だ。よく笑い、俺が誰だとか関係なく誰とも同じように接してくれる。


「お父様!!!」


 綺麗な声が聞こえ振り向くと、そこには1人の少女が立っていた。


「あ、アリシアではないか。どうした?何かあったのか?」

「何かあったのか、ではありません!この方はどなたなのですか!?!?あの、マーシャルと互角に渡り合っていました!!」

「お、落ち着け。こちらは、イツキ・アイザワ。先のマグワイアの件を解決してくれた冒険者だよ」

「では、この方が…魔人を倒された……」


 なんだ?この声のでかい女の子は…アルベルト王をお父様って呼んだか?


 不思議そうな顔で見つめる俺に気づいたアルベルト王はその少女を俺に紹介した。


「イツキ殿、紹介が遅れた。これは、我が娘アリシアだ。君とは歳も近い、是非仲良くしてくれるとありがたい」

「コホン……お見苦しいお姿をお見せして申し訳ございません。ただいま紹介に預かりました、アルベルト王国王女アリシア・アルベルトでございます。以後お見知りおきを」


 先程まで騒いでいた彼女は身なりを整えた後、ドレスの裾をつまみ、膝を曲げ挨拶をした。


「え、えっと、冒険者をしてます。イツキ・アイザワと言います。よろしくお願いします、アリシア王女」


 改めて見ると、とても整った容姿をしている。雪のように白く綺麗な肌に、ブロンドの長髪、吸い込まれそうなほど綺麗な紅眼、そして何より目を引くほどのスタイル。思わず見蕩れる程だった。


「イツキ様、イツキ様を凄腕の冒険者と見込んでお願いがございます!」

「凄腕だなんて……」

「わたくしを、光の魔術師エリノア・シモンズが居るとされる、クノンデルア森林まで連れていってください!」


 光の魔術師?エリノア・シモンズ?なんだそれ…

 俺の頭に?が大量に浮かんだ。


「光の魔術師とはかつて、勇者と共に魔王を討伐したとされる伝説の魔法使いです」


 ソフィーはこっそり耳打ちをして教えてくれた。


「そんな、魔法使いがいるのか…」

「はい。ですが、光の魔術師は200年前に生きていた人物。今もご存命だとは思いません……」

「200年前!?……そりゃあ、仮に生きてても相当年寄りだな」


 この世界の寿命というのは分からないが、普通の人間なら200年なんて生きれるはずがないからな…残念だけど、断るしかないか…


「すみません。その、光の魔術師ってのが生きてるとは思えないんですけど……」

「生きていないかもしれないというのは百も承知です!」

「だったら……」

「ですが、どうしても諦めるわけにはいかないんです!」


 なぜ彼女は、その光の魔術師ってのにそこまで会いたがっているんだ?

 なにか、会わなければならない理由でもあるんだろうか……


「なぜ、そこまでして光の魔術師ってのに会わないといけないんですか?」

「そ、それは……」


 言葉が詰まるアリシア王女を見兼ねたアルベルト王は、彼女に代わり説明を買って出た。


「その事に関しては、私の口から説明しよう。しかし、この場では人目が多すぎる。城に戻り説明しよう」


 俺たちは城に戻ると、応接室のような所に通された。


「アリシアが光の魔術師に会いたがっている理由。それは、アリシアの母、つまりこの国の王妃が病に伏しているからなのだ」

「アリシア王女のお母さんが病気…」


 アルベルト王は俯きつつ、話の続きを始めた。


「……妻…ビューラは、つい半年ほど前までこの国の王妃として、そして、固有スキル聖女を持つものとして怪我や病気で苦しむ者を癒し、助けていた。そして、その姿は偶然にも同じく聖女の固有スキルを持って生まれたアリシアの憧れであり、自慢だった。アリシアは、どんな時でも傍から離れようとせんでな。そんな、2人をを見るのが私も好きだった。」


 本当に大切で、楽しい日々だったのだろう。

 アルベルト王は穏やかで優しい笑みをこぼしていた。


「……そんな平穏な日々を過ごしていたある日、ビューラは突然倒れた。本来、病や怪我、呪いの類ならば自らの力でどうとでもなるはずだった。しかし、聖女の力も万能では無かったのだろう。倒れてからというもののビューラは日に日に弱っていき、今やベッドの上から動く事も出来ぬほどとなった。」

「そんなことが…」


 ここで、俺には疑問が3つ浮かんだ。

 1つ、同じく聖女の固有スキルを持つというアリシア王女ならば王妃の病とやらを治せるのではないか。

 2つ、アリシア王女が治せないとしても、その光の魔術師ってやつじゃなく、力のある回復術師の方がいいんじゃないのか。

 3つ、なぜ、光の魔術師なのか。そもそも、その光の魔術師は生きているのか。生きていたとしてどこに住んでいるのか


 俺はこの疑問をアルベルト王にぶつけた。


「もちろん、アリシアの回復魔法も、力のある回復術師も試した。だが、結果は変わらなかった」


 まぁ、だろうな。そもそも、試していなかったら光の魔術師とかいう選択肢はいきなり現れないだろう。


「じゃあ、なぜ光の魔術師って人なんですか?もっと、別の人や方法があるんじゃ…」

「光の魔術師は、ありとあらゆる魔法に精通すると言われておってな。恐らく、アリシアはその光の魔術師ならばビューラを治せると考えたのだろう」

「なるほど……分かりました。ですが、その光の魔術師ってのがどこにいるか分からなければアリシア王女を連れて行くことも、その人を連れてくる事も出来ません。そもそも生きているかも怪しいですが」


「光の魔術師のいると思われる場所なら僕が知っている」


 イツキとソフィーは、後ろから声が聞こえ振り返ると、マーシャルが立っていた。


「マーシャルさん!なぜここに?」

「なにやら、コソコソとこの部屋に入っていくのが見えてね。つい聞き耳を立てたのさ」

「そ、そうですか……」


 この人なに凄い爽やかな笑顔で言ってんだろ…

 アルベルト王も頭抱えてるし、アリシア王女は引いてるし……


「マーシャルよ、私は時々お前が恐ろしい…色んな意味で」

「これはとんだ失礼を」

「もうよい、それで、光の魔術師の居場所とは?」

「はい、光の魔術師が居るとされている場所はクノンルデア森林。その最奥部です」

「クノンルデア森林……」


 蜘蛛出るんや森林?なんだその、蜘蛛が沢山出そうな所……

 よく分からんが、そこに居る可能性があるのなら行くしかないか……面倒だが王女様直々のお願いだしな。


「クノンルデア森林、凶悪な魔物が住むとされる魔境。でも、どうしてそんな場所に住んでいるんでしょうか」

「勇者と共に魔王を倒したんだ。きっと色んな人にその力を狙われたはずだ。光の魔術師はそんな生活を疎ましく思い、人里離れた場所でゆっくりと過ごしているんだろう」


 なるほど、凶悪な魔物が住む森……めちゃくちゃ行きたくねぇ!なんだよ、その危険そうなところ。マーシャルさんが行けばいいんじゃないか?


「イツキくん、王国騎士団団長の僕は王の命令以外でこの国を離れるわけにはいかない。今回はイツキくんに頼んだよ」


 はい、逃げ道消えた!

 アルベルト王、命令してくださいっ!お前が行け!って


「うむ。マーシャルは王国の警護もある。イツキくん、どうかクノンルデア森林へ光の魔術師を探しに行ってはくれぬか?」


 ……仕方ないか。母親の事を助けたいっていうアリシア王女の純粋な願いだ。

 ここで断ったら男が廃るよな。


「はぁ…分かりました。行きますよ」

「ありがとう、イツキくん!」

「ただし!当然そんな伝説みたいな人見つかるとは思えません。見つからなくても責めないで下さいね」

「もちろんだ。そんなことするはずもない」

「なら、分かりました。やるだけやってみます」


 本当は面倒くさいが、母親を想うあの気持ちだけは無碍にはできない。


「そうと決まればソフィー、そのクロスセイバーみたいな名前の森に行く準備だ!ナタリーやアランにも伝えないとな」

「はい!絶対に光の魔術師を見つけましょう!」

「ならば、せめて今夜はこの城で思う存分英気を養って欲しい」


 出発は明日。目標は、そのなんとかって森に居るとされる光の魔術師だ!

 どんな魔物が待っているか分からないがやるだけやってやる!

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