第12話 世界最強との手合わせ
修練場に降りると、マーシャルさんの手合わせが見れると聞き付けた王国騎士団の面々が続々と集まってきて、あっという間にちょっとした見世物のようになった。
「イツキ殿、今回は安全を考慮し木剣での手合わせだ。万が一怪我をしたとしても回復術師が控えておるため、心配はなさらず」
「は、はぁ……」
え、怪我するかもしれないの?そんな本気で来るのか……嫌だなぁ……相手は世界最強だぞ?ワンチャン死ぬ!
「審判は王国騎士団副団長である、私リズ・ベールが担当します。両者、手合わせであるため、魔法やスキルの使用及び急所への攻撃は禁止とします。手合わせはどちらか一方が負けを認めるまで続けます!……それでは、始め!」
「それじゃあ、行くよ!イツキくん!」
「お、お手柔らかに…」
マーシャルさんは静かで、それでいて力強い踏み込みと共に斬りかかって来た。
ブシュ!
は、速い!今までのどの相手よりも……!ギリギリ回避出来たと思ったけど、そう簡単じゃないか……
イツキの頬からは血が流れていた。
「お、おい、あいつ団長の攻撃を避けたぞ…!」
「ま、マグレだろ、あんな攻撃人間に避けれねぇよ……」
(バカ者どもが、団長の攻撃はマグレで回避できる代物では無い。相手は陛下の御客人、多少手を抜いているとしても、マグレで避けられるものか……!)
世界最強ってのは伊達じゃない。
さっきのは何とか避けられたけど、さらに速い攻撃をされたら避けられるかどうか……
マーシャル・フォード。
世界最強の騎士にして、獅子王アルフレッド・アルベルトの懐刀。
生まれは、平民の家ながら固有スキル剣聖を持ち、その類まれなる才能で若干20歳にして王国騎士団の団長へと上り詰めた真の天才。
数百年に1人と言われる、その固有スキル剣聖と血のにじむ様な努力によって、剣技に置いて右に出る者なしとされている。
また光速の剣技によって、敵も気づかぬうちに斬り伏せるその姿から、世界最強とは別に''雷光''の2つ名を持つ。
というのが以前ソフィーから聞いた話だが、聞きしに勝るとはこの事だ。マーシャルさんの剣技は荒々しく、それでいて静かな物だ。さらには繊細さも持ち合わせている。
先程から避けたと思った斬撃が軌道を変え襲いかかってくる。
「イツキくん、さっきから避けてばかりじゃないか。攻めてこないのかい?」
「言われなくても、これから攻めさせてもらいますよ!」
【縮地】
カーン!!
イツキの姿が消え、木剣と木剣が打ち合う音が修練場に響いたと同時に、衝撃波のようなものが駆け巡った。
「は、速い!魔人相手に使った時よりもさらに!」
「今、一瞬で間合いを詰めたような……」
「や、やっぱりそうだよね、僕にもそう見えたよ」
今のは本気の縮地だったんだけど……反応できるのか……
自らの本気の一撃を受け止められたイツキの顔には驚きの表情は一切無く、むしろ笑みがこぼれていた。
「ふぅ……今のは危なかった。なんだい…?いまのは」
マーシャルは冷や汗を流しながらイツキに尋ねた。
「企業秘密です!」
「答えてはくれないか……」
鍔迫り合いの末、両者後方へと下がり一拍の間も置かずに再び激しい斬り合いへ転じた。
激しく、そして速いその斬り合いを視界に捉える事が出来たのは、この場にいる一部の強者だけだったが、その凄さはその場に居合わせた者全てに伝わり、修練場は熱狂に包まれていた。
(マーシャルとここまでやり合える人間がこの世に存在しておったとは……さらに、イツキ殿はまだ実力を隠しておる。全く、末恐ろしいものだ……)
(イツキ……お前の本気はここまで凄いのか。俺は、まだまだお前の足元にも及ばないかもしれない。だが、いつか追いついて必ずお前を、お前達を守る最強の盾になる!)
(団長に、世界最強にここまで肉薄する者が居るとは…それも、ただの冒険者に…)
イツキ、マーシャル、両者の激しい斬り合いによって、徐々に木剣に亀裂が入り次の一撃が最後になると両者感じ取った。
「イツキくん、楽しかったよ。次でこの手合せは最後になりそうだ」
「僕も楽しかったですよ…」
ジリジリと両者の間合いが近づき、剣先が触れた瞬間、勝負は終わった。
両者の最後の一撃で巻き起こった砂埃が収まり、姿が見えた。マーシャルの木剣は、イツキの木剣を砕き首元にその刃が触れていた。
「ふぅ…参りました」
「そこまで!!勝者、マーシャル・フォード!」
一瞬の静寂の後、その静寂を破るように歓声が湧き上がった。
「「「「うぉーーーーーーーー!!!!!」」」」
「すげぇ勝負だったぞー!」
「団長ー!さすがです!!」
「冒険者のアンちゃんも凄かったぞー!」
この場の誰も、イツキの仲間達も世界最強の勝利を疑っていなかった。マーシャル本人を除いては。
「マーシャルさん、ありがとうございました。さすがに強かったです」
「あ、ああ、僕の方こそありがとう」
マーシャルはイツキと握手を交わした後、周囲の賞賛を避け、回復術師の元へと向かった。
「どうされましたか?お怪我はされていないようですが…」
「念の為だ、ヒールをかけてくれ」
(最後の一撃、イツキくんが止めていなければ、負けていたのは僕だったかもしれない。あの瞬間、僕の剣は確実に彼の木剣を砕いた。だが、木剣を砕くより速く、彼の放った拳は僕に届いていた。彼が寸止めをしていなければ果たしてどうなっていたことか……そして、寸止めしてなおこの威力……全く、なんて奴だ)
腹部を狙い放ったイツキの拳は寸止はされていたが、その拳圧によりマーシャルの内臓にダメージを与えていた。
そんな事は知る由もないイツキは、騎士団に囲まれ称賛を受け、騎士団に入隊しないかと熱烈なスカウトをされていた。
そんなイツキに群がる騎士団を掻き分け、ソフィー達パーティーメンバーがイツキの元へと来た。
「イツキ!俺も負けてられねぇ!俺はいつかお前に追いつくぞ!」
「イツキ凄かったよー!僕なんて何も見えなかった!」
「いや、今回は魔法もスキルも使用禁止だったんだ。何でもありなら負けてたよ」
これは本心だった。固有スキルが無く、未だにスキルも魔法も持たない俺が、何でもありでマーシャルさんに勝てる道理なんてあるはずがない。
はぁ、俺も早く何か欲しい……
ため息をつく俺にソフィーは頬を赤らめながら近づいた。
「イツキさん…と、とてもカッコよかったです……さ、切り傷もありますし、早くヒールをかけてもらいましょう」
回復術師の元までソフィーに手を引かれながら、カッコいいなんて言われ慣れていない俺は、つい顔を背け頬を染めた。
「あれあれ?2人とも照れてるんじゃないのぉー?どう思いますー?アランさん」
「そうだなぁ…あれは黒だな…」
「黒…ですね」
アランとナタリーは2人の反応を見ながら邪推を始めていた。
そんな、様々な声が湧き上がる修練場。その修練場を城の窓から見つめる1人の少女が居た。
「凄い……あの人なら……」
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